第28話 雨の日の相合傘
放課後、急に空が暗くなり、大粒の雨が降り始めた。傘を広げた俺は早く帰ろうと急ぎ足で歩いていたが、ふと前方に美咲の姿を見つけた。
制服が雨で濡れ、肩をすくめながら歩く彼女の姿に胸が痛む。
「美咲!」
声をかけると、美咲が振り返った。雨に濡れた髪が顔に張り付いていて、その姿が少し痛々しい。
「悠真君……。ごめん、傘忘れちゃった。」
「そのままだと風邪ひくぞ。一緒に入れよ。」
俺は傘を美咲に差し出し、彼女が入るのを待った。少し戸惑いながらも傘の下に入る美咲。肩が自然と触れる距離感に、なんだか気まずさを覚えながら歩き出した。
「ありがとう。でも、悠真君まで濡れちゃうよ?」
「大丈夫だよ。それより美咲がこれ以上濡れる方が問題だろ。」
「……優しいね。」
彼女の小さな声が耳に届き、心臓が少し速くなる。
道中、美咲の濡れた制服が気になって仕方ない。風邪をひかせるわけにはいかないと思い、意を決して言葉を出した。
「なあ、美咲。このままだと風邪ひくぞ。うちに寄っていかないか?」
美咲の足がピタリと止まった。驚いた表情でこちらを見上げる。
「えっ、でも……。」
「ごめん、配慮が足りなかったよな。でも、濡れたままだと絶対に良くない。心配なんだ。何もしないから安心してほしい。」
俺が真剣に伝えると、美咲は一瞬考えた後、小さく頷いた。
「……わかった。じゃあ、お邪魔させてもらうね。」
家に着くと、俺は急いで準備を始めた。
「濡れたままだと冷えるから、俺の服を貸すよ。先にシャワーを使って温まってくれ。」
「ありがとう……。」
美咲は少し恥ずかしそうにバスルームへ向かい、俺は部屋着とタオルを用意し、濡れた服を乾かす準備をした。
バスルームからシャワーの音が聞こえる間、なんだか落ち着かない。美咲が自分の家にいるという事実に、妙に緊張してしまう。
しばらくしてバスルームのドアが開き、美咲が現れた。俺の少し大きめのパーカーとスウェットを着た彼女の姿は、普段の美咲とは違ってどこか親しみやすく、可愛らしい。
「服、ありがとう。ふふ、これ、めっちゃ大きいね。」
袖を軽く振りながら微笑む美咲。その無邪気な仕草に、心臓が跳ねた。
「そ、そうだよな。僕の服だから……で、でも似合ってるよ。」
ぎこちなく返すと、美咲が顔を赤らめながら笑った。その笑顔を見て、俺も少し照れながら紅茶を差し出す。
「冷えた体には温かい飲み物が一番だから。どうぞ。」
「ありがとう……。」
美咲はカップを両手で包むように持ち、一口飲む。ほっとしたように息をつくその顔は、どこか安心しているようだった。
「おいしい……。悠真君、紅茶も淹れられるなんてすごいね。」
「バイト先で鍛えられてるからな。美咲に気に入ってもらえたならよかったよ。」
俺もカップを手に取り、紅茶を飲む。二人の間に静かな時間が流れる。雨音が窓越しに響く中、美咲がぽつりと呟いた。
「なんだか、こうして悠真君の家にいるのって、不思議な感じだね。」
「そ、そうか?」
「うん……でも、なんだか落ち着くかも。」
美咲がカップを持つ手を膝の上に置き、俺の目を見た。頬がほんのり赤く染まっているのが分かる。
「悠真君って……本当に優しいよね。こうして助けてもらうたびにそう思う。」
「それは……美咲が大事だからだよ。」
自分でも驚くほど素直な言葉が口をついた。美咲の瞳が揺れ、顔が一気に赤く染まる。
「もう、そういうの……ずるいよ……。」
照れたように視線を逸らす美咲。その姿に、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
二人で紅茶を飲み終えた後も、しばらくは雨音を聞きながら静かに過ごした。このひとときが、何よりも特別なものに感じられる。
(雨の日も悪くないな。)
そう思いながら、俺はそっと美咲の横顔を盗み見た。
今回もお読みいただきありがとうございます!
美咲が男の家でお風呂に入るなんて……えっ、そんな大胆な展開、ラブコメ好きとしてはワクワクしちゃいますよね! 普段のツンとした彼女が見せるこういうギャップ、大好きです!皆さんはどう感じましたか?
ぜひ感想や⭐評価で教えていただけたら嬉しいです!次のドキドキ展開もお楽しみに~!




