第27話 勉強会後のそれぞれの視点
▼橘美咲視点
放課後、カフェの奥まった席で勉強会が続いている。悠真君が隣に座るのは当たり前になりつつあるけれど、今日の勉強会はどうにも集中できない。
(藤崎さん……なんであんなに楽しそうなのよ。)
視界の端に入る彼女の笑顔。それがどうしても気になってしまう。藤崎さんは、悠真君の説明にうなずきながら、時折「さすが先輩!」と声を上げる。そのテンションの高さに、正直、圧倒される。
「先輩、この問題、もう一回教えてもらって良いですか?」
わざと隣に少し身を寄せるようにして話しかける藤崎さん。その仕草に、悠真君が少し照れたように頷くのが見えた。胸の奥が、ちくりと痛む。
(勉強会のはずなのに……なんでこんなに心がモヤモヤする。)
ノートに目を落とすけれど、耳はどうしても二人のやり取りを追ってしまう。すると、藤崎さんが不意にこちらに振り返った。
「橘先輩、さっきから静かですね~。難しい問題に集中してるんですか?」
その言葉に、私は一瞬動揺したけれど、すぐに笑顔を作る。
「そうね。でも藤崎さんも頑張ってるみたいだから、負けられないな~って思ってるの。」
軽く返したつもりだった。でも、藤崎さんの目の奥に一瞬、ライバル心の色が浮かぶのを感じた。
(私だって負けない。悠真君に一番近いのは、私なんだから。)
ノートに視線を戻し、ペンをしっかり握り直す。頭の中で何度もそう自分に言い聞かせた。
▼藤崎麻衣視点
カフェでの勉強会は想像以上に楽しい。悠真先輩の教え方はわかりやすいし、声を聞いているだけで安心する。けれど、隣に座る橘先輩の存在が、どうしても気になってしまう。
(だって……この前、バイト先やショッピングで見かけた時のことが、まだ引っかかってるから。)
あの時、橘先輩はどこか特別な表情をしていた。それに、先輩もいつもより柔らかい雰囲気だった。あの二人の間に、私の知らない何かがある気がしてならない。
「先輩、この問題の解き方、合ってますか?」
あえて身を少し寄せながら、質問する。先輩が真剣に答えてくれるその時間が、私だけのもののように思えてしまう。
「藤崎さん、悠真君に頼りすぎだよ~。」
不意に隣から聞こえた橘先輩の声。その口調は冗談めいているけれど、目は笑っていない気がした。
「だって、先輩って頼りになるじゃないですか!橘先輩も、そう思いません?」
にっこり笑いながら、橘先輩に視線を送る。軽い挑発のつもりだった。悠真先輩の前では、可愛く振る舞いたいし、橘先輩にも負けたくない。
(でも……私だって負けない。)
先輩の横顔を見るたび、胸がざわつく。その感情を振り払うように、ノートに新しい問題を書き込む。そして、先輩を振り返り、笑顔を向けた。
「次、この問題も教えてください!」
▼悠真視点
カフェの空間は穏やかなはずなのに、どこかピリピリとした空気を感じる。美咲と麻衣の間に漂う微妙な緊張感。それをどうにかしたいと思いながらも、うまく間に入れずにいる自分がいた。
(これ、勉強会だよな……だよな?)
麻衣が何度も俺に質問を投げかけるたび、美咲の視線がこちらに動く。そして、美咲が何気なく口にする一言に、麻衣が応じる。そのやり取りが、どこか言葉にできない圧力を生んでいた。
「先輩、本当にありがとう。これで中間テストもバッチリです!」
麻衣が嬉しそうに言うと、美咲がちらりとこちらを見て微笑んだ。その微笑みは優しいけれど、どこか含みを感じる。
「悠真君、私もこの問題、もう少し詳しく教えてほしいな。」
美咲がそう言うと、麻衣が一瞬だけ眉をひそめた。その瞬間に流れる空気の変化に気づき、俺は慌ててノートを開いた。
「よし、じゃあ次はこの問題を一緒に解いてみよう。二人とも、競争してどっちが早く正解できるか試してみる?」
場を和ませるつもりで提案すると、二人が「負けない!」と同時に答えた。その声が重なり、俺は内心で苦笑いを浮かべる。
(どうしてこうなったんだろうな……。)
けれど、どこかそのやり取りが心地よく感じる自分もいて、少しだけ複雑な気分だった。
今回もお読みいただきありがとうございます!✨
勉強会中、二人がそれぞれ何を考えていたのか……そんな視点で描いてみました!普段は言葉にしない胸の内が垣間見える瞬間って、ちょっと特別な気がしませんか?
読者の皆さんにも「あ、そうだったんだ!」と感じてもらえたら嬉しいです。感想や⭐評価をいただけると、次の展開のヒントになるかも!ぜひお聞かせくださいね!




