第21話 二人だけの秘密
「やっぱり悠真君だったんだ……。」
美咲の小さな呟きには、驚きと安堵、そして少しの戸惑いが混じっていた。その声に胸がざわつく。これまで隠してきた自分の正体が明らかになった瞬間だ。
「えっと……その、バレちゃったか。」
ごまかすように笑ってみせたけれど、美咲の視線は鋭かった。軽く膨れた表情が、彼女の中の混乱を物語っている。
「バレちゃった、じゃないよ!」
美咲の声には、いつもの明るさよりもどこか真剣さが滲んでいた。
「なんで今まで黙ってたの?私……ずっと気になってたんだよ。声が似てるなって思ってたし、仕草もどこか同じで……。」
「ごめん……。」
「理由があるんだよね?」
美咲が一歩近づく。その瞳の奥には、責めるよりも、僕の言葉を待つ優しさが宿っていた。
「……色々あって、今はまだ言えないんだ。」
振り絞るようにそう言うと、美咲の表情がほんの少し曇った。
「そっか……。」
静かに落とされた彼女の視線に、罪悪感が押し寄せる。それでも、次の言葉は思いもよらないほど優しかった。
「でも、悠真君がそう言うなら仕方ないよね。」
柔らかく微笑む彼女の顔を見て、胸が締め付けられる。何も知らずに信じてくれる彼女が眩しかった。
「本当にごめん……それに、自信がなくてさ。こんな僕じゃ、美咲の気持ちに応える資格がない気がして。」
自分の中の弱さを吐き出すように言葉がこぼれる。だけど、美咲は静かに首を振った。
「そんなこと……ないよ。悠真君、そんな風に思わないで。」
彼女の声は、優しさと力強さが混ざり合っていた。そして、ふっと視線を落とし、小さな声で続けた。
「私、もっと別の理由で悠真君が私の気持ちを避けてるんじゃないかって思ってた。……だから、安心した。」
「でも、クラスメイトには内緒にしてほしいんだ。迷惑かけたくないから。」
美咲はじっと僕を見つめ、小さく頷いた。
「うん、それは大丈夫。でも……。」
「でも?」
「一緒に帰りたいとか思っちゃうけど……迷惑だよね?」
その言葉に一瞬驚いた。まさか、美咲がそんなことを思っているなんて。
「迷惑なんて思うわけないだろ。」
「本当?」
「もちろん。もし学校で一緒にいたい時があれば、メールしてよ。誰にもバレないように会おう。」
「……内緒で会ってくれる?」
美咲の声が少し震えている。その瞳には期待と不安が交錯していた。
「内緒で会うって、なんか特別な感じだろ?むしろ楽しみだよ。」
美咲が驚いたように目を見開き、それから安心したように微笑んだ。
「ありがとう、悠真君。」
少し静かな時間が流れた後、美咲が思いついたように顔を上げる。
「そうだ!勉強なら堂々と一緒にいられるよね!」
「勉強?」
「うん。図書室で一緒に勉強しようよ。数学も英語も、きっといい練習になるし。」
「それなら問題ないな。じゃあ、次から図書室集合だ。」
「やった!」
美咲が小さくガッツポーズをしてみせる。その仕草が無邪気で、つい笑みがこぼれる。
「笑わないでよ!」
「ごめん、美咲があまりに楽しそうだったからさ。」
「もお、悠真君って、時々ズルいよね。」
拗ねたように頬を膨らませる美咲を見て、僕はまた笑みを漏らしてしまう。
「じゃあ、これからは二人だけの秘密だな。」
「うん、二人だけの秘密。」
美咲がその言葉を繰り返す声には、甘さと特別な響きが滲んでいる。その瞬間、秘密という言葉の意味が、僕たちの間に新たな絆を生んだ気がした。
新年あけましておめでとうございます!✨
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