表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/69

第18話 勉強とドキドキ

「悠真君の高校って、どこ?」


 フードコートの席に着いた美咲が、ストローをいじりながらぽつりと尋ねてきた。声のトーンは軽いけれど、その瞳はどこか探るように僕を見つめている。


「俺の高校?どこだと思う?」


 少し茶化すように返すと、美咲の表情が不満そうに歪む。


「それって、答えたくないってこと?」


「いや、そんなつもりじゃないけど。どうして急にそんなこと聞くの?」


「なんとなく……悠真君って、ちょっと謎が多いから。」


 その言葉に、一瞬だけ心がざわついた。謎――そう思われる理由を自覚しているだけに、その一言が妙に重く響く。


「別に隠してるわけじゃないけどね。普通の高校だよ。」


 当たり障りのない言葉で話を終わらせると、美咲は小さく頷いた。


「ふーん、そうなんだ。まあ、いつか教えてくれるよね。」


 そう言って彼女は微笑む。まるで僕の隠している何かを知っているかのようなその笑顔に、焦りを覚える。


 美咲が持ってきたノートを広げ、僕たちは勉強を始めた。まずは彼女が苦手だと言っていた数学から教える。


「この公式をこうやって当てはめると、簡単に解けるよ。」


「えっ、本当だ!すごい、わかりやすい!」


 美咲が目を輝かせて頷く。その純粋な反応に、つい笑みがこぼれる。


「教え甲斐があるな。美咲って、意外と飲み込み早いんだね。」


「そんなことないよ!悠真君の教え方が上手なだけ!」


 そう言って微笑む彼女の顔が、どこか子供みたいに無邪気で、少しだけ胸が温かくなる。


 お互いに教え合いながら進めるうち、時間が経つのを忘れるくらい集中していた。美咲が何かを理解した瞬間に見せる笑顔は、見ているだけで嬉しくなる。


 夕方、フードコートを出て駅に向かって歩き出した。夕陽が街をオレンジ色に染め、影が長く伸びる。


「今日はありがとうね。すごく助かったよ。」


「いや、俺の方こそ楽しかったよ。美咲に英語教えてもらえたし。」


 そんな会話を交わしながら歩いていると、不意に彼女が足を止めた。


「悠真君……手を繋いでもいい?」


 その言葉に、思わず目を見張る。彼女の表情は真剣で、けれどどこか恥ずかしそうに頬を赤らめていた。


「えっ、どうして?」


「別に深い意味はないけど……ただ、今日はすごく楽しかったから、なんとなく……。」


 その声はか細く、消え入りそうだった。僕は彼女の真剣な瞳を見て、静かに頷いた。


「じゃあ、いいよ。俺たち友達だし、普通のことだよな。」


 そう言って差し出した手を、美咲がそっと握った。その手は少し冷たく、でもどこか温かかった。


 歩き出した僕たちの間には、不思議な沈黙が続いた。けれど、それは決して居心地の悪いものではなく、むしろ心地よい静けさだった。


「悠真君……その、私たちって本当に友達なのかな?」


 ふいに彼女が呟いた。その言葉に、胸がドキリと鳴る。


「え?どういう意味?」


「なんでもない!忘れて!」


 慌てて首を振る美咲の顔が赤く染まっているのは、夕陽のせいだけではないはずだ。


 その時、後ろから誰かの声が響いた。


「美咲!」


 振り向くと、そこには見覚えのある人影が立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ