第16話 勉強会の提案
バイトの閉店準備を終えた頃、麻衣が少し遠慮がちに声をかけてきた。
「先輩……少しお時間、いただけますか?」
その言葉に僕は軽く頷き、麻衣と一緒に店を出た。近くの公園まで歩き、ベンチに座ると、麻衣は少し俯きながら口を開いた。
「実は……中間テストが近くて。勉強、全然進んでないんです。」
麻衣の声には、自分に対する苛立ちや不安が滲んでいた。
「テストか。どの科目が苦手なんだ?」
「数学と物理です。なんというか、問題を見るだけで頭が真っ白になっちゃって……。」
彼女が悔しそうに唇を噛む。その姿を見て、僕は軽く笑いながら言った。
「それなら教えてやるよ。数学と物理なら割と得意だし。」
「えっ、本当ですか?」
麻衣が驚いたように顔を上げる。その瞳には期待の色が浮かんでいた。
「本当だよ。バイト終わりとかで良ければ、コーヒーでも飲みながら一緒にやろう。」
「ありがとうございます!先輩が教えてくれるなんて……心強いです!」
麻衣が満面の笑みを浮かべる。その笑顔がどこか安心感を与えてくれた。
夜風が頬を撫でる中、僕たちは駅へ向かって歩いていた。麻衣が隣で何か言いたそうに口を開きかけては閉じるのが、気にならないはずもない。
「何か言いたいことでもあるのか?」
僕が尋ねると、彼女は一瞬だけ躊躇した後、小さな声で呟いた。
「……先輩、手を繋いでもいいですか?」
その言葉に、思わず立ち止まった。麻衣の表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。
「ん?別にいいけど……なんで急に?」
「最近、自分が一人ぼっちな気がして……でも、先輩といるとそんな気持ちが少し楽になるんです。」
彼女の言葉は消え入りそうだったけれど、その中に隠れた本音が胸に響いた。
「そっか。じゃあ繋ごう。」
僕は軽く手を差し出す。麻衣は少しだけためらった後、そっと手を握った。その手は冷たかったけれど、不思議と温かさも感じられた。
「ありがとう、先輩。」
彼女が小さな声でそう言った時、僕は何も言わず歩き出した。麻衣の手のぬくもりが、心に静かにしみ込んでいく。
家に帰り着くと、スマホが振動した。画面には「橘美咲」の名前が表示されている。
「美咲……?」
急な着信に少しだけ驚きながら通話ボタンを押すと、彼女の声が耳に届いた。
「悠真君、今大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。どうした?」
「ちょっと話したいことがあって……時間あるかな?」
美咲の声には、普段の明るさとは違う微かな緊張が感じられた。その響きに、僕は少しだけ胸がざわつくのを感じていた。
今回もお読みいただきありがとうございます!✨
勉強って本当に大切ですよね。何が大切かって?結果を出して初めて評価されるからだと思います。努力はもちろん大事。でも、結果が伴うことで、その努力が報われる瞬間が来るんですよね。
麻衣ちゃんも、その結果を出そうと一生懸命もがいています。そんな彼女の姿に共感したり、応援したくなったりしませんか?感想や評価で、ぜひ彼女へのエールを届けてくださいね!