第15話 教室での違和感
昼休みの教室は、いつものように賑やかだった。
窓際の席で一人、本を開きながら周りの様子をぼんやり眺める。机を囲んで話し込むグループやスマホゲームに夢中な男子たち。みんなそれぞれ楽しそうに時間を過ごしている。
一方で、僕はいつものように一人。本に目を落としているけれど、内容はほとんど頭に入ってこなかった。
別に寂しいわけじゃない……と、自分に言い聞かせる。
もう慣れているはずなのに、クラスの笑い声が耳に入るたび、胸の奥で妙な違和感が広がる。
(僕も……誰かと話してみたいと思ってるのかな。)
ふいに浮かんだ独り言が、自分でも驚くほど切実に聞こえた。
その時、担任の先生が教室に入ってきた。
「白石、橘、ちょっと職員室に来てくれるか?」
突然名前を呼ばれ、教室が静まり返る。視線が一斉にこちらに向けられるのがわかる。
「え、橘さんが呼ばれるなんて珍しい。」
「白石って誰だっけ?」
小声で交わされる会話を聞き流し、僕は静かに席を立った。先生の後ろを歩き出すと、橘さんが隣に並んだ。
「白石君、初めて話すと思うんだけど……。どこかで私と話したことある?」
不意に彼女が問いかけてきた。声に驚き、隣を見ると、橘さんがじっとこちらを見ている。
「いえいえ、今が初めてですよ。」
「そっか。なんだろう……変なこと言っちゃったかも。」
「そんなことないです。本当に気にしないでください。」
彼女は小さく笑い、「ありがとう」と呟いた。その笑顔は控えめで、どこか柔らかい。
職員室での用事は数分で終わり、再び廊下を歩き出す。
ふと、橘さんがこちらを見て小首をかしげた。
「白石君って、なんか声が聞き覚えある気がするんだよね。」
「そうですか?特別特徴がある声ってわけじゃないと思うけど。」
「うーん……そうなんだけど、不思議だな。どこで聞いたんだろう。」
橘さんの視線が真っ直ぐすぎて、僕は思わず目をそらした。
「まあ、声なんて誰かと似てることもあるし。」
軽く笑いながら流すと、彼女は「そっか、そうだよね」と小さく頷いた。
教室に戻る頃には、昼休みも終わりかけていた。
橘さんは僕に向き直り、控えめに微笑んだ。
「さっきはありがとうね。白石君、案外話しやすいんだね。」
「そうですか?橘さんが気を遣ってくれてるだけじゃないですか?」
動揺を隠すように軽く返す。それでも、彼女の声が耳に響くたび、胸がざわざわしてならなかった。
「そんなことないよ。本当だよ。」
橘さんはまっすぐに僕を見つめた。その瞳の中に、ほんの少しの違和感や迷いが浮かんでいるように感じる。
心臓が早鐘を打つ。もしかして、彼女が僕の正体に気づいている……?
「白石君って、少し不思議だね。」
「えっ、不思議って、どんな風にですか?」
冷静に答えたつもりだったけれど、声がほんの少し上ずった。
「なんだろう……なんか、たまに話してる感じが悠真君に似てる気がして。」
瞬間、全身が固まった。
彼女の言葉が胸の奥をざわりと揺らす。
「悠真君……ですか?」
「あっ。悠真君というのは、私の知り合い。もちろん知らないと思うけどね。でも、ちょっとだけ声が似てる気がして。」
橘さんは微笑みながら首をかしげた。その無邪気な仕草が、逆に僕の焦りを加速させる。
「声なんて、似てる人もたくさんいますからね。きっと気のせいですよ。」
できるだけ自然な笑顔を作り、さらりと流そうとする。
「そうかな……ごめんね、変なこと言っちゃって。」
「いえ、全然気にしないでください。」
彼女が席に戻る姿を見送りながら、胸のざわつきは消えなかった。
(まさか、美咲にバレるなんてこと……ないよな?)
橘さんの瞳の奥に潜むわずかな疑念……。
それが本当に「気のせい」なのか、それとも……。
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