陰謀の見え隠れ
店の駐車場に車を停め、車の中で、二回目のフィンランディアを聴いていると、一台のタクシーが店の前に止まった。山本が到着した。小泉は惜しそうにエンジンを切り、店へ向かった。
「おお、早かったな」
山本が言うと、小泉は笑った。
「面白そうな話題を掴んだんだろ。そりゃ飛んでくるさ」
「まだ、本当かどうか分からないぞ。まあ、中で話す」
二人で中に入ると、山本が思い出したように話しかけてきた。
「そう言えば、福田は?」
「あぁ、連絡もらったのが別れた後だったから、わざわざ呼び戻すのは可哀想だったから今日はいない」
「なるほどな」
山本は生ビールを注文し、小泉は烏龍茶を注文した。乾杯を終えると、小泉は早速話を切り出した。
「あれ、どう言うことだ?」
「まあまあ、慌てなさんな」
山本は、ビールで喉を潤してから、先程より小さな声で語り出した。
「半年前に、多摩エリアの道路を増幅と新設する計画があっただろ」
「あぁ、中央道が混雑するからってやつか」
「そう、あれの建築資材の運送を担当している会社はどこか知っているか?」
「さぁ、考えたこともないけど、それが何か」
「その会社がウチだったんだ」
「え、嘘だろ」
まさかの事実だった。
「本当だ。その証拠にウチの営業利益はどんどん増えている」
「でも、他の会社も担当してるだろ。いくらなんでもウチの会社だけで賄えるのか」
「ウチだけだ」
小泉は、大きな衝撃を受けた。
「で、それが、横山とどんな関係があるんだ」
「大アリなんだ。当時のこの工事を推進していた政治家誰か知ってるか」
「さぁ、政治はよく分からん」
「一ノ瀬幸一だ」
「一ノ瀬幸一?どっかで聞いたことある名前だが、思い出せんな。有名人か?」
「有名すぎる。今の国土交通大臣、誰だと思う?」
「え、まさか」
「そのまさかだ」
どこかで聞いたことがあると思っていた。それは、毎日耳にしていた総裁選挙の候補者だった。
「で、そいつがどうしたんだよ」
「聞いて驚くなよ。同じ学習院大学生で、一ノ瀬と横山は同級生だったんだ」
「ええー! 嘘だろ」
「ちょ、声がでかいし本当だ。俺も驚いたんだ」
まさか、横山が国土交通大臣と繋がっていたなんて。いや、もしかしたら今も繋がっているはずだ。
「でも、実際に繋がってる証拠はないんだろ」
「証拠はない。けど、当時横山は営業部次長だ。繋がるとしたら、ここからだと思う」
「じゃあ営業部長も知ってるのか」
「恐らく。もしかしたら、役員の中にも知っている奴はいるかもしれない」
役員の承認を得なければ、この話は進まなかったはずなからだ。
「それってやばくないか」
「めちゃくちゃやばい」
「どうする、ずみさん」
「放っておいたら、どうなる」
「あとあとバレるだろう。この会社の信頼は一気に崩壊するだろう」
「どうしたらいい」
「内部告発だ」
「内部告発って、役員は知ってるんだろ。揉み消されるぞ」
小泉は、内部告発という単語を聞いて、いよいよ緊張感を感じてきた。
「全員知っているかどうかは分からない。あと、上層部に告発じゃなくて、マスコミにする方法もある。ただ、内部告発するには確固たる証拠がいる。今は焦らずに証拠を集める方がいいと思う」
「そうだな。やるか?」
「俺はやる。こんな会社に勤めてたのが馬鹿らしくなる」
相変わらず真面目だ。しかし、小泉は山本を尊敬せざるを得ない。
「明日、福田にも言う」
「ああ、改めて三人で話し合おう」
二人は、残りの料理を平らげ、飲み干した。二人で店を出て、小泉の車で山本を送り、その後帰宅した。
新月に近く、一等星が遠くの空で瞬いていた。
家に帰ると、和美が風呂から出るところだった。
「あ、おかえりさい。ご飯は食べたんでしょう?」
「ああ、食べてきた。はいこれ」
「なにこれ、お菓子?」
「上司にもらったんだ。奥さんの友達から貰ったらしい」
小泉は、袋に入ったラング・ド・シャを和美に渡した。
「やったー! 紅茶でも飲む?」
「お、いいな」
和美は、ワクワクしながら紅茶を淹れている。
二人でテーブルに座ると、和美がニュースを観始めた。小泉は、気になって聞いてみた。
「一ノ瀬ってどう思う?」
「一ノ瀬? あー、国交大臣の?」
「そう」
「さぁー、顔はいいけど世襲だし嫌いだわ」
ばっさり斬られて、小泉は笑った。
「そうか」
和美がラング・ド・シャの袋を開けると、小泉は紅茶を飲みながら、内部告発についてスマートフォンで検索していた。