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新たな荷物

 水曜日は、中央道が混雑していたため、作業の終了時刻が三十分ほど遅れた。吉川と徳山、和田、福田と平井で急いで終わらしていると、横山が熊瓦を伴って歩いてきた。

「おいおい、チミたち。明日から、荷物の予想個数が増えるそうだ。今日みたいにチンタラするなよ」

 相変わらず横山は、鼻につく話し方をする。

「ま、これは取引先の計画が変わったので仕方がないことだ。可及的速やかに作業を行ってくれたまえ」

 一同が返事をすると、横山が鼻を鳴らし、熊瓦の後を必死について帰っていった。

「わざわざ、横山まで来なくていいのにな」

 福田が苛立ちながら言った。

 それぞれ、帰路について数十分後。小泉の元に、一通の電話が掛かってきた。車をコンビニの駐車場に停め、通話に出た。和田からだった。

「はい、もしもし」

『まずいことになった。ウチから不正送金された際の領収書が削除されている」

「え?」

 束の間、沈黙が降りた。

「どう言うことですか」

 小泉は振り切って声を出した。

「そのままの意味だ。誰かが消した」

「そんなバカな」

「原本やコピーは誰かが持っていると思う。処分されている可能性もあるが・・・・・・」

「経営状況報告書は大丈夫ですか?」

「ああ、こちらは大丈夫だった。念の為コピーも取ってある」

「分かりました。どうしますか」

「この後、会えるか」

「はい。山本と福田にも聞いてみます」

「頼んだ」

 小泉は、急いで二人に連絡した。山本は来れると言ったが、福田は終電が無くなるとのことで断った。

 いつも三人で会っていた居酒屋に和田を招き、会議を始める。

「どういうことなんでしょう」

「分からないが、恐らくこの事実を上の誰かが勘付いたのだと思う」

「でも誰が・・・・・・」

「あの限られた人間しか見られないデータベースは、誰かがログインすると、社長、副社長、専務、常務、本部長、支店部長にメールが届くシステムになっている」

「社長の鳩山、副社長の中川、専務の五十嵐、常務の八重樫、支部長の大石と、業務統括部長の熊瓦か」

 和田が改めていうと、小泉はそれぞれの顔を思い浮かべてみたが、鳩山と熊瓦の顔しか見たことがないということを今更悟った。

「多分、熊瓦が怪しいな」

 小泉が鼻を掻きながら言った。

「何故?」

 山本が問う。

「だって、あいつの隣にはいつも横山がいただろ」

「なるほど、確かにな」

「では、その中で一番怪しいのは、熊瓦か」

 和田が画面を睨みながら唸った。


 三人で、話し合った結果、まだしばらく大学生組の偵察に頼ることにした。下手に動いて、証拠を消滅させられたら一巻の終わりだ。

 既に、相手も動いている。これ以上は、悟られてはいけない。

 

 翌日、大学生にそのことを話し、徹底的に常務の動きを見張らせた。大学生らも俄然やる気が出たようで、快い返事をしてくれた。

 福田が、昨日のことを聞いてきたので答えると、やはり熊瓦が怪しいと思っているそうだ。

「福ちゃんもそう思うのか」

「あー、なんかそんな気がしてたんだよ。あいつの隣にずっといるしなぁ」

 理に適った説なので、小泉も納得している。


 山本から新たに連絡が来たのは、その日の十八時過ぎだった。


『そっちの荷物は増えてるのか?』


 そう言えば、横山がそんなことを言っていた。

 吉川に聞きに行くと、若干増えている気もするが、あまり分からないとのことだった。そんな急激に増えられても困る。

 増えてくれなくて良い。

 そんなことを考えていると、一台の大型トラックが駐車場に入ってくるのが窓から見えた。ウチの会社のトラックではない。委託しているトラックもあるが、あの会社のトラックは初めてみた。

 二台から下ろされる荷物を見てみると、冷蔵商品が大量に下ろされてくるのが確認できた。

「今更くるのか」

 そう思いながら、和田の方を見た。相変わらず、ぼーっとしているが、これは和美曰く何かを考えている時の和田らしい。妻経由の情報は意外に役立つのだ。

 例の冷蔵商品が運ばれてきた。箱の印刷を見ると、初めてみる会社のロゴが書いてある。五十センチ四方の段ボール箱が千個はあるだろう。同じ二台目のトラックが入ってきていた。

 今日も遅くなりそうだ。


 この日から、数日に渡って同じように五十センチ四方の段ボールが毎日千五百個ほど、小泉の部署を通過していった。

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