3 「不思議の国のアリス」の世界
ーー次の日、メロスら3人からお礼の品をいただいたのだが、みかが、
「お礼を言われる筋合いはない。」
と、きっぱり断ってしまったので、今に至る。
私達は今、「不思議の国のアリス」の世界でティーパーティーを楽しんでいたところだ。
「うわあ⁈ 何このお菓子、色と味がとっても不思議!」
私は、マカロンとシフォンケーキを混ぜ、上にピンク色のいちごを乗せたような可愛らしいお菓子を頬張った。
ああ、ここにスマホがあったら、絶対写真を撮るのにな。というかそもそも、この世界には電波とかあるのだろうかーーなんて、考えてみる。
「かあーっ! うめぇ‼︎」
みかはというと、ここに来てまさかのワイン(のようなもの)を勢いよく飲んでいた。
しかも、かなりの酒豪。思わず笑ってしまう。
そういえば、私はみかと旅に出てから、笑顔でいることが増えたように思う。こんなに楽しいのは久しぶりだ。まるで、子どもの頃に戻ったかのよう。
(この旅が楽しいな、ずっと絵本の中にいられたらいいのに)
正直に言うと、私はあの家に戻りたくなかった。家族のもとにも、帰りたくなんかない。
ひょっとしたら、今目の前にいるアリスも、私と同じような気持ちになっているのかもしれない。
ーー夢は、人間が求めていることを具現化したものだという説がある。
理科の教師が言っていたことをふと思い出す。
アリスは、長い不思議な夢から覚めてしまった後も、度々この夢を見ているのだそうだ。
だから、つまりは。
「ねーえぇ、繋ぃ、前から思ってたけどォ、あんたんとこのおじいちゃんのぉ、セイジは元気ィ?」
ひっく、とべろんべろんに酔ったみかが急にそんなことを尋ねてきた。
私は、アリス達にお見苦しいところを見せてしまったと思ったが、彼女らはみかに促され、事前に席を外していたようだった。
「実はね、」
「おじいちゃんは今、長い長い眠りについているの」
みかがニヤリと笑う。
「ふう〜ん? なんだか含みのある言い方ねえ、もしかして」
全て言い終わる前に、ビュウウウと突風が吹いてきて、驚く私達を巻き込み、はるか彼方へと連れ去ってしまった。
耳元で、パララ……とページのめくれる音がする。