ハルオくんと新学年のゆ・う・う・つ
新学年初日の恒例行事といえば…、自己紹介に決まっている。だいたい。
席はたいていアイウエオ順になっているから、もちろん「ア」で始まる名前の安倍ハルオくんは、たいていトップバッターに指名されるってことになる。
「じゃあ、安倍から…」
(うーん、予測済みのこととはいえ、僕は、毎年、この日が一番緊張する。…まあ、練習通り、特に奇をてらわず、無難にやり過ごそう。)
「…安倍ハルオです。趣味は、…カエルカードをひくことです」
“何それ?” “カエルカード?” “知ってる?” “知らない”…などなど、ちょっと大きめのヒソヒソ声が聞こえてきた。ハルオくんが撃沈しそうになった瞬間、
“クスっ♪”という、優しそうなこぼれ笑いが感知された。ハルオくんが隣を見ると、超キラっキラの美少年と目が合った。
(え! 誰? 初めて見る顔! しかも、僕の人生において、ダントツ1位の超イケメン! しかも、満面、さわやかスマイル! まぶしーぃ!)
(うちの学校にこんな男子いたかな? いたら、とっくに噂になってるよな。男の僕でも、目が合っただけに顔が赤くなりそう…。女子ならどうなる…?)
ハルオくんが、あれこれ、思いを巡らせている間に、隣の彼の番になった。彼が後ろを振り返った瞬間、
「きゃー!」
「うそー♡」
「信じられない!」
「やば―っ♡」
…などなどの声が、一斉にあがった。
(やっぱ、そうなるよな。)
「菅原ドウマです。転入してきたばっかりですので、いろいろ教えてください! よろしくお願いします!」
「はーい♡」
「任せてー♡」
「何でも言ってー♡」
…などなど、ハートがたくさん飛んできた。
(そりゃ、そうなるよな。…菅原くんっていうのか…」
ハルオくんが、ぼんやり、彼を見つめていると、彼が“ニコっ!”と見つめ返してきた。
(え…、やっぱり顔が赤くなりそう…)
ハルオくんが、ドウマくんと目があって、赤面せずにいられるようになるのは、まだ先のことなんだな。