ハルオくん、呪われる
たくさんの作品の中から、目にとめてくださって、本当にありがとうございます!
安倍晴明の一族が、代々特別な力を引き継いでいたらいいなぁという願いを、ハルオくんに託しました。
ここは、ある有名な一族の末裔が住むところ―。
時は、夜中の3時。
「うっ、ぅぐわぁーっ‼」
胸に激痛を感じてベッドから転がり落ちたこの少年は、安倍ハルオくん。本日から、洛洛高校の2年生。
本当は、「ハルオ」ではなく、「晴尾」なのだが、「尾」という字が、馬鹿にされそうで嫌なため、「ハルオ」と名乗っている。
「い…痛い、う…うぅ…」
「何事だっ! ハルオ!」
部屋に駆け込んできたのは、ハルオくんの父、安倍晴鳥さん。
「い…痛い。…まるで、胸に…燃えている…杭を…打たれた…みたい…、うぅ…」
ハルオくんは、超痛い上に、息も苦しいようだ。
「どれ、見せてみろ!」
晴鳥さんが、ハルオくんのパジャマの胸元を開くと、そこには“禁”という赤い文字が、鮮やかに浮かび上がっていた。
「こ…これは、呪いだ…」
「の…呪い? …い…痛い…うぅ…」
「見てみろ! この文字を!」
ハルオくんには自分の胸は見えにくいし、痛みで、そんなものを見ている余裕はない。
(呪いなんて…。僕は、人生において、人に呪われるようなことをした覚えはないぞ。…それなのに、痛すぎる…。痛い…痛い…痛い……何とかして…)
「大丈夫だ。ちょっと待て」
晴鳥さんが、ハルオくんの胸を押さえて、何かを唱えると、たちまちに痛みは消えた。
「あれっ、嘘みたい! もう、痛くない!」
「フフッ、そうだろう♪ わたしにかかれば、この程度の呪いなど、何てことはない♪」
そう―、皆さんはすでにおわかりだろうが、この親子は、今でも史上最強と言われる陰陽師、安倍晴明の子孫である。
「…」
晴鳥さんは、無言になって、考え込んだ。
「どうしたの?」
「文字が…消えていない」
「そう?」
ハルオくんが視線を下げると、なんだかよくわからない…ピンク色の文字らしきものが見えた。
「“禁”の文字が赤からピンクに変わって、可愛らしくなった…♡」
ハルオくんにはよく見えないが、
「可愛いなんて困るよ! 何とかしてよ!」
晴鳥さんは、何やらニヤニヤしている。
「このピンク色からは、邪悪なものは感じられない。むしろ、ピュアな…何となく、乙女の恋心のような…」
「ない! ない! ない! そんなこと、断じてない!」
ハルオくんは、激しく、首を振った。
「そうか? この“禁”の文字からは、何かジーンと胸にくるような、強く清らかで一本気な感じが伝わってくる。これは、…“恋の呪い”だな」
晴鳥さんは、ますますニヤついた。
(僕は、人生において、女子をフったことはもちろん、コクられたことも一度もないぞ。)
「まあいい。そのうち、誰に呪われたのかわかるさ。それまでのお楽しみだな♡」
「僕は、楽しくない」
(そうだ。今日から新学年が始まるっていうのに、1日目から早々に呪われるだなんて…)
「身体のほうはもう心配ないと思うが、念のために、帰りに晴夜くんの所に行って、診てもらったらいいだろう。呪いのほうは、誰に呪われたかがわかれば、お父さんが何とかできるだろうから、すぐに言いなさい」
「うん、そうする」
「じゃあ、もう寝なさい」
「眠れないよ」
「ウキウキして?♡」
「違う!」
「お・や・す・み♡」
(おやじ、楽しんでるな。でも、僕は楽しめない。だって、呪いだなんて、…怖い!)
この呪いが誰によってかけられたものなのかをハルオくんが知るのは、ずっと後のことになるんだな。
現在(2024年4月)放映中のNHK大河ドラマ「光る君へ」に、ユースケ・サンタマリアさんが、安倍晴明役で登場されています。ドラマ内で、晴明は、「あべのせいめい」ではなく「あべのはるあきら」と呼ばれています。