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ツインレイ・オブ・スターシード  作者: 露藤蛍
MISSION:2 Awakening the White witch
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幕間 ま、喜びそうだからよしとするか

「いやぁー、災難だったねドミニク君! んで? どうだった訳?」


 アウロラに帰って数日。メンテナンスに出していたクラウィスの最終調整を行う折、妙に上機嫌な奏に問われ、ドミニクは首を傾げた。


 どうだった、と聞かれても、タイトロープ島での件は、いろいろとありすぎて返答に困る。


「……どうだった、とは」

「そりゃあれだって! シャルロットちゃんとガチバトルしたんでしょ? その感想!」


 作業台に向き合っていた奏は、ワークチェアをくるりと回転させてドミニクに向き直った。


 足を組み、表情はどこか悪だくみでもしているかのようだ。主に新装備の開発や整備を行っている奏としては、交戦した本人から生の言葉も聞きたいのだろう。報告書で足りないのは、彼女の貪欲さの表れだ。


「……御免被る。二度と刀は向けたくない」


 言って、ドミニクは愛刀の柄をそっと撫でた。


「ちなみに、勝率はどのくらいだと思ってた?」

「……あいつ、意外と油断するからな。トランス状態で理性が働いていないなら、慢心してるから勝てる自信があった。八割くらいか」

「ドミニク君としては?」

「あいつを抑えることより、オーウェンを殺させないよう注意を引き付ける必要があったことと……加減を間違えて、殺してしまうことが心配だった」


 ドミニクの振るう刀は、人間に振るう威力ではない。そもそも妖刀で、切れ味はほぼ落ちず、刃こぼれもしない。魔力伝導率が極めて高く、異質な性質を持つドミニクの魔力を限界まで抱え込んでも自壊しない。その分、魔剣技を使用する際に莫大な量の魔力が必要だが、それに比例した威力を持つ。


 斬ると決めた相手を斬る得物だ。寸止めしても、振るった魔力の余波で魔性火傷を引き起こす。


 対人戦で使うなら、魔剣技を封印して技術だけで戦うことを選ぶ。或いは刀を抜こうともしないだろう。シャルロットに対して居合を使ったのは、防御さえすれば彼女が耐えきれる算段が付いていたからだ。


「長引かせたくなかったから居合を使ったが……あれ以上は、俺のメンタルが持たなかった」


 別に、普段は隠されているから見えないだけで。そんな奴だろうと分かってはいたけれど、実際本性を露わにしたシャルロットと対峙すると、ただの狂人にしか見えなくて。


 ()()()()()()()()()()、と。


 人としての道徳と、癌としての本能の両方が、彼女を殺す事を望んでいた。


 その衝動に耐えきれたのは、ドミニクの屈強な理性と、普段のシャルロットを知っているが故だ。


 あれが初見だったなら、間違いなく異常者として斬り捨てていた。


 一度でも、ほんの一瞬でも〝人間を殺す〟ことが頭を過ぎれば。一瞬でその方向へ考えがシフトしてしまう。


 思ってしまえば止まらない。ポントス島の海底ドックでも、タイトロープ島でのシャルロットとの交戦でも、よく堪えた方だと思う。


 ──悪性細胞が疼くのだ。理性も心も引き千切って、背中と首周辺の悪性細胞が、勝手に体を動かしてしまうような。


「ん? あぁごめん、聞きたかったの、そういうことじゃなくってさ。ごめん、変なこと言わせちゃったかな」

「……じゃあ、何を?」

「シャルロットちゃん、トランス状態のときに小型の魔杖作って遠隔操作してたって話じゃん? あれの話を聞きたくて」


 どうやらシャルロットと交戦した感想、というのは、ドミニクが思っていたのかではなく、彼女の戦闘スタイルに関してだったらしい。


 思い出したくないことを思い出してしまった。少しだけ肩を落として、ドミニクは考える。


「じゃあそれが目的だと先に言ってくれ……しかし、あの魔法小銃ライフルビットか」


 元々は、ポントス島で交戦した癌兵器の子機から着想を得たものだろう。


「……大変だったな……」


 感慨深く、ドミニクは呟いた。


 突貫とはいえ詠唱つきの固有魔法。形態変化は銃と盾だけ確認したが、様々な用途に使えるのは明白だ。


「魔杖自体を大型化させて盾にしたり、標的の周辺に展開させて多角的な射撃をしたり……シャルロットが使い慣れれば、もっと多彩な動きができるだろう」

「へー、多目的マルチビットってとこ? めっちゃ面白そうじゃん」

「その認識で間違いないな。問題は、魔杖の構築にも操作にも魔力を使うから、平時のあいつでは恐らく固有魔法の発動自体ができないことか」


 トランス状態での余剰魔力を固有魔法に回しただけだ。加えて、全身の魔導機器が使用不可だったので、魔杖の操作に集中できたのもある。


 四本の魔法小銃を操りつつ、術者本人は別行動など、普通に考えて無理だ。


 魔力操作の達人で、魔導機器五つの並行使用という常人では考えられない芸当を見せるシャルロットであっても。遠隔操作なのだから尚更、処理する情報量が多すぎる。


「へー……ドミニク君は、無理だと思う?」

「牽制に手数に、使えたら便利だとはあいつも思うだろうが。いくら何でも無理だろう」


 現実的な意見を言ったつもりだ。


 ただ、奏はニヤリと笑うと、ワークチェアを反転させて作業机に向き合い、紙と鉛筆をデスクの隅から引っ張り出した。


 そのままガリガリと一心不乱に書き殴っているようだ。一体何を。


「無理だって言われるとさぁ……ぶち壊したくならない?」


 上機嫌で半笑いなのが隠せていない。ドミニクがデスクを覗くと、既に二枚目に到達した紙に、さらさらとアイデアが描き連ねられている。


 全て魔導器のデザインだ。それも短杖の。手に収まる小型のものから、細長いもの、ドーナツ状のものまで様々。


「シャルロットちゃんさぁ、今停職中でしょ? その間に魔杖の試作品できてたら、びっくりすると思わない?」


 シャルロットはまだポントス島で絶対安静の最中である。オフィスに戻って来るにしても、まだ一か月以上は時間があるだろう。


 まさかその間に、彼女の固有魔法で使う魔杖を魔導機器にしてしまおうと?


「……術式の類は分からないんだが」

「いーのいーの大丈夫! 魔導銃と……ヒューネラルサルートと仕組みは一緒だよ、シャルロットちゃんにとって魔導機器はただのサポートだもの。組み込んだ術式は魔力増幅が主だし、魔導銃の方に弾種切り替えの機構を取り入れただけだよ」


 どうやらエンジニア魂に火がついたようだ。アイデアを書き連ねる傍らでデバイスを立ち上げ、魔導機器の改良に使ったデータを引っ張り出しているらしい。


「ガントレットと魔導銃とバトルブーツ、アレの修理を優先した方がいいんじゃ」


 ドミニクは言いながら、整備待ちのラックに収まったままのシャルロットの武装を眺めた。


 肩に装備する魔力増幅器兼ジェネレータの魔導ガントレット。主に身体強化と魔法障壁の発動に使うバトルブーツ。各種魔弾を放つ魔導銃。全てミアによるインジェクションアタックで動作不良に陥っている。

 内部の術式も大幅に書き換えられているので、改良も兼ねた修理に時間がかかる──そう説明したのは、他ならぬエンジニアの奏だったはずだが。


「だいじょぶ。今対応するのはシャルロットちゃんの武装だけだし、あっちは気分転換にやるから」

「気分転換?」


 返事をオウム返ししたドミニクに、奏は思いきりワークチェアを反転させて向き直る。


 びし、と手に持ったえんぴつの柄をドミニクに向け、はしゃぐように言った。


「新作造ってるときに煮詰まったら、修理に戻って気晴らしするの! そうした方が両方進むし!」


 魔導機器のメンテナンスと、新しい魔導機器の開発と。交互にやることが気分転換とは、これ如何に。


「いやぁ~、びっくりするだろうなぁシャルロットちゃん。どんなふうに使ってくれるかなぁ~!」


 そのままワークチェアを一回転させ、作業に戻る奏。


 相棒としては、元々手数の多いシャルロットに、更に攻撃方法が増えるのは好ましい。好ましいのだが。


 一つ一つを分割で制御するなら、合計九つ。そうでなくとも六つの魔導機器を同時に使用することになる。そんなことが可能なのだろうか。



 後日、そんなドミニクの不安は一瞬で払拭されることを、先に記載しておく。


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