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ツインレイ・オブ・スターシード  作者: 露藤蛍
MISSION:2 Awakening the White witch
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第四章 偽悪×偽善=照応依存 5

 男から聞き出した部屋に到達するまで、やはり人間とは出会わなかった。元々駐在している人数が少ないのだろう、灯りをともさないまま、オーウェンの私室に置いてあったタブレットを起動する。


「これ、さっきみたいにロックの解除は?」

「奴の私物だ、できんだろうな」

「じゃあ私がやりますね」


 机に取り付けられたタブレットホルダーに差し込むと、ホログラムディスプレイが投射される。画面に映し出されたのはパスコードの入力画面なので、これはいつものようにガントレットのプラグを差し込み、魔力を流し込んで無効化。元々繋がっていたマウスのトラックボールを動かして、データの場所を探る。


「……しかし、旧式だな。最新鋭のものはホログラムディスプレイだけか。ガジェットは実体があるのがお好みらしい」

「ヘッドセットもありますし、外部と通信してた可能性は大ですね。通話履歴なんかがあれば……いや履歴があっても保存してないとなぁ」

「後で解析班に投げればいい。見つかったら教えろ」


 言って、ドミニクは部屋の警備をするために離れた。


 手っ取り早く全てのデータをコピーするには容量が大きすぎる。ピックアップ作業が必要だ。


「……悪趣味……」


 オーウェンの私物であるタブレットの中身は混沌に満ちていた。大量の数式が書かれたメモに、被検体と思しき人間やキャンサーの観察記録。どれも貴重な資料だが、今必要なのはこれではない。渋々優先順位を下げ、大量にあった通話アプリの中から頻繁に使われているものを見つけた。使い捨ての記憶媒体を差し込み、急ぎでコピーをしながら内容物を確認する。


 特定の人物と頻繁に連絡を取っているらしく、履歴に同じ人物の名前が並んでいる。内通者とはこの人物だろうか。コピーを終え、次は画像欄に飛んだ。


「……ドミニクさん、ちょっと」


 ずらりと並んだ画像に映った人物に顔をしかめ、ドミニクを呼んだ。


「なんだ」

「これ見てくださいよ」


 画像は、タイトロープ市街地を散策しているシャルロットとドミニクの姿だった。ついでに一言コメントが寄せてある。


『この女で合ってる?』


 人込みに紛れてドミニクの顔は判然としないが、シャルロットの容姿は完璧に映っている。盗撮されたことに驚くより、顔が割れている事の方が腹立たしい。


「……見つけた、ではないということは……この画像を撮った人物に、本当にいるのか確認しろ、と命じたらしいな」

「まぁ、どこに関係者紛れてるか分かんないですから不思議じゃないですけど……」


 先ほど尋問した男の言い分を信じるなら、シャルロットはテラサルースから手出しを控えるよう指示が出ていたはずだった。今回は完全に、オーウェンの独断だ。


「……撮った人は私のこと知らなったってことですよね? 聞くってことは」

「だが、お前がタイトロープ島に居ると判断した奴は、知っているから連絡を取ったはずだ。別人だな」

「やっぱり解析して音声取り出さないと分かんないですね」

「テラサルース内の情報を知らないってことは、関係者や内通者というより……協力者と言った方が正しいかもしれんな」


 オーウェンが、タイトロープ島での目撃情報からシャルロットを狙うに至ったのは分かった。だが彼と繋がっている人物が見えてこない。ひとまずデータを取り出すだけ取り出して、無事に解析班に渡すのが先決だ。


 コピーを終えた記録媒体を抜き取り、帰り支度をしてからシャルロットははたと思った。


「……これ、盗んだら確実じゃないです?」


 タブレットを指さして、ドミニクに微笑を向ける。余程あくどい顔に見えたのか、ドミニクは一つため息をついたものの、否定はしなかった。


「まぁ、な」

「よし、持って帰りますか」


 ひとまずタブレットをシャットダウンさせて、手近なケースを探すが見つからない。抜き身で持ったまま、今度はドミニクを先頭にして部屋を出る。


 途端、廊下が赤いパトライトで照らされ、耳障りな緊急警報が鳴り響く。どうやらタブレットが室内から不正な手段で持ちだされると、自動でアラートが鳴る仕組みだったらしい。


「この際だ、突っ切るぞ」


 ドミニクが愛刀を抜き、刃を裏返して握った。オーウェンの私室は廊下の突き当り、袋小路だ。とにかく逃げ道は確保しなければならない。


 タブレットを右手でがっちりと抱き、左手で魔導銃を抜く。構えた二人の前に現れたのは、自立型の魔導兵器だった。来るのが早い。人間が来るまでの繋ぎだろう。


「流石にキャンサーではないか」

キャンサーだと火葬する手間がいりましたから、よかったですね」

「一度起動したら無差別に襲ってくるぞ、良いもクソもあるか!」


 蜘蛛のような多脚式で、胴部に魔導機関銃を備えた自立兵器。人間相手の殺しに使うには戦力過多だ。


「防御は?」

「いらん、真っ二つにすれば済むことだ」


 ドミニクの邪魔にならないよう、突き当りの壁に寄る。彼が刀を振るったのは、自立兵器の砲身が魔力で輝き、魔弾が発射される前だ。天井と床を抉り取りながら突き進んだ魔力が自立兵器を飲み込み、青白い斬撃が消えた時には砲弾でも撃たれたかのように真っ新になっていた。


「行くぞ!」

「はい!」


 ドミニクが駆け出す。自立兵器の残骸を蹴り飛ばし、先導に従って階段を上る。時々やってくる自立兵器は先手を打たれる前に迎撃しながら地上の出口へ突き進んだ。


「まだ人がいたら危ないですけど……下に残してきた人とか、大丈夫ですかね」

「流石に味方識別はしてると信じたいがな……! 心配ならあの拘束を解除しておけ、出来るだろう!」

「……分かりました」


 暴走したキャンサーに対応する対癌兵器には見えない。自立兵器に乗った魔導銃は対人用だ。防衛設備として設置していたなら、数は限られるはず──普通の人間なら、撃たれて蜂の巣になっているだろうし。


 オーウェンの私室があるのは地下三階。本当はこの海底ドックの使用用途も調べたいところなのだが、それはノイエたちに任せてしまおう。こうして伝手ができたことだし、恩も売れた。今後は協力者に数えていい。


 自立兵器を斬り捌き、蹴りつけ魔力の結晶をぶつけて粉砕し、魔導銃で関節を破壊する。しばらく進むと、全滅したのか自立兵器の群れは消えた。


「貴様ら──、ウォルフ・ライエか⁉ 本当に生きて……!」

「構わん、撃ち殺せ! 仕留めなかったらやられるのは──」


 が、自立兵器で時間稼ぎができたのか、進路を塞いだのは武装した人間だ。アラートに反応して飛んできたのだろう。


「こっちだ、とでも思ったか?」


 人間を見つけた瞬間、ドミニクの声色が鋭利に変わる。後方からでは様子が分からないが、声と膨れ上がった殺気でかなり興奮しているのは把握できた。


 テラサルースの施設で、構成員が相手で。彼の過去をほじくり返すような人間が相手では、衝動が生まれやすいに決まっている。


 オーウェンは、ドミニクの事を半人半癌と呼んでいた。人でもキャンサーでもないが、両方でもあると。であれば、自己崩壊症の患者が持つ衝動性よりも、ドミニクの人間に対する殺戮衝動はキャンサーのソレに近い筈。


「どちらにせよ、だ! ド阿呆がァッ!」


 吼えたドミニクが、ロングコートに魔力を迸らせて斬りかかる。シャルロットが止める間もなく振るわれた一閃は、しかし鈍い音を立てて、血飛沫を上げることはなかった。


「黙って床でも舐めていろ!」


 ドミニクは峰で腹部を殴打し、まとめて薙ぎ払って壁に叩きつける。あまりの威力に壁にめり込んだ男たちに対して、彼は容赦なく愛刀を振り下ろした。


 斬ってはいない。刀に充填された魔力を、圧縮して放っただけだ。廊下を閃光が覆い、収まった時には床が抜けて大穴が開いていた。


 刀を振り、残っていた魔力の残滓を払う。ドミニクはおもむろにたばこケースの中から薬たばこを取り出して火をつけ、咥えながら言った。


「……心配するな、そこまでじゃない……いや、殺してやるとは、思ったが」


 深く薬煙を吸って、吐く。下に落ちた人、大丈夫かなと心配するが、当然確認する暇はない。ドミニクは普段、戦闘行動が終わればコートに充填していた魔力は霧散させるが、今は青く輝いたまま。


 そこまでじゃないなんて、嘘ばっかり。刀にすぐ魔力を移せるようにしているし、そもそも戦闘態勢を解いていない。新手が来たら、きっと薬たばこを吐き捨てて愛刀を振るうだろう。彼らに命が残っているのは、ドミニクの強靭な理念が、暴れそうな衝動を皮一枚で繋ぎ止めているからだ。


 そういえば、とふと思う。


 私も人間だけど、キャンサーの破壊衝動は人間という種のみに適応される。


 じゃあ──ドミニクさんって、私の事を殺したいとも、思うのかな。


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