第二話 遭遇
_30年後
はあっ…はあ…
死なないでくれ…俺が守るから…お願いだよ…
薄暗い路地裏を弟を抱えて風のように走る。
腕も足も痛い。確認する暇が無いから分からないが多分頭からかなり出血しているのだろう。
すぐ後ろに「バグ」が追いかけて来ている。
普段の俺なら余裕で逃げ切れるのだが、5歳の弟を抱えているとなると話は別だ。流石の俺でも無理がある。
弟は腹をざっくりと切り裂かれていて、放置していたら5分も経たずに死んでしまうだろう。
さっきからどんどん身体が冷たくなって来ているのが分かる。
「ッ…クソ!何でこんな時に…」
全速力で目の前の角を曲がる。これで少しは差がつけられるだろう。
「あ…」
行き止まりだ。慌てて左右を見回すがもう既にバグが道を塞いで進めない。
まさに袋の中の鼠だ。逃げられない。
せめて蓮だけは…!
後ろに弟をそっと横たえて腰のナイフを取り出す。
「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「バグ」が被さるように襲いかかって来る。
自我が無いだけで元は人間。しかも大人だ。まだ13歳の俺が敵うはずが無い。
慌ててナイフを振るうが手で簡単に弾き飛ばされてしまう。
「あ゛っ…」
そのまま持ち上げられて首を締め上げられる。
呼吸が出来ない。苦しい。
手足をバタバタして抵抗するが、そんなのが大の大人に通用する訳も無く、虚しく視界が薄れる。
嗚呼。此処で終わりか。
まだ死にたく無いと思っているはずなのに、内心、自分の死を素直に受け入れている自分がいる。
そんな自分が嫌いだった。
いつの間にか、手はだらりと垂れ下がり、体が抵抗するのをやめている。
もう………どうでも良い。
不意に、轟音と共に白い光が目の前に現れたような気がした。
だが、それが何かと考える前に、少年の意識は闇に吸い込まれて行く。
第二話 END