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9.竜真の仕事は王子じゃなかった

 

 “保健体育”については、どうやら竜真と解釈の食い違いが起きていたようだ。他の皆が自分と同じ年になるまで走ったことがないなど、おかしいと思った。

 秀貴が安堵したと共に、ある疑問が浮上した。


(じゃあ、竜真さんは僕が何をしたことがないと思ったんだろう?)


 胸中で首を捻るも、答えは出ない。自分では考えの及ばない運動が存在するのだろうか。

 ふと竜真を見上げると、彼は何だか上機嫌に笑っている。その横顔を見ていると、些細な疑問はいつの間にか消えていた。


 まだ三が日で、殆どの店舗がシャッターを閉めている中……到着したのは、スーパーだった。三階建てで、なかなかの広さがある。


「ここの二階が被服売り場になってるんだ」


 竜真が手を引いて案内してくれた。一階が食料品、二階は服飾関係、三階は食器やおもちゃ、電化製品売り場となっている。

 そして、秀貴はもうひとつ、竜真という人物について知ることとなる。


「あらー! 竜真君、いらっしゃい! 今日はつぐみちゃんは? あらあら、可愛い女の子連れてるのねぇ! 外国の子? ホームステイかしら?」


 通りかかったクレープ屋のおばさんに話し掛けられた。竜真は顔が広いらしく、続いて花屋の店員にも声を掛けられていた。


「可愛いでしょ? でもこの子、男の子なんです。今日はこの子にカッコイイ服を買いに来たんですよ」


 と、にこにこと話し、手を振って通り過ぎる。初めてのエスカレーターに戸惑いつつ、なんとか二階までやってきた。

 歩いているだけなのに、他にも店員や客、五人から声を掛けられた。竜真はそれら全てに挨拶を返しながら、店内を進んでいく。


「竜真さんはお知り合いが多いのですね」

「僕の仕事の関係で、知り合いは多いかもしれないね」

「お仕事……ですか。そういえば、何をされているんですか?」

「御用聞きだよ。あ、着いた着いた」


 さらりと明かされた竜真の職業について言及する間もなく、服飾コーナーへ辿り着いた。衣類が、男女別に大きさや種類別にディスプレイされている。

 竜真は迷わず“メンズ”コーナーへ行き、Sサイズの服を漁り始めた。何にでも合うからと無地のロングTシャツ二枚と、トレーナーを二枚と、アウターを一枚、肌着を上下三着ずつと、靴下も三セット購入。


 次に連れて来られたのは、靴売り場だ。スニーカーを二足買った。

 売り場を二か所回っただけなのに、荷物で両手が塞がってしまった。竜真が持つと言ってくれたのだが、自分の物なので自分で持ちたいと思ったのだ。


「大丈夫? 無理しないでね」

「はい」


 金銭と物を交換する現場を見たのも初めてのことだ。今までは、本の中でしか知らなかったことを体験出来て、秀貴も興奮していた。それが顔に出ているからか、竜真も穏やかな表情で見守ってくれている。

 二人の関係は、兄弟というより、父親と幼い子どものようになっていた。


「運動用のジャージも欲しかったけど、また今度来よう。ジャージのズボンとパジャマは僕のお下がりで良いかな?」

「はい」


 答えたものの、ジャージもパジャマも着たことがないのでよく分からなかった。だが、衣服に特に拘りがあるわけでもないので、そう答えておく。


「良かった。まず脂肪を付けなくちゃいけないけど、少しずつでも筋トレはしておこうね」


 秀貴も、体をほぐすストレッチならば毎日行っていた。筋トレに関しては本で見た知識しかないが、問題はないだろうと首肯した。


「じゃあ、夜は何を食べようか」


 そう言って連れられたのは、一階の食料品売り場にある惣菜コーナー。店内で調理されたおかずや弁当が並んでいる。


「好きなの選びなよ」


 言われて、秀貴は周りを見回し、遠くに野菜や魚や肉を見付けて首をかしげた。


「お野菜などは買わないのですか?」


 惣菜コーナーに並んでいるものは、決して不味そうではない。美味しそうに見える。だが、全体的に茶色い。サラダもあるが、種類が少ない。

 竜真はバツが悪そうに言った。


「僕、料理が全くできないんだ。えっと……君なら分かってくれると思うんだけど……何ていうか、料理との相性が悪いんだよね」


 そう言われても、全くわからない。ただ、自分が生物などに近付けなかったように、竜真の体にも特別な何かがあるのかもしれない。『君なら分かってくれると思う』とは、きっとそういう意味なのだろう。

 秀貴はあることを思い付き、竜真を見上げた。


「でしたら、お願いがあるのですが――」



◇◆◇◆




 

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― 新着の感想 ―
[一言] サ○エさん以外で「御用聞き」といえば、曰く付き職業(笑)。
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