雲の涙
白く細い、触れても解けない。
雲のようで雲でなく、綿あめのようで綿あめでない。
それは、雨を降らす準備のためか…キラリと一粒の雫を垂らした。
「……はあ、また失敗かな。」
18体目のぬいぐるみは、失敗だ。
職人に向いてないのか、今までのぬいぐるみ全てが動いてくれない。
ちゃんと、”くもわた製”の綿なのにな。
「ごめんね。アタイの力不足だい。キミには申し訳のないことをしたよ。でもね、寂しくなんて無いのさ。今までの子たちとねんねしな。」
そう言いながら、布で飾られた段ボール箱を取り出す。
今までの…熊や、猫や、犬や、ヒツジや、ウサギや、狼や、鰐や、山羊や、虎や、牛や、ゴリラや、馬や、ペンギンや、アシカや、カモメ…ぬいぐるみ達。
「材料の無駄でも…アタイは作り続けるよ。お前たちが、いつか…報われるように。」
*寝たかな?*
+寝たよ!+
#起きて起きて〜#
$新人さんこんにちは!今回はウリ坊かな?$
<可愛いね、可愛いね<
夜が更けると、ぬいぐるみが箱から飛び出す。
失敗作なんて、一体もいない。
@ねぇ、なんで動かないの?アンジュがまた失敗だって…@
*アンジュがスゴイのは分かるだろ?普通、ぬいぐるみに魂なんて宿らない。僕らの魂は、アンジュがそう願ったから宿ってるんだ。でも、この力が周りに知れると…アンジュが怖い目に合う。その例が、一体目のクマだ*
$そうだ。おいらが目覚めてしまった時、アンジュはそれが普通だと思ったのさ。でも…$
+幸せな時間は続かない。大人たちがアンジュに目をつけるようになったんだ+
#アンジュがこうやって閉じ込められてるのも、ぼくらのせいさ#
あーだこーだと騒がしいぬいぐるみ達。
体が小さいから、人間には聞こえない。
@くもわたって?@
+会社の名前さ。僕らの体の中にある…+
犬はそう言って自らの胴体を指差す。
表情も声も、人間が作ったとは思えない程にいきいきと輝いている。
$朝が来る、皆!$
クマの掛け声で、ぬいぐるみ達は箱に戻っていった。
光が少しずつ差してきた頃、アンジュは目覚める。
「アタイ…キミたちがいてくれてよかったよ。クマも、動いてくれたこと後悔なんてしてないさ。もう、会えないんだろうけど…それでも、作りつづけるさ。キミがもう一度会ってくれるまで」
少女の瞳から雫が零れる。
雨の準備のためか…雲のようで雲でない。綿あめのようで綿あめでない。
白くて細い。触れても解けない。
その綿雲は、今日も雫でキラリと輝く。
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