4話③ ディアーヌ 〜譲れない想いのわたくしは…
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わたくしの前世では、乙女ゲームのブームが飽和し悪役令嬢を主人公とするタイプの作品が流行しつつあった。お気に入りだったあのゲームもその流れに乗って続編が作られた。
待ってましたとばかり挑戦したその作品では、今生のわたくしのように悪役令嬢が婚約破棄されたシーンからストーリーが始まる。その最悪の境遇から救ってくれるのは「隣国の王太子」で、これがこの手の作品の定番だった。
ここがやはり乙女ゲームの世界で、隣国の王太子役としてアーノルド様が登場したのならば、わたくしが主人公の物語は今夜がオープニングだったということになる。
…あっかんがなーーー!!
実はわたくしは、「隣国の王太子が正ヒーロー」という設定はあまり好きではなかった。似たような設定も含めてだ。
例えば、婚約者が弟王子であった場合の正ヒーローは兄王子すなわち王太子。婚約者が王太子で正ヒーローが隣国の王太子の場合は、隣国の方が大国。もしくは帝国となり仰々しく皇太子を名乗る。婚約者が王弟であれば国王陛下…。
つまり、正ヒーローは元婚約者よりも必ず相対的な地位が高いのだ。主人公はそんな正ヒーローに守られ、元婚約者も正ヒーローが成敗し、結果的に前より地位の高い妻の座を得てめでたしだ。
いやいや、それでええんかーーーい!
勝ち馬にぶら下がっとるだけやないかい!
「…アーノルド様」
わたくしは、両手で彼の胸を押して離れた。
「お心遣いには感謝いたしますわ。でも、そのご提案は受け入れられません」
「いや、僕こそ失礼しました。気丈なあなたには不要な提案でした」
「本当にそうですわ。わたくし、王室教育で培った八年を無駄にしたくありませんの。何かあったとしても、逃げずに自分の才覚で戦いたいのです」
にっこりと答えると、アーノルド様は気を悪くすることもなく優しく引き下がった。そんな彼にわたくしは感謝と誇りをこめて一礼すると、月を見上げた。
「上昇婚ざまぁなんかお断りじゃ! 他人のスペックで勝負すんなや! 自力でざまぁして見さらせ!」
両拳を握りしめ、吠える。
「やったるわうっしゃあらぁ!!」
その時、テラスの扉を開けて誰かが飛び出してきた。
「ディアーヌ!?」
「ニ、ニコラ」
わたくしの一つ下の従弟、グラン辺境伯長子のニコラだ。彼はわたくしの傍に人がいることがわかると顔に警戒の色を浮かべ、それがアーノルド様と知ると、さらに険しくなった。
「アーノルド…殿、彼女に何か?」
「愚痴を聞いて差し上げていただけだ」
アーノルド様はやんわりと笑みを保ちながら両手を上げた。ニコラはそれでもずかずかと近づいてきた。
「ディアーヌ、君がまだ帰ってなくてよかった。明日君を訪ねようと思っていたけど、一刻も早く伝えることにする」
ニコラはわたくしの手を取り、アーノルド様を牽制するように目をやりながら言った。
「さて、僕はここでお暇させていただくよ。ディアーヌ嬢、アルクアでの最後の夜に、思い出をありがとう」
空気を読んだらしいアーノルド様は、思わせぶりな言い回しをしながらわたくしの手を取り、甲に挨拶のキスをした。
「わたくしも、アーノルド様のおかげで心が軽くなりました。感謝いたしますわ」
ごきげんようと言って彼は屋内に戻っていった。
「ディアーヌ! 本当に何もされていないのかい!?」
「何もないわよ。落ち着いて」
「う、うん。…じゃあ、聞いてくれ、ディアーヌ」
ニコラはまっすぐ前に立ち、わたくしの両手を取った。わたくしと同じプラチナブロンドの髪が、月光で柔らかに輝いていた。
「僕は君を」
乙女ゲームの記憶なんかに振り回される必要はない。わたくしは、わたくしが本当に主人公の物語を、今この瞬間から始めよう。
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2023/1/7 サブタイトル変更
2024/6/29 サブタイトル及び本文修正




