第2話 初めての魔法
体全体が包まれているような感覚───
「(生まれたのか……!!)」
「(ええ。あなた。)」
彼女が学ばないと分からないと言ってたのは事実らしい。何か喋っているようだが、何を言ってるまでかは理解できなかった。
うっすらと見える視界から考えるに、父親と母親だろう。
「(あなた、名前は決めたの?)」
「(そうだなぁ…リーゼ……リーゼだ。)」
「(リーゼ・レフェリア……いい名前ね)」
雰囲気だけでも優しそうな両親に、ほっとする祐奈。
言葉の一つ一つの意味は分からないが、音は理解出来ている。
…リーゼか。綺麗な響き。今日から私は、リーゼ───
祐奈、もといリーゼは再び眠りについた。
転生したこの国は、ローネルト帝国というところらしい。
父はアルベルト・レフェリア、母はリーネ・レフェリアという。二人は魔導師という職業に就いているらしく、家の中でも様々な魔法が飛び交っている。
何事も無く、すくすくと育ったリーゼは、早いもので四歳になっていた。
「お父様〜!魔法を見せてくだしゃい!!」
両親が一人称で「お父様」やら「お母様」を使うので、致し方がなく、リーゼもそう呼ぶのだが、いまいち慣れない。様をつけるだけあって、とりあえず敬体・丁寧語を用いるようにしている。
自分の親を様付けで呼ぶなんて、どこのお嬢様だよ。
リーゼの思う通り、レフェリア家は皇族に次ぐ、魔導師で名のある一家だ。一応貴族ではないのだが、皇帝と私的に交流のあるぐらいの名家だ。
屋敷には図書室なる部屋があり、ありとあらゆる魔法関係の本が揃っている。
転生しても相変わらず本の虫であるリーゼは、図書室に足繁く通っている。
“彼女”が言っていた通り、習得のスピードが異様なまでに速いのだが、当の本人は知識を得る嬉しさから、さほど気になっていない。
最初は言語理解から始まった読書生活も今では意のままに読み進めることができる。
魔導書から政治関連の本、伝記・物語、哲学とあらゆるジャンルを満遍なく読み漁る日々が続く。
知識がつけば、実践してみたいもので、リーゼは読書の傍らで魔法にも関心を寄せていった。
「お父様、私、魔法つかってみたい!!」
「まだダメだよ、リーゼ。リーゼは小さいから、マナの巡りがまだ悪いんだ。幼いうちから魔法を使ってると、体に悪いんだよ。」
「お父様も、小さい時は魔法使ってなかったの?」
「ああそうさ。だから、リーゼも五歳になるまで我慢だよ。しかしまあ、リーゼはとっても賢いなぁ」
美形の顔でこうも褒められると、元17歳の心にはくるものがある。
「だってぇ、ご本いっぱい読んでるからぁ。ご本読むの楽しいの!!」
リーゼの満面の笑みに、アルベルトも通りかかったメイドも自然と笑みがこぼれる。
「じゃあ、リーゼは魔法のご本も読んだのかい?」
「うん!とっても面白いよ!!」
「どんなご本なんだい?」
「んーとね、たしか、『アルス・レフェリアの書』って書いてあった気がする〜」
アルベルトはリーゼの言葉に驚きを隠せなかった。
アルス・レフェリアの書は魔導書最高難易度を誇る本であり、レフェリア家が魔法の名家と名を馳せるきっかけになった代物だ。
それを三歳児が読んでいるというのか……??
アルベルトは不思議でたまらなかった。
「リーゼは、そのご本の魔法のイメージはできるのかい?」
「たぶん……」
リーゼの頭の中ではアルス・レフェリアの書が怒涛の勢いでめくられている。
『火炎に風魔法を合わせ酸素の持続供給を図り、重力魔法で圧縮。これにより温度が急増して……』
本の中の知識というより前世の理科の知識が大半だ。
「……こう!!!《終焉業火》」
アルベルトは魔力量の膨大さに危機を感じ、
「……間に合うか!?空間魔法《次元跳躍》」
リーゼの手から放たれた魔法を別次元に送り込む。異次元への転移は流石のアルベルトにも堪えるようだ。
「……リ、リーゼ。このレベルの魔法は一般行使禁止だ。も、もし使いたいことがあれば、父様に聞くように。あ、あとそれから、しばらく魔法を使うことを禁ずる。いいな?」
アルベルトは魔力の枯渇によるダメージとリーゼに対する驚きで、しどろもどろだ。
しまった。やりすぎたのか。にしても困ったな。さっそく魔法禁止令が出されてしまった……
「父様~」
と懇願してみたがどうやら効かないらしい。
「父様~ちゃんと簡単そうなのからするから~。ね?いいでしょぉ」
四歳の渾身の懇願スマイル(二回目)。
「しかたがない。独学では危険、だから、家庭教師をつけよう。父様たちが教えたいのは山々だが、あいにくそこまで時間が取れそうにないんだ。優秀な子を家に呼ぼう。リーネ、いいだろうか」
「ええ。それなら彼なんてどう?教えるのも魔法も上手でしょう。」
「ああ、あいつか。そうだな。あいつに頼むとしよう。」
この両親が認める“彼”……。あぁ何を学べるのだろう……
そうやって不敵な笑みをこぼすリーゼに、アルベルトとリーナは先を思いやられるのであった。