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箱庭のマリオネット  作者: 御影朔夜
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第一話  神との邂逅

本は、私を未知の世界へ連れていってくれる。辞書ならば整然とした世界。物語ならば、作者の作った世界。フィクションだろうと、ノンフィクションだろうと、私に大いに経験値をもたらしてくれる。本に載る全てが事実とは限らないが、それもまた醍醐味だ。同じ人間なのに、一つ単語を取っても、様々に解釈する。学ぶ限り、知識は永遠に進化すると思う。私は新たな知識を得る度に、一種の興奮を覚えるのだ。たとえ、周りに変に思われても、私は永遠に本が好きだ───


夕日差し込む県立図書館で、瀬尾祐奈(せおゆうな)は今日もまた、初見の本を広げる。

今日は哲学の本を手に取った。

人はなぜ存在し、果たして神は実在しているのか、という主題の本であった。

実際、そのことは作者にも、祐奈にも、分かりえないことだ。


何らかの宗教を信仰していれば、「神に我々は作られ、神は存在している」と言うかもしれないし、無宗教ならば「人は猿から進化して今に至り、神がいるかは、人の気持ち次第だろう」と言うかもしれない。

何気に祐奈は、こういった答えのない学問が一番好きなのである。


逆に、ラノベのような空想ものは苦手だ。特に転生ものや転移もの。科学的に証明不可能なことは、一切信用できない。そもそも、信用云々の範疇ではないことぐらいわかっている。だから祐奈は、一種の娯楽としては受け入れるが、それを望んだり、羨んだりはしない。幼い時も、戦隊ものや変身もののアニメの登場人物に憧れを抱くことは無かった。


彼女にとって、科学的に証明できないことは娯楽の域を出ない。哲学も、あくまで娯楽。神なんて証明不可能な存在だから。


そう思ってた。あの瞬間までは───




突然、祐奈は異様なまでに室温が暑く感じた。同時に胸が苦しくなり息が辛くなっていった。明らかに異変を感じて目を本から離すと、いつの間にか周りは火で囲まれていた。


火事に気づかないなど、なんて自分は愚かなんだと呆れかえるが、それどころでは無い。逃げようと模索するが、なんせ周りは紙だらけ。焼けるスピードが尋常ではない。ここまでくると、もはやスプリンクラーも無意味だ。


祐奈は逃げるのを諦めることにした。


もう何をしても無駄だ。明らかに下から火が来ている。3階でこのレベルなら、下の階はきっと、もっと酷いだろう。このまま動いても無駄だろう。

(よわい)17にして死す、か。もっと本、読みたかったなぁ、、、


最期に燃え盛る炎を目に焼き付け、祐奈の息は途絶えた。






「……さん、……うなさん、瀬尾祐奈さん」

死んだはずなのに、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。

死後30秒ぐらいはまだ耳が聞こえると言うし、きっと消防隊だろう、、無駄だよ。私はもう───



いや待て、なぜ消防隊が私の名前を知っている。図書館の会員名簿と照らし合わせる時間なんてあったのか。それとも、親が言ったのか。いずれにせよ、焦りの声色が全く感じられない。何故だ?本当に、消防隊なの、、か??


祐奈は思い切って目を開けた。


すると目の前には炎ではなく、真っ白い果ての見えない空間が広がっていた。加えて、白い髪に白い肌、白いドレスを着た女。


全身に力を入れられると気づいた祐奈は、立ち上がり、女をよそに辺りを見回す。


空間の装飾は、地球上の物理学では到底理解できない造りをしていた。ワイヤーも無く浮遊する無機質な物体たち。そうなると、女でさえ異質なものに見えてくる。


「当然、戸惑うわよね。」

挙動不審な祐奈を見かねて、女は再び口を開いた。


「私は、火事に巻き込まれて、死んだのでは、、」

「確かに、その通りよ。でもね、あなたのことが無性に気になって、こちらの世界に呼んじゃったの。このまま、死なせておく訳にはいかないって、ビビっときたのよ。」


呼んじゃったとはどういうことなのだろう。文脈的に彼女が、この謎の空間に私を連れてきたという意味だろうが、あまりにも非現実的すぎて全く話についていけない。聞きたいことが多すぎる。


「あの、こちらの世界とは?」

「そうね、あなたのことだから、疑問で頭がいっぱいなんでしょう?まあお茶でも飲みながら・・・」

彼女が指を鳴らすと、ヨーロッパ風の机と椅子、紅茶のポッドが現れた。

祐奈はマジックのタネにはすぐ気づけるのに、この光景はどうも理解できなかった。


祐奈はおそるおそる腰をかけた。どうやら椅子たちは、物理的にこの空間に顕現しているらしい。


「まずここは、天界というよりは、時空のはざまね。そして私はいわゆる神様。名前は・・・忘れたわ。大昔に捨てたの。別に誰かと話す用も、信仰されることもなかったし、私のことは何とでも呼べばいいわ。」


神ならば、何かしらの宗教で信仰されるはずなのに、名を捨てるとはいったい・・・


「あなたは興味なさそうだけど、あなたには地球でいうところの異世界転生をしてもらうつもりよ。当然、あなたが望むスキル、というよりはギフトのほうが合ってるかしら。何かあれば、あげるつもりよ。残り僅かな私の持てる力を使ってね。だから授けられるのは一つぐらいになるけど。」


彼女はすこし物悲しそうに告げた。


彼女が本当に神だとして、神の力が残り僅かとは・・・名前を大昔に捨てて、誰とも関わらず、信仰も無かったのに、なぜ??


「ここまで異様な光景を見た以上、転生に関しては信じざるを得ないけど、なぜあなたの神の力とやらは無くなったの?」

ここまで無言だった祐奈が率直に疑問を投げかけた。


「・・・・・・」

「何も言えない、っていうのが回答ですか。」

「理解がよくて助かるわ。ただ、一つだけ教えられるとしたら、あなたなら、いずれ知れるでしょうね、ってことかしら。答えになってなくて申し訳ないんだけど。」


彼女は祐奈に微笑みかける。相変わらず物悲しさはぬぐえない。


「で、あなたの望むギフトって何かしら?」

祐奈は急に話題を戻されて戸惑った。


スキルといえば、武術系とか魔術系、それから言語理解とか、あとは鑑定とか?こうなるなら、もうすこしラノベを読んでおけばよかった。

・・・私に合うギフトって何だろう。

やっぱり転生しても学び続けたいかな・・・


「どうせなら、すべてのことを知れて、すべてのことが出来るようになるような・・・」

「それなら、『全知全能』ってスキルがあるわよ。」

「それだと、最初から全部知ってるから、学べることが何もなくなるのでは?」

「『全知全能』はね、(はな)から全部知ってるわけじゃなくて、習得スピードや理解力が異常なまでに高くて、無限にあらゆることを学べて、永遠に記憶に残り続けるって代物よ。だから、ギフトの名前にかまけて自分から何も学ばなければ、無意味なの。」

「完全に私向きってことですか。」


ひと間おいて彼女は

「やがて、ギフトの能力が上がるとね、『世界辞典』っていうスキルを得られるんだけど、この世にはそれをもってしても理解できないことだってあるのよ・・・」

と呟いた。


「ま、とにかく、『全知全能』で転生ということで承諾してくれるかしら?」

彼女は再び笑顔を見せた。


「ええ。いまの最適解はそれで間違いないだろうし、それでお願いするよ。」


そう祐奈が言うと彼女は祐奈の額に手をかざした。


するとすぐに全身が軽く感じ、体をまばゆいひかりが包み込む。

彼女は笑顔で手を振っている。口元が動いているように思えたが、何を言っているのかまでは見えなかった。





――あなたならきっと、真実に・・・・・・




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