僕が想うのはキミだけ
星が見えぬ寒空、私は一体誰を思っていたのだろう?
悲しみがくるより疑問が先に来てしまった…ふと気付くと
「またか…」そんな声がした。その声がする方へと視線を移すと彼はいた。
何故彼がここに居るんだろう?そしてなんで「またか…」と呟いたのだろうか?
わたしには分からないがきっと彼は分かっているのだろう
「貴方は誰?そしてまたとは一体?」
彼は答えない…まるで聴こえていないように
「あぁ、ごめんね。僕は耳が聞こえないんだ。」
こちらの声は届かないのに貴方の声は届く一方的だ。貴方はそうやっていつも酷い人ね
どうして「いつも」と思ってしまったのだろう?
「君は僕のパートナー、そして君は記憶を失ってしまう難病持ちだよ」
彼はそう言った。貴方だって耳が聞こえないのにどうしてそんな平気な顔で答えるの?
「一方的に話してごめんね。けどこれだけは言わせて貰うね」
そうして彼は語った自分の事と私の事を、彼は私の婚約者でそして私達の結婚は政略結婚らしい。
なんて酷いのだろうか。そこには愛なんてものは無い結婚だ
私達は愛なんてものが無い結婚だったが互いの愛おしい所や可愛い所、カッコイイ所を見つけあってそれが好きになっていった。
しかし、私達は欠落している部分があった。彼は耳、私は記憶。
彼との出会い、育んだ愛それらは私の記憶にはない。
「取り敢えず家に帰ろう」
彼はそう言い私も従った。いつの間にか空は泣いている様にポツポツと降り始めてきたからだ
まるで私達の事で泣いているのかと思うくらいだ
そして家に着き、リビングでソファーに座って彼と話した?
こちらからは声が届かないが幸いな事に紙とペンがあった
「貴方の事を聞かせて」
私はそう書いた。まだこの私は貴方の事を知らないだって記憶がないもの。
彼は笑顔で答えてくれた
彼の出世やこれまで生きて得た事、そして出会いと別れ本当に色々な事を喋ってくれた
私は彼の事が段々と好きになっていった。記憶が無くなる前の私は彼の何処が好きになったのかは知らないが彼が私の中で1番私の事を愛してくれている事が伝わったからだ。それに答えたいという気持ちが湧いてくる。私には彼との思い出はないが彼はある
またそんな日々を送って行きたいと思えた
だけど私の中ではその病気をどうにかして行かないとこれからも彼に迷惑をかける、何より記憶が消えてしまってそれが何度も起きてしまって彼だけが悲しむのは許せない。
私は…彼の事を愛して止まないのだと気付いた。
頬には流れる涙があった…私は記憶を失ってそれでも彼の事が好きでたまらないのに記憶が無くなるのが嫌で嫌で堪らない。
せめてこの気持ちを彼に伝えたいと思い紙に書いた。
「私と言う記憶の欠落者でも良いならどうか私を愛して、そして私は貴方の記憶がなくても愛する事を辞めない。私の記憶が無くなってもまた私を見つけて、そして愛して下さい」
そう書いた。彼は少し涙を流した後了承してくれた。彼はこんな私でも愛してくれて想ってもくれる優しい人。
そして時は経つが彼は手を握って優しく微笑んでいる。私も微笑んでいる。それは彼に対してもだが私達の子供に向けても微笑む程幸せな時間を過ごしている。
これは私とっての記憶の一部に過ぎないが私はこれを忘れたく無いと胸の奥に閉まって毎日を過ごして絶え間ない時を彼と過ごして私は死にゆくのだ…そんな中彼は私よりも先に逝ってしまってそれを追うように私の命は消えていった。記憶を失うのは一度限りでも貴方との幸せは消えはしないと願い。そして私は消えていった…彼との思い出は想い出となって私を駆け巡った…