沢山の精いっぱいを込めて
二作目です。
ピュアピュアな恋愛ものは難しい…。
まだまだ未熟ですが、温かく見守って頂けると幸いです。
2月13日
世間では明日はバレンタインと言うやつらしい。
…いや知ってるけど。
「手作り…渡してもいいかな…?」
あーあ、そんなセリフ言われてみてぇわ。クラスで人気の女子が仲のいい女子と話しているのをぼんやりと聞きながら、いつもつるんでいる奴が購買から帰ってくるのを待っていた。
「貰えるのはとっても嬉しいんだけど、今年は手作りしないからお返し既製品になっちゃうよ?」
へぇ、残念だったな男ども、愛しのなずちゃんは手作りしねぇってよ。まぁどっちにしろ貰えるわけねぇか、お前らも、俺も。
「いーのいーの!なずちゃんに渡したいだけだから!」
「へへ、ありがと」
ふわぁっと笑った顔がかわいい。もう馬鹿みたいにかわいい。あーもうそこどけ鈴見、邪魔だ、俺と代われ。例え友チョコのお誘いだとしてもずるいから代われ。
「燿、おまたせ~…燿?…あーね」
仮にもお前待ってたんだよ。頼むからにやにやしないでくれ。腹立つ。
♡♡♡
ごめん、倫。ちょっとだけ嘘ついた。
今年手作りを渡さないつもりだったのは本当。
気にし過ぎかもしれないけれど、周りで医療に関わっている人が多いこともあって、ご時世的に少し気になっちゃって…。
だけど彼にだけ、どうしても渡したくなってしまった。だって高校に入ってからまた人気上がったのに気づいてないんだもんあいつ。
今言わないと後悔する気がしたからなんて、一番大切にしたい人なのに我儘で笑ってしまう。
きっと私からのチョコなんて待ってない。でも、踏み出さなくちゃ。長年の片想いをそろそろ終わらせるために。
もし、もしも成功したらちゃんと白状するから、許して。
✾✾✾
2月14日
なんだかんだそわそわしてしまう諦めの悪い自分に腹が立つ。分かってるだろと何度目にもなるセリフを言い聞かせた。
「あの…今日、一緒に帰れたり、する?」
ほら、ついに幻聴ま、で………。心臓が止まるかと思った。けれど、幻覚でも妄想でもない。
なずが、居た。
示し合わせたかのように二人の同時に歩き始めた。沈黙が気まずいはずなのに、心地いい。いつもと変わらないはずの帰り道なのに、目に映る全てが新しく見えた。…理由は明らかなんだけど。
期待してしまう。けれど無駄だともう一人の自分は言っている。
チョコは渡さないんだよね?
なんで俺を呼び止めたの?
頭の中は疑問符だらけだ。
あぁ、でもいいや。
突然、すべて吹っ切れてしまった。
「好きだ」
なんかよくわかんないけど、言いたい。
ずっと言いたかった言葉。
ずっと言えなかった言葉。
何年もずっと言えなかったのに、それがどうでも良くなるくらいすっごい俺、今なずが好き。
時間が止まるような感覚。
びっくりした顔で固まる君。
「私も、すき」
俺の言葉をなぞるように呟いて、そっと俺に小さな紙袋を差し出した。
「作らないんじゃなかったの」
こんなときもかわいくない言葉しか出てこない俺ってほんと…。
「燿は特別」
あぁ、本当にずるい。
世界で一番可愛くて愛しい、俺の幼馴染み。
「なず、好き」
「…知ってる」
照れくさそうにうつむいたなずにつられてまた俺も照れてしまって、照れ隠しのようになずの手を取った。
そして、精いっぱいの反撃を。
「俺も、知ってる」
意地悪で余裕のある顔は、作れていたかな。
読んでくれた方、ありがとうございました。