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愛しの雪だるま、お味噌汁でさようなら

作者: 空本 青大(そらもと あおひろ)

空虚な目で見つめていた。

台所で火にかかる鍋。

中に入っているのは小さな雪だるま。

ゆっくりと溶けて水へと変わっていく。

今の俺の姿は、傍から見たら異様に映っているだろう。

このおかしな行動の原因は結局のところ自分自身にある。


俺には結婚を前提に一緒に暮らす同棲中の彼女がいた。

最初はとても楽しいものだったが、徐々に価値観の違いで二人の距離は開いていった。

ギクシャクするなか、毎年祝ってきた二人が付き合い始めた記念日が近づいてきた。

記念日当日、上司にお得意先との飲み会への参加を求められ、行かざるを得なくなってしまった

「ごめん、早く切り上げて帰るから」

「・・うん」

電話越しに聞く彼女の声は、息が詰まるような悲しげな声だった。

焦燥感を抱きながら参加した飲み会は、抜け出せる雰囲気ではなく延々と続いた。

それでもどうにか最終電車に間に合う時間に抜け出せたが、外は記録的な大雪。

すべての交通機関はマヒし俺は立ち往生してしまう。

翌日の昼前にやっとのことで家に着き、息を切らせながらドアを開けた。

だが部屋の中に人の気配はなく、テーブルの上には「さようなら」の書き置き。

混乱する頭のまま部屋中を見渡すと彼女の持ち物はほとんど消えていた。

陰鬱な気持ちを少しでも晴らそうとカーテンを開けると、ベランダに何かが見えた。

手のひらサイズの雪だるま。

自分を待っている間に作ったのだろうか、俺はそっと手に取ってみる。

彼女の代わりに待ち続けた雪だるまを手にしながら、ある決意を胸に部屋へと戻った。


そして今に至るというわけだ。

ドリッパーとサーバーを用意し、ドリッパーにペーパーフィルターを付けた。

鍋の中で溶けきり、お湯となった雪だるまをドリッパーへと注ぐ。

台所を見渡すと軽食入れの棚に、彼女のお気に入りのインスタント味噌汁が一つだけ残っていた。

ちょうどいいと思いお椀にみそ汁の具材を入れ、そこに濾過したお湯を注いだ。

箸で数秒かき混ぜお椀をもってリビングへ向かう。

ソファに座りみそ汁を一口、二口と口へ運ぶ。

心は冷えたまま、体だけが温まってゆく。

お麩とネギとワカメが入った赤だしのみそ汁を味わいながら、彼女のことを想う。

飲み干して空になったお椀をテーブルに置き、ソファの背にもたれかかった。

こうして彼女の残したものは消えた。

思い出と後悔だけを残して――










※雪を溶かして飲むのはおススメしないです。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルからなろラジで読まれた作品だと思っていました が、全然違いましたね… 主人公の行動、切ないけれど…………うん、この雪だるまで、味噌汁は飲んじゃダメですね……。 川に流して欲しかった…
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