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最終話 リセット&リスタート

「――今までお世話になりました。俺が目覚めて、最初に来たのがこの町で本当に良かったと思います」


 別れの挨拶を口にするアトロ。その目の前には、見送りするために多くの町の人たちが集まっていた。

 

 今日はアトロがこの町に来てから、ちょうど二週間が過ぎた時だ。

 そしてようやく万全な体調を取り戻して、この町を旅立つ用意が整ったのであった。


「私たちも勇者殿に出会えて、本当に良かったと思います。グルブドを倒していただいたこと、この町の復興を手伝ってくださったこと、そしてそれらを含めて私たちを救ってくださったこと。私たちの胸には、感謝の思いしかありません」


 町の住人たちの先頭に立つ町長の男性が挨拶をし、お辞儀をする。それに合わせて住人たちもお辞儀をしてくれる。

 

「俺の方こそ、皆さんには感謝で一杯です。特にレイラとレオには、本当にお世話になったよ」


 アトロの視線の先には、長い金髪を輝かせ、翡翠色の瞳が綺麗な少女――レイラと、短い金髪に、同じく翡翠色の幼い瞳をした少年――レオがいた。

 二人は満面の笑みをアトロに浮かべ返してくれる。

 

 その笑みを受け取って、アトロもまた微笑みを返す。


「それじゃあ、俺はそろそろ行きます。この世界にはまだ、救いの手を求めている人たちがいるので」


「はい。私たちは勇者殿が世界を救ってくださると、確かにそう信じております。どうかこの世界を救ってください」


「任せてください。必ず俺が、この世界を平和にして見せます」


 その言葉には、確かな決意が込められている。アトロの、勇者としての、大きな決意が。


「……よし、じゃあレイラ! 行こうぜ! 世界を救いに!」


 アトロが大きな声を上げて、レイラに呼びかける。

 その突然の出来事に、レライは「え!?」と困惑の表情を浮かべていた。


「言っただろ、レイラが笑顔になれる沢山の物を一緒に見に行こうって」


 その提案は、アトロがグルブドの城にレオを助けに行く前に、レイラに言ったものだ。

 あの時はレイラの本心を聞くために必死になっていたが、今思い返すと随分と恥ずかしいことを言ったかもしれない。

 でも、レイラと一緒に世界を見て回りたいのは事実である。


 あの日、アトロがこの町の近くの草原で目を覚ました時、最初に出会ったのがレイラだった。

 あの時に出会ったのがレイラでなければ、アトロはこの世界を知らなかったかもしれない。

 それにレイラの助けがなければグルブドを倒してこの町を救うということも、達成できなかったかもしれない。

 そしてレイラがいなければ、アトロの心はこれほどまでに晴れ渡っていなかったかもしれない。


 それ程に、彼女の存在はアトロの中では大きいものになっていた。


「で、でもこの町は復興の最中だし……」


 困惑の声が、レイラの口からこぼれる。

 レイラ自身、アトロについていきたい気持ちは山々であるが、どうしてもその足を一歩前に出せなかった。

 だから、


「――町のことなら気にしなくていいよ。このテオールの町は、僕たちが守っていくから」


 レオがその背中を押してあげた。その力で、レイラは一歩二歩と前に進んでいく。


「町のことは俺たちに任せてくれ」

「レイラちゃんは、十分頑張ったんだから」

「これくらいは、甘えていいのよ」


 町の住人達も、レイラの背中を押していく。そして遂に、アトロの正面までたどり着いた。


「……私、弱いからきっと、アトロの足手まといになるよ。それなら――」


「強さとか弱さは関係ない。それにレイラは足手まといなんかじゃない」


 レイラの言葉を遮って、アトロが思いを口にしていく。


「この世界には笑顔になれるものが沢山あるって言ったけど……今の世界は闇に染まっている。だから、辛いことや苦しいこともたくさんあると思うんだ。だけどそんな世界の希望として、皆を笑顔にしていく過程を、レイラにに見届けてほしいんだ」


「――」


「諦めそうになったら、俺を支えてほしい。自分を信じられなくなったら、前みたいに俺を勇気づけてほしい。そして、世界が平和になったときに俺の隣にいてほしいんだ」


 アトロの言葉にレイラが頬を赤らめる。

 だけどレイラは、真摯な眼差しを向けるアトロから目を離さない。


「その後で、平和になった世界を一緒に回ろう」


 思いを言い切ったアトロが、右手をレイラの前に差し出す。


「……私で、いいの?」


「レイラがいいんだ。俺はレイラと一緒に、歩んでいきたいから」


 その言葉で、レイラは気づいた。アトロが本気で自分を必要としてくれていることを。

 

 レイラもまた覚えていたのだ。

 アトロが自分を外に連れ出してくれると、約束してくれたことを。なのに今日まで何にも言ってくれなかったから、忘れていたのかと思っていた。

 だけど、やはり覚えてくれていた。そして、自分と一緒に歩んでいきたいと言ってくれたことが、何よりも嬉しかった。


「――そう言ってくれて凄く、嬉しいわ」


 アトロの手をレイラが握って握手を交わす。互いに頬を赤く染めながら笑顔を浮かべて。

 

 最初に出会った時も、こうやって握手を交わした。

 だけど、この握手の方がアトロにとってもレイラにとっても暖かかった。


「それじゃあ、行ってきます。世界を救いに」


 その言葉を残して二人は並んで歩いて行った。

 

 向かう先は未だ未定で、どんな出会いがあるのか、どんな困難が待ち受けているのか、どんな幸福を生み出していけるのか、何も分からない。

 

 だけど、この旅の終着点は決まっている。


 世界を救うこと。


 僅か七文字の目標だが、とてつもなく大きい目標だ。

 アトロは一度はこの目標を達成する手前まで行ったが、全てを失う「リセット」を味わった。


 これはそんな「リセット」を味わった勇者が、今度こそ世界を救う物語。

 

 そして歩み出す二人の足跡は――彼の、アトロの勇者としての物語の「リスタート」を描き始めたのだ。 

お読みいただきありがとうございました。



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