モフ姫様は実はモフモフよりガチガチの方が好きらしい。
モフ姫をご存じだろうか?
それは歴史の教科書にも必ず登場するほどの大偉人のことである。
本名を『マフラ・ファラ・ララティック』と言い、大変ややこしく、試験で答える際にはこのラの数を間違えないように注意が必要だった(1敗)。
ではモフ姫はどのような偉人なのか、それを簡単に説明しよう。
俺が生まれてくる前のこと、人間の国と獣人の国との仲は悪化する一方で、戦争一歩手前まで行っていた。
互いに生活様式も信仰も違いすぎたと言うのもあるが、根本的な問題はやはり容姿の違いにあったという。
そんな国家間の危機を救ったのがモフ姫だった。
何処からともなくやって来たモフモフ姫は、モフモフと人間の共存という大目標の元、両国融和に向けて獅子奮迅の活躍をし、時に争いを圧倒的な力で終わらせ、時に人々を辛抱強く諭した。
要するに今でこそ仲良く暮らしている獣人と人間の生活も、全てはモフモフ姫のおかげだということである。
両国融和の象徴的人物……まさに大偉人と言うに相応しい。
そんな姫はまあ名前の通りモフモフが大好きなようで、現在では人里離れたモフ御殿に居を構え、モフモフな動物や妖精たちに囲まれてモフモフに過ごしていると言う。
モフ御殿へ人を寄越す際には、やはりモフモフな獣人が行くことが多い。
別に決まりというわけではないのだが、何となくみんな気に入られたくて、そうしている。
しかしながら相手も傑物、ちょっとモフモフを見せた程度で甘い態度を見せることはないらしく、その態度は厳しく業務的だと友人の狼人から聞いていた。
そんなモフ御殿に今日、俺は向かっていた。
きちんと許可を取ってのことなので何も問題はないのだが、しかし、すごく、ものすごーく心配なことが俺にはあった。
何を隠そう俺ことリントヴルム・ダネイヴィアは……全身ガッチガチの竜人の男子なのだ。
モフモフ要素……ゼロ!
あー! せめて東洋種だったら割と背中とかモフモフだったりするんだけどなー!
どうしてわずかにもモフモフでない俺がモフ御殿へ向かう羽目になっているかと言うと、最近になって竜たちが「あれ、モフ姫に挨拶してなくね?」と分かったからである。
……身内の恥なのであまり言いたくないのだが、竜人たちは非常に高慢かつ適当なので、完全にモフ姫のご機嫌伺いなんて忘れていたらしい。
竜人は政治って言葉を知らないのかよ!
流石に大偉人に失礼すぎたのではないかと心配になった爺様たちによって、若くて比較的穏やかな俺が選ばれて、こうして挨拶に向かっているというわけである。
まあ、要するに、完全な外れクジで損な役回りをやらされている。
若いとこういう時押し付けられがちなんだよなぁ……。
それにしても大好きなモフモフ相手にも厳しいという姫が、果たしてガチガチでしかも失礼極まりない竜人相手にどんな態度を取るのか……。
想像するだけで恐ろしかった。
千切っては投げ、千切っては投げされたらどうしようか……。
ちぎなげは嫌だ……ちぎなげは嫌だ……。
戦々恐々としつつも足は勝手に進んでいき、気が付けば俺はモフ御殿の前までたどりついていた。
滅茶苦茶怖いし、生来ビビりなので逃げたくなるが、しかし、流石にここで逃げていては竜人の名が泣く。
泣く泣く俺はご立派なお屋敷のベルを引っ張った。
まるで開幕を知らせるように鳴り響くベルによって、屋敷から1人のメイドが出てくる。
真っ黒な尻尾と、互い違いの色の耳が鮮やかな、猫人のメイドだった。
メイドは屋敷の顔というが、このメイドさんは大変な美人であり、顔としてパーフェクトと言わざるを得ない。
「リントヴルム様ですね?」
「あっ、はい! リントヴルム・ダネイヴィアです! 当主ドレイクに代わり、マフラ・ファラ・ララティック様にご挨拶したいと……」
「ええ、聞いております。どうぞ中に」
立ち居振る舞いは優雅なメイドさんだが、その目には「いや、当主が来いよ」という意思が混じっているような気がする。
俺もそう思います……! 申し訳ありません……!
罪悪感と恐怖で胸を痛めつつ屋敷の中に入ってみると、そこは想像以上に想像していた通りの空間だった。
そこらかしこをモフモフな小動物が闊歩しており、宙には毛玉の妖精らしきものがフワフワと舞っている。
そして調度品の数々にも徹底してモフモフなカバーがかけられており、履かされたスリッパもモフモフだし、廊下のカーペットもモフモフだった。
こ、これがモフ御殿……!
驚く俺をよそにメイドさんは進んでいき、これもまたモフモフなドアをノックする。
モフ姫の部屋らしき場所周辺は、更にモフモフが増しており、もはやヴォッフヴォッフしていた。
「モフ姫様、ダネイヴィアの者が参りました」
「はい、どうぞ入ってください」
中から聞こえて来たのは可憐な声。
それは想像以上に若い声だった。
「良いのですか? 竜人ですよ、ガッチガチですよ、腹筋がきっと6つに割れていますよ?」
「構いませんから」
うわーお、わざわざこんな注意が入るとは!
確かに腹筋は割れているが、服越しでそれすら問題になるのか……!
モフ姫はそれほどまでにガッチガチな存在に近寄りたくないということらしい。
まあ、そうじゃないとこんなモッフモフな屋敷に住まないよな。
増していく恐怖を必死で抑え付けながら、モフモフなドアノブカバーを捻り開かれたドアの先では──真っ白な少女がやはりモフモフな椅子に腰かけていた。
モフモフ姫は驚くほどに可憐だった。
わ、若い! 話には聞いていたけれど、想像の何倍も若い!
俺より当然年上のはずなのだが、明らかに年下としか思えないほどに、モフモフ姫は幼く見える。
また、周囲のモフ成分を吸っているのか本人の容姿も何処かモフモフしており、髪の毛はまるで雲のような広がりをみせていて、その頬は太陽のように眩しい輝きを放っている。
要約すると……もう滅茶苦茶可愛かった。
「よく来てくれましたね、どうぞそちらの椅子に」
「あっ、いや、はい! リントヴルム・ダネイヴィアです!」
あまりに可憐だったので思わず声を出すのも忘れていまい、大変失礼な入室となってしまう。
こうなっては更に喋り続ける方がおかしいので、慌てて椅子に腰かけるしかない──
あれ、この椅子固くね?
モフ姫に向き合うように設置されたその椅子は、如何にも固い木製の椅子である。
ここまでモフしかなかった空間に、明らかな異物。
まさか俺を座らせるために用意した……?
だとすれば明らかな嫌がらせであり、やはり歓迎されてないことは間違いないようだった。
これは心して望まないといけないな。
覚悟を決めて着席しモフ姫の言葉を待つが──いつまでたっても彼女の言葉はなく、モフモフな部屋に静寂が染み渡っていく。
こ、こちらから話しかけるべきだったか?
「ピューナ、ここはもういいですから、下がってください」
「ですがモフ姫様、危険が……」
「私より強い者なんていませんから。それはピューナが一番わかっているはずですよ」
「……了解しました」
先に話すべきか迷っていると、モフ姫が先にメイドさんに声をかける。
ここで下がらせる意味はよく分からないが、しかし、何よりも恐ろしさだけは伝わって来た。
やっぱり強いんだよな……きっと俺なんて瞬殺だろう。
メイドさんが去った後、もう一度静寂が訪れたが、それを崩したのもまたモフ姫だった。
彼女は立ち上がり、スタスタと、いやモフモフと歩いてこちらに近付いてくると、俺の横で停止する。
そしてこちらをジロジロと、穴が空くほど眺めて来た。
な、なに!? 何をしようとしているんだ!?
圧がすごい! こちらを見る目がもう尋常じゃない色をしているし、眼力が強すぎる!
く、食われたりしないよな!?
「すっごいカチカチですね!」
「えっ? いや、まあ、はい……硬いですが」
「光を反射してヌラヌラと輝いていて、大変エッチです」
「はい、まあ、エッチ……エッチ!?」
急に何を言い出すんだこの人!?
エッチ? エッチとは!?
もしくは俺の聞き間違いか……? 大変エッジですと言ったのか?
いや、そうだよな! ここでエッチですなんてモフ姫が言い出すはずがない!
それ以前に、鱗を見てエッチとか言い出す奴はこの世のどこにもいない!
別に竜人から見ても別にそこはアピールポイントじゃないし!
「すいません! ちょっと緊張して耳が遠くなっていたようで……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。大丈夫、大丈夫……はぁ……はぁ……!」
「なんで息を切らしているんですか!?」
モフ姫の白い顔はいつの間にか真っ赤になっていて、明らかに興奮している様子だった。
一体、何に興奮しているんだ? 怒りに? やはり怒りにか?
「ふぅ……ふぅ……やはりもう我慢なりません! 貴方を触らせてください! 撫でさせてください! そして舐めさせてください! 私のよだれで淫靡に輝くその赤い鱗を見せてくださーい!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ついに意味不明なことを言いながら飛び掛かって来たモフ姫を、俺は咄嗟に殴りつけた!
「ゴボファッ!」
回避行動も一切取らなかったモフ姫は顔面にもろにパンチを喰らい、竜人の腕力により部屋の隅へ一直線に吹っ飛んでいき、調度品を崩しながら壁に激突する。
部屋がモッフモフなので大きな音がしなかったのは幸いだった。
……いや、どこも幸いじゃねぇよ!
殴ってしまった! 大英雄を殴ってしまった!
だってなんかキモかったから!
「す、すいません! 咄嗟だったもので……」
「ふふふふっ……硬い拳の感触もしゃいこうでしゅ……」
「うわぁ」
思わず素でドン引きしてしまう。
モフ姫は赤くなった頬を撫でながら、恍惚の表情でこちらを見ていた。
殴られて喜んでやがる……。
「思わず我慢できず飛び掛かってしまいましたが……ふふふ、これで私の本性がお分かりいただけたことでしょう」
「いや、何も分からないんだが……いや、分からないんですが」
「ため口でいいです! むしろため口じゃないと怒ります!」
興奮したように立ち上がったモフ姫はヨロヨロとこちらに近付いてくると、鼻から血を出しながら、こう宣言した。
「いいですか、私はですね……モフ姫と呼ばれていますが、実はモフモフよりガチガチの方が好きなのです!!!!!!!!!!!!」
モフ姫のその言葉に、俺は思わず呆気にとられ、口をあんぐりと開ける。
そ、そ、そんな馬鹿な……。
「いや、だってモフ姫って……」
「自称じゃないです! 他称です!」
「モフモフの為に両国の融和に励んだって……」
「獣人たちと人間たちを仲直りさせたかっただけです! 獣人サイドにいることが多かったので、なんでかそうなったんです!」
「屋敷も超モフモフだし……」
「これは私がモフモフ好きだと勘違いした人たちがモフ一色に染め上げてしまったんです! 本当は私だってもっと普通の屋敷に住みたかったですよ!!!!!!!!!!!」
「なんってこった……」
モフ姫を彩るモフの数々。
これが全て勘違いから来る産物だったとは……。
「というか、なんでこんな勘違いが広まったんだよ」
素直に疑問を口にすると、モフ姫はワナワナと震え始める。
「それはですね──むしろモフモフの皆さんの方が私にモフモフされるのが好きなんですよ。それでよくモフモフしてあげていたんですが、やりすぎて、いつの間にか私がモフモフするのが好きってことになっていたんです!」
「すぐ否定すればいいものを……」
「今更できませんよ! というか獣人の皆さんがすごく悲しみそうですし……」
……確かに喜んでいるみんなに「いや、別にモフモフ好きじゃないんで」とか言ったら滅茶苦茶落ち込むのは想像に難くない。
しかも、今となってはモフ姫がモフ好きという事を前提に全員が行動しているせいで、もはやこれを否定することは国家規模の大問題に発展しかねない恐れもある。
いや、そんな国家秘密を知ってまった俺はどうすれば。
「さて、私の秘密を知ってしまった以上、貴方をただで帰すわけにはいきません……」
「しまった! これが狙いか!」
「さあ! 私の毒牙にかかりなさい! いや、むしろ貴方の牙をしゃぶりたいでぶるばッ!!!!!!」
「はぁはぁ……またやっちまった」
なんかすっごいベロを動かしながら接近してきたので、やっぱり殴ってしまった!
女子に暴力振るうべからずと習ってきたこの俺が、まさか2度も女子を殴ることになるとは……。
「ふふふっ、ナイスパンチです」
「なんで平然と立ち上がれるんだよ! そしてモフモフが好きじゃない事とガチガチが好きなことは別の話じゃないか!?」
「ええ、まあ、別の話なのですが……しかし、モフモフ好きのせいで私の回りにはガチガチがやって来なくなったんです……そこに来て、竜人族の若い男が来るって言うじゃないですか? 私は思いましたよ。ああ、好きにしてくださいってことことだなって、エロい意味で」
「そんなつもりで来てねぇから!」
いつの間にかモフ姫の中で、そんな男娼みたいな構図が思い描かれていたらしい。
モフ姫がガチガチ好きだと知っていたら、爺さんたちならやりかねない危険性もあるので、完全に妄想と言うわけでもないが……しかしそれは黙っておくのが吉だろう。
知られたら全力で襲い掛かられる可能性が高いからな……。
「もう何十年も禁欲生活を送っていて限界なんですよ! 哀れなハンドレッドおぼこにお慈悲をくださいよー!」
モフモフな床に倒れてジタバタと駄々を捏ね始めるモフ姫。
こんな偉人の姿は見たくなかった……。
結構尊敬してたのに……!
「……俺は今日のことを忘れることにする。失礼しました!」
このヤバすぎる状況で俺に出来ることは逃走の二文字だけだった。
そう、逃げることは恥じゃない。生きていれば明日もある!
そう思ってモフモフのドアノブに手を伸ばしたのだが……しかし、そのドアは開かなかった。
な、何かに押さえつけられている!
「おっと、逃がしませんよ? こう見えても私は大が100個付くほどの大魔法使い、ドアを閉ざすくらいお茶の子さいさいです」
「戦うしかねぇってことか……」
「戦う? はーはっはっは! 仮にも英雄たる私に戦いを挑もうとはいい度胸です! その自信ごと舐めつくしてくれるわ!!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおお! ぜってぇ負けねぇ!!!!!!」
最低な発言をしながら何やら魔力的なオーラを出すモフ姫、対する俺は拳のみが武器。
不利な条件だがやるしかない……!
こうしてモフ姫と俺との戦いはこうして始まり、十分後……モフモフの部屋に立っていたのは俺だった。
「い、意外と弱い!」
「あはは……完全に平和ボケしていました……もう長いこと引きこもってましたからねぇ……」
「あんた何もかも偉人らしくないな!」
「私の人生、この世界に平和をもたらしたところがピークなんです……」
もうびっくりするくらい情けない大偉人だった。
ちょっと泣いているが、襲うのに負けて泣くなよと言いたい。
「い、いいじゃないですか、ちょっとくらい! 私、こう見えても超頑張ったんですよ? 日本からこの世界にいきなり連れてこられて、右も左も分からずに世界を救えとか言われて……獣人たちと一生懸命お話して何とか仲間になってもらって、今度は人間たちと会話して、みんな全然話を聞いてくれないから戦いも武力行使で頑張って止めて、世界を右に左に駆け回ってようやく平和になって……私、今日までこんなにいい子に、めっちゃ仮面被ってやってきたのに、その結果がこのモフモフ地獄だなんて……! ううっ……生きててすいませんでした……」
「やめろ! ガチ泣きするな!」
モフ姫なりにかなりの苦労が今日まであったらしく、思い返すだけで彼女はボロボロに泣き崩れていた。
彼女はこの国を救った功労者であり、悪い噂も全く聞かない清廉潔白な女性だ。
それ故に、今日まで色々な不満が溜まってしまったのだろう……モフモフへの拒否感とか、ガチガチへの欲求とかが。
やっていることは完全に犯罪であり、最低最悪かつ愚劣なものなのだが、一応、戦ってみた限りではあまり本気さは見受けられなかった。
いかに衰えたとはいえ、国を救った魔法使いが本当に本気を出していたら、俺みたいな若輩者が勝てるわけがない。
恐らく、欲求を行動と声に出して発散したいだけで、実際に襲う気はないのだろう……彼女は善人の仮面を外してなお、悪人になり切れない哀れなピエロなのだった。
……モフ姫のこんな(ベロンベロンに舌を動かしながら接近する)姿は見たくなかったが、俺の一番見たくないのは、そんな彼女の泣いている姿である。
両国の平和を築き上げたモフ姫、彼女のその働きに見合うほどの褒美なんてこの世には一つもないかもしれないが、それでも、幸せではいて欲しい。
俺の最も尊敬する偉人なのだから。
憐みからなのか、それとも尊敬からなのか、施しからなのか、その時の俺の気持ちは自分でも理解しかねるものだったが、俺はモフ姫のそばに跪くと……彼女の頭を撫でた。
モフモフでフワフワな感触が手に伝わる。
「大偉人のあんたが馬鹿なことすると世界に悪影響だからさ、まあ、俺がそばにいることで多少楽になるなら、いてやってもいいよ」
一瞬、何を言われたのかも分からずきょとんとするモフ姫は、やがて興奮するようにガタガタと全身震えだし始める。
振動の仕方が尋常じゃなさすぎてホラーだ。
本当に人間か?
「えっ……マママママママ、マジデスカーン!?」
「マジデスカーンってなんの魔法だよ……」
「では、あの、執事になってください!」
「ああ、それくらいなら別にいいよ」
「ふぉんとに!?」
「ふぉんとふぉんと」
実は特に仕事もない身分に退屈していたので、むしろ執事になるのは好都合なくらいだった。
大偉人の執事ともなれば、爺さん共も納得してくれるだろう。
いや、むしろ嬉々として送り出すだろうな……やつら、竜ってやつは悪知恵だけは働くんだから。
「や……」
「や?」
「やったー!!!!!!!!!!!!!!! 我が世の春です! ドラゴン執事を手に入れてしまいました! 長く苦しい時はこの日の為にあったんですね! ありがとう神様! でもくたばれ神様!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶモフ姫だが、その鼻からは鼻血と鼻水がダブルで出ていて大変酷い有様だった。
仕方なく、俺はハンカチを取り出す。
どうやらこれが執事としての最初の仕事になるらしい。
「ほら、じっとしていろ」
「えっ、あっ……ありがとうございます!」
ハンカチで鼻をぬぐってやると、モフ姫はにっこりと微笑む。
それは先ほどまでの気持ち悪い笑みではなく、純粋な、太陽のような笑みだった。
思わず見惚れてしまいそうになった俺は、咄嗟に目線を逸らす。
み、見た目だけは掛け値なしにいいのが厄介だ。
「こ、こんなのが最初の仕事になるとはな」
「ご不満でしたら……ね、寝屋を共にするのを最初の仕事にしても良いのですよ!!!!!!!」
「調子に乗るな!」
「ぬほー!」
手をワキワキさせながら近付いてくるので、もう何度目かの鉄拳制裁を喰らわせると、到底女子とは思えぬうめき声を上げる。
しかし、その表情は謎に幸せそうなのだった。
嗚呼、こいつの執事になるなんて、早まった考えだっただろうか……。
後悔先に立たず、俺はこうして変態モフ姫の執事になっちまったのだった。
なんというバッドエンド。
「最高のハッピーエンドです! いえい!」
読んでくれてありがとうございます!
面白いと思っていただけたらブックマークや★などいただけますと励みになります!
普段は嘘が付けない悪役令嬢とか書いているのでそちらもよろしくどうぞ。