2話 木こりの少年
初めて少女を見たとき、この世界に降り立った天使だと思った。
笑いかける姿は眩しく、当時の僕は好きになった、
他の誰よりも銀髪の少女を護りたかった。
だけど、いつか旅人としてこの村から居なくなる。
それが明日か来年か分からない。けど、このままお別れをするなんて嫌だった。
だからこそ、僕は少女の騎士を目指した。
◆
騎士に必要な筋力と判断力。
それを鍛えるには木こりが向いていると旅人は仰った。だからこそ、僕は農家の手伝いを無理を言って辞め、木こりの親方に弟子入りした。
木こりになって一年。
その間、少女はお話を創っては僕に聴かせてくれた。その中には、僕のことを面白おかしく脚色した物もあり、笑顔になれた。
少女から見た僕は、剛腕の木こりだと知ったのもお話だ。
そして、悲しいことに僕の恋心を理解して貰えていないことも気づいてしまった。
つい最近なんて、僕が少女を好きだなんて嘘を言いふらしたのにも関わらず、成り行きをコロコロと笑うだけ。
思うに、少女の恋愛頭脳はポンコツなのだ。
だって、僕の数年にも及ぶアプローチは何一つ届いていなかった。
だからこそ、直球でいくしかない。
——覚悟を決めるんだ。これでダメならって……
◆
少女の自宅は村の端に位置する。
僕の家からは遠い。けど、幸運なことに木こりとして働く場所から近い。
その為、木こりになってから毎日のように少女へと会いに行く。
いつもと同じようにドアをノックする。
だけど数回ノックしても返事は無い。
「はぁ——またお話に夢中になっているな」
少女の悪い癖の一つ。
それはお話を想像していると、周りが見えなくなること。
僕が来なければ、食事を抜いてしまうくらい熱中するのだ。空腹を感じないなんて信じられない。
初めて会ったときから一つの物事に集中すると周りが見えない子だった。
だからこそ、僕は彼女の面倒を見ることを引き受けた。
一年経ち最近では遠慮が無くなってきたのか、足蹴にされる機会も増えた。
全く喜ぶべきか、悲しむべきか。
村人で唯一、少女にとって気の置ける存在だとすれば努力したかいがあったけど。
「…おーい、食事を持って来たよ!」
大声で外から叫んでも、物音ひとつ聞こえない。
玄関付近に居ればなぁ……はぁ。
「…入るしかないよね」
家主の許可なく入るのは正直ためらいます。
これが他の女子部屋なら覗きと勘違いされて、ボコボコにされるのだ。
つい先日も一人の男の子が好奇心に負け、少女たちから口喧嘩の勢いで心をボコボコにされている。
——当分少女たちに話しかけないでおこうと誰もが思ったほどだ。
だけど彼女は普通じゃないからなぁ……
その美貌ゆえ誰もが告白すると思われる。けど、実際には誰もが躊躇う。
その理由は少女が変わっているから。
「でも行くしかないよな」
……部屋の前まで行くと、少女の声が聞こえる。
思わず聞き耳を立てると、僕のことを話しているみたい。
内容は——まぁ、いつも通り罵倒だ。
昔は罵倒じゃなくて、英雄みたいにカッコイイ主役だったのに、どうして最近は笑い担当みたいな扱いになったのだろう。
少女の機嫌を損ねることなんてした覚えはない。
「——ですが英雄にはなれないので」
「おいおい、それは酷いぜ! 黙って話を聞いてたら、ただの罵倒じゃねえか!」
いつも通り少女との掛け合いを楽しむことにする。
例え、僕の発言を聞き、ムッとしたって構わない。
僕の好感度なんて少女しか分からないのだから。
考えるだけ無駄なのだ。
◆
——やらかした。
だけど、それでも僕の気持ちが届かない。ある意味、告白みたいな事を言ったのに。
少女の表情は変わらない。少しばかり考え込むが、僕の求める答えではない。
そして、それが杞憂だと分かりホッとした。
それから僕の話へと移行した。
いつものごとく、少女の口車に乗ると、僕の話がメインになってしまう。
本当は彼女が何を好きなのか、何をしたいのか知りたいのに。
「ユウリだって騎士になる為にここから出ていくんでしょ? あてはあるの?」
僕にも夢がある。
それは騎士になることだ。騎士になれば、彼女のことを護ることができるはずだ。少なくとも、その辺のごろつきやモンスターなんて敵じゃない。
その為に、王都に行くつもりだと、答える。
確か彼女も王都に行きたかったはず。
とある旅人は少女に吟遊魔術師を勧め、王都に来るように言ったらしい。何でも旅人さんが師匠を引き受けるつもりらしい。
まぁ、彼女の驚く表情が見たいから師匠になってあげる話は言わないでとお願いされたけど。
そして、黙っている代わりに騎士になる手伝いをしてくれるとも言ってくれた。
何でも、僕と同じ境遇の騎士を知っているらしく、協力してあげたいとのこと。
よく分からないけど、棚からぼたもちだ。
騎士になる道標を示してくれた旅人さんには一生頭が上らないだろう。
だからこそ、これは勝負だ。
恐らく、一生忘れることのない。僕にとっての最初の一歩だ。
「——俺と一緒に来ないか」
「ねえ、私にも分かるように話してくれる?」
少女が何か考え込み、そして答える。
聡明な少女なら理解してくれるかと思ったけど、全然分かってくれない。
何故か昔から、恋恋慕の話が加わった途端、少女の頭脳はポンコツになってしまうのだ。
——天才は時にポンコツなのだ。
それでも、なんとか説明を続けていく。
その場の勢いで思いついた話も絡めて、メリットを提示していく。
それを聞き、少しずつだけど来てくれそうな感覚が強くなる。
そして、しばらく考え込む。
今度は話を理解した上で考え込んでいるのか、青い眼が意思を持つ。
「ええ、お願いしますね。私も一緒に王都に行くことにしました」
その日から僕と彼女の歯車は動き始める。
後に吟遊魔術師となる少女を隣で支える夢を胸に。
——僕の道標は定まった




