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気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!  作者: 味噌村 幸太郎
第二十三章 第二次テスト大戦

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押忍っ! 夜臼先輩


 無事にというか、今回は男子が優遇されて筆記試験は終了。

 お昼ごはんの時間になった。


 千鳥や花鶴は弁当を持ってきていないので、学校近くの飲食店までバイクに乗って向かうらしい。

 それを走って追っかける一匹の豚じゃなかったトマトさん。

 文字通り、花鶴の尻をエサにしてブヒブヒ言いながら、喜んでいた。



 教室に残った男子は俺とミハイルのみ。

 他には北神 ほのかなどの大人しい女子たちが弁当を各々机の上に取り出す。

 もちろん、俺もミハイルも弁当のフタを開ける。


「いただきますっ」

 手を合わせて、お百姓様に感謝する。


 そこを白い華奢な細い手が止めに入った。

 ミハイルだ。


「ちょっと待って!」

 頬を膨らませて、睨んでいる。

「どうした?」

「お弁当、交換する約束じゃん!」

「え……」

「前はしただろ。オレ、タクトのためにちゃんと弁当作ったんだから! こう・かん!」

 子供のようにすねる。

 交換ていうか、ほぼ強要だよね。

 お目当ては俺のたまご焼きだろう、どうせ。

「わかったわかった、ほれ……」

 言われて仕方なく互いの弁当を交換する。



 ミハイルが用意してくれた弁当を手に持つと、ずっしりと重みを感じる。

「な、なにが入ってんだ……」

 恐る恐る弁当箱のフタを開いてみると、そこには色とりどりの旨そうなおかずがぎっしり。

 巨大なハートの形をしたハンバーグ、星の形をしたポテト、スパゲッティ、タコさんウインナー、そして白飯が詰められていたのだが、桜でんぶで文字が書かれており……。

『せかいで一人だけのダチへ☆』

 なにこれ……。

 俺って、生涯でミハイルしかダチを作っちゃいけないってこと?


 ふと、隣りを見れば、俺が焼いたたまご焼きを嬉しそうに頬張るミハイルが。

「んぐっ……んぐっ……ぷっはぁ……はぁ、おいし☆」

 相変わらずのエロい咀嚼音だ。

 ま、いっかととりあえず、俺も彼の作った愛妻弁当ならぬマブダチ弁当を頂くのであった。



  ※


 昼食を終え、午後の体育まで少し時間が余った。

 俺とミハイルが、何気ない話で時間を潰していると、急に教室の扉が勢いよく開いた。

 弁当を持参してくる連中は俺たち以外、みんな大人しい。

 だから、全員ビクっとした。


「おぉ? なんだっ、こんだけかよぉ」


 目に入ったのはその奇抜なファッションだった。

 レザーベストを素肌に着て、両腕には龍と虎のタトゥー。

 それから髑髏の刺繍が入ったハーフパンツにサンダル。

 頭はストライプ状に刈りあげた坊主。

 酷くやつれていて、目の下には大きなクマ。

 ギラギラした目つきで、見るからにヤバそうな人間だと、俺でもわかる。

 こいつはきっと薬中だ……。

 いかん、ミハイルを守らないと!


「ちっ、これじゃ。あんまり売れないねぇなぁ……」


 やはりシャブを売る気だな。

 俺は机の上で小さく拳を作った。


「ねぇ、琢人くん」

 ほのかが俺に耳打ちする。

「どうした、ほのか……あいつを知っているのか?」

「噂だけど……なんか最近まで留置場に入っていた夜臼(やうす)先輩じゃないかな」

 なん、だと!?

「つまり犯罪を犯して、お巡りさんのお世話になっていたというのか?」

 一ツ橋高校は確かにヤンキーみたいな連中が多いが、ここまでヤバい人、しかもムショあがりのヤツなんて聞いたことない。

「あくまでも噂だけどね。『夜臼先輩だけはヤバい』って千鳥くんも言ってたよ」

「あの千鳥がビビるような相手か?」

「うん……目を合わせないほうがいいかも」

「そうだな」

 俺とほのかは、互いに頷きあい、夜臼先輩から視線をそらす。



「お~い、てめぇら。俺りゃあよ、夜臼 太一(やうす たいち)ってもんだけどよぉ……」

 自己紹介を始めたよ……早く教室から出ていけ。


「へぇ、太一ってんだ。オレはミハイル。よろしくな☆」

 机の上で、顎に手をつきながら、フランクに話しかけるミハイルちゃん。

 怖いもの知らずだな。

「おう、ミハイルってのか……へへん、良い態度じゃねーか」

 不敵な笑みを浮かべる夜臼先輩。


「ちょっ! ミハイル、やめとけ!」

 俺は必死に彼をとめようとするが、当の本人は「なんのこと?」と言って悪びれることもしない。

 むしろ夜臼先輩に興味津々のようだ。


「こらぁ! てめぇ……なにコソコソ喋ってやがんだ、オイッ!」

 そう言って俺を睨めつける。

 気がつけば、舌をなめまわしながら、こっちにグイグイ近寄ってきた。


「お、俺のことですか?」

 恐怖から背筋がピンとなる。

 ヤベェよ、薬中とか急に包丁とか出してくるんじゃないか?

 死にたくない。

「おめぇ……名前なんてーんだよ?」

 喋りたくねぇ。

 俺が躊躇していると、隣りにいたミハイルが勝手に紹介し始めた。

「太一、こいつはオレのマブダチでタクトっていうんだよ☆」

 こんな時でさえ、ミハイルは満面の笑顔で応対。

「へぇ……琢人っていうのか。教えてくれてありがとよ、ミハイル」

「別にいーって、太一もこの学校の生徒なんだろ? 気にすんなよ」

 だからなんでそんなに社交的なの?

 怖くないの?

 どう見ても、年上に見えるよ。


 怖くなって、ほのかの方を見たが、彼女は他人のふりをしていた。



「なぁ、琢人。おめぇよ、いいもん買わねーか?」

 キタキタ! これ、絶対白い粉のやつだ。

「な、な、なにを買うんですか……」

 生きた心地がしない。

「何をって、おめぇ、野暮なこと聞くんじゃねーよ。そいつを1回でも味わってみろ。もう病みつきだ。そのせいで、俺りゃあよ、この前サツにパクられちまって大変だったぜ。ま、蘭ちゃんがサツにかけあってくれたから、早くシャバに出られたけどよ」

 超ヤバいやつじゃん。しかもよく見ると、夜臼先輩の首筋や腕には、紫色の小さなアザみたいプツプツが、そこらじゅうにある。

 重症のジャンキー野郎だ……。

 生唾を飲み込む。



「ら、蘭ちゃんって……宗像先生と年が近いんすか?」

 恐る恐る聞いてみた。

「バカ野郎、俺りゃあ、もう今年で36だぞ。蘭ちゃんの方が年下だよ。いい女だよな、あの先生」

 めっちゃ笑ってる。

 下から見てるせいか、超悪い顔に見える。

 ヤベッ、宗像先生がヤラれちゃうかも……。

「そうだったんすね……」

「まあな、つまらねー話だよ。俺りゃあこの商売でしか生きていけないんだからさ。しみったれた話は終わりにしてよ、今日は極上のブツを手に入れたんだ……なあ、琢人。おめぇになら、初回のみタダで味わせてやるぜ? ヘヘヘッ……ま、蘭ちゃんには内緒でよ」

 俺をシャブ中にする気か!

 嫌だ、それだけは断固として断る!

 そんなアングラ取材は、某闇金マンガで勉強しているので、間に合ってます。


「いや、いらないっす……」

 震えた声でそう言うと、夜臼先輩は顔を真っ赤にして激怒した。

「んだと! 琢人、てめぇ……俺りゃあの好意を受け取れねーってか? 今回だけ、タダにしてやるってのによ!」

「……」

 なにも言い返せなかった。怖すぎて。


「タクトが嫌がってんじゃん。もうやめてやれよ、太一」

 怖がる素振りも見せず、腰に手をやって怒りを露わにするミハイル。

「だってよ、琢人が俺りゃあのアイスを食わないっていうからよぉ……」

 アイスだと? やはり覚醒剤じゃないか!

 噂では、売人たちはシャブをアイスと言う聞く……。


「え、アイス? 美味しそう!」

 乗っかるミハイル。

 意味をわかってないんだ。

「おっ! ミハイルは食ってくれるのか? 俺りゃあの極上アイス。天国にブッ飛んじまうぜ?」

「食べる食べる☆ デザートに美味しそう!」

 違う意味の天国だって!


「おい、ミハイルやめとけ。夜臼先輩の言っているアイスは、お前の知っているアイスじゃないんだ」

「え? なんのこと?」

 首をかしげるミハイル。



 そうこうしていると、夜臼先輩がどこからか、大きな肩掛けボックスを持ってきた。


「もう持ってきちまったよぉ、遅かったな琢人。残念だが、ミハイルにはこのブツの良さがわかるのさ。同じヤンキーだからなぁ、クッククク……」

 こんの野郎。俺のマブダチを闇落ちさせる気だな。

「ほれ、ミハイル。これが俺りゃあの自信作だっ!」

 ボックスを机の上にドシンッ! と乗せた。

 そして、ゆっくりと蓋が開かれる……。

 中から禍々しい白の煙が漏れ出た。


「さあ好きなのを選びな……」

 くっ! もう手遅れなのか。

 俺は悔しさから瞼を閉じる。

 ミハイルを守れなかったことが辛くて……。


「うわぁ☆ 美味しそう! じゃあ、オレこのチョコアイスが良い!」

 えっ?

「いい目してんじゃねーか。俺りゃあが作った自信作だからよぉ。トッピングするか?」

「うん☆ じゃあバナナとナッツをお願い☆ ホントにタダでいいの?」

「おおよ、今日だけだからなぁ。ヒヒヒッ、このことは蘭ちゃんには内緒な」


 俺は机から転び落ちて、床に頭を強くぶつけた。

 モノホンのアイスだったんか……。


「なんだ? 琢人も食いたくなったか? しょうがねーヤツだ。今日だけだぞ? 他の子たちも今日だけサービスしてやる。俺りゃあのアイスはオーガニックで身体にいいし、トッピングも豊富だぜぇ、ヒッヒヒ……」

 

 それを聞いて今まで脅えていたクラス中の女子たちが、夜臼先輩の元にむらがる。


「ヒッヒヒ、これだからアイスの売人はやめられねぇーな。琢人、お前はなんのアイスが良いんだよ?」

「じゃあ……バニラで……」


 あとで話を聞くと、夜臼先輩は校舎で無断でアイスを販売していた為、三ツ橋高校に通報されて捕まったらしい。

 妻子持ちの善良な福岡市民でした。

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