第一種目
一通りのブッ飛んだ説明を受けると、生徒会長の石頭君が俺に言う。
「さ、選手宣誓をしましょう。新宮くんは僕に合わせてくれればいいので」
「ああ、了解した」
なんで俺たち、一ツ橋の奴らには事前情報がないんだ?
三ツ橋の奴らだけ、把握してるのがムカつく。
きっと、宗像先生のことだから、俺たちに伝えるのを忘れてんだろうな。
石頭くんが一歩前に出る。マイクの前で手を掲げる。
俺も慌てて、彼の隣りに立ち、同様の行動をとった。
「宣誓! 僕たち~」
と彼が叫ぶ。
あ、次は俺が言うのか。
「私たち~」
ちょっと待て。このセリフは女の子の役だろ。
俺のそんな疑問を無視して、石頭くんが続ける。
「生徒たちみんなは~ 日頃の練習の成果を~」
あれ? また俺がつなげるの?
どう言えばいいかな?
「仲間たちと協力し~」
うむ、こんなもんだろ。定型文は。
すると石頭くんが俺を見て、ニヤリと笑った。
きっと「グッジョブ」と伝えたかったのだろう。
「裏切り、騙しあい、滅多糞にぶん殴り、蹴っ飛ばして……」
おいおい、なにを言いだすんだよ。
「誠心誠意、殺し合いすることを誓いますっ!」
石頭くんが壊れた。
なに恐ろしいことを言ってんだよ……。
言い終えると、ヒューッと冷たい横風が俺たちの前を通り過ぎる。
砂が目に入った。
殺伐とした空気の中、宗像先生は腕を組んで、上から俺をギロッと睨んだ。
「よくぞ言った! お前ら、最後の一人になるまで殺し合え!」
教師のいう事じゃねー!
「では、これにて開会式を終了する」
こんな世紀末な式典は初めてだよ。
※
とりあえず、式を終えると、俺たち一ツ橋の生徒たち、それから全日制コースの三ツ橋の生徒たちは2つにグループ分けされた。
一ツ橋が紅組、三ツ橋が白組。
その証拠に俺たちは帽子を全部、赤色にそろえる。
運動場に白いラインが楕円形に描かれる。
光野先生がTバック姿で、引いてくれた。
紅組が左側、白組は右側。
双方、白線の外側で固まって座る。
次の指示が出るまで、各々先ほどの話で盛り上がる。
「なあ、タクト。本当に人を殺さないとダメなの?」
涙を浮かべて、俺に相談してくるミハイル。
「そんな訳ないだろう……間に受けるな、ミハイル。普通に勝て」
悪ノリがすぎて、純朴なミーシャが困っているんだろうが。
「ねぇ、琢人くん。優勝したらなんでも願いが叶うんだよね!?」
鼻息を荒くして、興奮するのは北神 ほのか。
体操服が小さいようで、胸がパツパツだ。
キモッ。
「あれは、宗像先生が俺たちを勝たせたいがために言ったウソだろ」
誰が信じるか、生徒たちを賭け試合にするクソ教師のことを。
「わかんないじゃん! 私だったら、図書館にBL本を大量にぶち込みたいって願いにするわっ!」
ナニ言ってんだ、コイツ。そんな生臭い書物は学校が許すわけないだろうに。
「あーしは彼氏が欲しいかな~」
驚いた。『どビッチのここあ』らしからぬ、可愛らしい発言だ。
「なんだ? 花鶴はそんな願いでいいのか?」
おめーさんは、いつでもパンツをモロ出しだから、きっとそういう悩みごとはないと思ってたよ。
セ●レには苦労しないだろう。
「そりゃ、あーしだって彼氏欲しいっしょ。男らしい野郎がいいかな~」
「へ~」
どうでもいいと、鼻をほじる。
それを横で聞いていたミハイルが、急に立ち上がる。
「タクトは男らしくないよ。ものすごく汚くて女々しいヤツだからな! ここあは狙っちゃダメだゾ!」
「ブッ!」
思わず、唾を吐きだす。
近くにいた日田の兄弟に顔射してしまった。
「なに、マジになってんの? ミーシャってば」
花鶴は腕を頭の後ろにやり、腰を伸ばす。
丈があってない体操服がめくりあがり、ブラジャーが露わになる。
「ちゅーこく! タクトは変態だから願うなよ!」
オレってアンナちゃんを含めて、ミハイルにそんな風に見られてたんだ。
ちょっと軽くショックだわ。
「ハァ? 変なミーシャ。それに願いごとを決めるのはあーしっしょ♪」
鼻歌交じりで去っていく。
後ろ姿を見せると、俺はため息をつく。
こいつもはみパンしてらぁ。ブルマは身体が大きい人には向いてないな。
宗像先生の言った『願い事』でガヤガヤとにぎわう。
そんなことをしていると、準備が整ったのようで、運動場に白いテントが設置されていた。
テントの中には横長のテーブルにパイプイス。
一列になって、宗像先生、光野先生が座っていた。
スピーカーから酒やけしたガラガラ声が流れる。
「あー、では第一種目、『ファイナルデッド二人三脚』を行う!」
なんだよそれ。ただの二人三脚だろ。
「すぐにペアを作るように! 尚、本種目は早いもの勝ちだ。4つのペアを走らせ、一番最初にゴールしたものが次の試合に進める。その他の奴らは脱落、つまり死亡だ」
だから死なないだろうが。
「なるほど、二人で勝ち残ればいいわけか……」
俺が情報を整理していると、ミハイルが俺の腕に抱き着く。
「タクト! オレとペアを組もうぜ☆」
「ああ……」
組まないと殴られそうだもんね。
※
俺はミハイルの細くて白い脚に、紐を通す。
「あひゃっ、くすぐったいよ☆」
変な声を出すな。ドキッとするだろうが。
彼の右足と俺の左足を密着させ、紐で固定する。
「勝つぞ、ミハイル」
「うん☆」
俺たち以外にレースに出場したのは、一ツ橋から日田兄弟。
それから三ツ橋の吹奏楽部の女子二人、あとは生徒会のおかっぱ女子組。
光野先生がスタートラインに立つ。
もちろん、パンツ一丁で。
夕陽が落ち、辺りは暗くなりだす。
「よおい……」
ピストルの音が運動場に鳴り響く。
「ドン!」
「いくぞ、ミハ……」
言いかけた時は既に遅かった。
「うぉおお!」
ミハイルは全速力で、走り抜ける。
他の連中なんか、全然追いつけないほど。
もちろん、この俺もだ。
つまり、どういう状態かというと、馬にロープをかけて引きずり回されているようなものだ。
ミハイルの速度についていけなかった俺は、地面に顔を叩きつけられる。
「いってぇ! ちょっ……グヘッ…待って!」
だが、俺のそんな叫びもむなしく、彼の耳には届いてない。
「負けないゾぉ!」
両腕をブンブン振り回して、走り抜ける。
その度に、俺の頭が上空にバウンドしてはまた地面に直撃する。
なんて馬力だ。
もう処刑に近い。
口の中が土でいっぱいになった頃、やっとのことで彼が足を止める。
俺はよろよろと立ち上がった。
「ゴールしたのか?」
土をペッペッと吐きだしながら、ミハイルに聞く。
「ううん! まだだよ! 変な箱が置いてある」
「箱?」
目の前を見ると、机の上に青いプラスチックのケースが。
箱の中は白い粉で埋もれていた。
「なんだこれ?」
「ああ、こりゃアレだな。アメ食いだ。この砂の中にアメが入っているから、手を使わずに口で探せ」
「わかった!」
俺とミハイルは同時に顔を突っ込む。
目をつぶると、唇の感触だけで固形物を探し出す。
ミハイルの行動は確認できないが、きっと彼なら大丈夫だろう。
「ペロッ、チュッチュッ……んんっ…プハッ! ハァハァ…」
なんだ? 隣りからめっちゃいやらしい音が聞こえてくる。
「んん……も~う、なにこれぇ。んん、チュッチュッ…」
俺はアメ探しどころでは、なくなっていた。
耳をすませば、聞こえてくる。このエロチックな咀嚼音。
「んちゅっ、ぱぁ……レロレロ、んっ、ちゅちゅ……」
なんか音がどんどん俺の方へ近づいてくる。
まさかな…嫌な予感が走る。
俺だけでも先にアメをゲットして、顔を上げようと急ぐ。
負けじと、その音も早くなる。
「レロレロ……」
クッソ! 中々、見つからないな。
「んっ、ハァハァ……チュッチュッ」
迫りくる可愛い声。
ヤバい!
カプッ!
やっと見つけた。
前歯でしっかり固定すると、勢いよく顔をあげる。
「プハッ!」
どうにか、彼が近づく前にアメをゲットできたな。
ん? なんかアメが重たく感じる。
何かこう、横に引っ張られるような……。
白い粉で視界が覆われていたので、よくわからなかったが、微かに「ハァハァ」と誰かの吐息を感じる。
瞼をパチパチさせて、粉を落とす。
すると徐々に、視界が回復してきた。
「タ、タクトぉ?」
「あ……」
寸前だった。
俺とミハイルは接吻する直前で、静止していた。
そう、1つのアメを二人でかじっていた。
気がついたミハイルは驚いて、歯の力を緩める。
自然とアメは俺の口に入り込んだ。
ビックリしていたのは、彼だけではない。
俺は思わず、アメを飲み込んでしまった。
「食べ、ちゃったんだ……」
彼は頬を赤くして、俺を見つめる。
これは事故だ。
だが、彼と唾液交換してしまったことも事実だ。
その後、俺とミハイルはめちゃくちゃ突っ走って、首位を獲得できた。
まるで全てを忘れたいがために……。





