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あいつの家  作者: フランシスコ家光
井上の家(うち)
9/9

更生

 あ〜書きづれぇ…。自分の力の無さを痛感させられますねぇチクショウめ!

 今回はちょっと伏線な回です。これからは更新頻度を上げようと思います。頑張るぜ!

 現在の岩兎の()()()()()()()状態には、いくつかの矛盾がある。歩く、食べる、寝るといったことはまだ納得できないことはない。そうとしても会話、そもメモ帳に書き込む、という動作ができる時点ですでに「思考している」と言えよう。

 過去、自らの『病気』絡みで散々な目に逢ってきた岩兎は、「自分が何も考えなければ誰も傷つかない」という考えに至った。そんな彼のの現状を正確に表すとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()となるわけだ。



 食卓の上には鯖の味噌煮が載っている。二日前、せせらが苦戦しながら平らげたこのサバ味噌であるが、岩兎はその事実を知らない。罪な兄である。

「どう…?」

 一口、サバ味噌を口に含んだ岩兎に、せせらが身を乗り出して問う。

 せせらからすれば苦手であるがゆえにこれまで一切作ってこなかったメニューに初挑戦。ドッキドキの初陣…なのだが、岩兎にとってこれは短いスパンで繰り出された同じ料理。更には好物ゆえに作り慣れており、ジャッジはかなり厳しめだ。


 ──緊張の一瞬。


 岩兎の評価は…!

「…………」

 世にも苦々しい顔で、唇を引き結び、サバ味噌を凝視した後、ゆっくりと、口を開いた。

「負けました…おいしいです…」

 小学生のころ、トレーディングカードゲームで岩兎を打ち負かしたとき以来の反応に、せせらはガシッという音が聞こえそうなほどに力強くガッツポーズをし、敗者はあっという間にサバ味噌(ブツ)を完食した。

 悔しいことに自分で作るより美味い。岩兎は心の底からそう思った。




 さて、日も所も変わって週末の井上宅の玄関。昼前に突如現れた回向に連行されてきた岩兎が、ご案内される。

『まあ、この家の内情が気になったりしてたのは事実だが、いざってなると外に出たくないもんだな』

 岩兎がメモ帳にペンを走らせる。二秒で。女子ふたりもこれに慣れはしたものの、岩兎がいきなり懐からメモ帳を取り出して走り書きする様には、やはり少しばかり違和感を覚える。

 が、両名とも、どう見ても普通ではないこの行動について問いただすほど無神経な人物たちではない。しかもそれによる実害を被っていないのだから、さして気にする必要もないとスルーしていた。


 前回と同じ、自分をクラスメイトに慣らして学校に行かせるための場所。だが、今の岩兎には、今までとはまったく違うように見えていた。

『今までよりも視野が広い気がする。確かにこの間と同じ廊下だ。』

 井上宅は二階建てで、一階に居間や風呂、洗面所など、二階には主に寝室がある構造になっている。

『あれは──』

 階段を昇る寸前、岩兎は見覚えのある、それでいて見たこともないような景色を目にした。


 佳乃子の部屋に到着する。

 無機質かつ統一感のある家具の数々。男の部屋と言われたほうがしっくりくるような、華やかさに欠ける印象だ。

『こんな部屋で生活していてよく暗ったい性格にならないよな、この子。いや、案外みんなこういうものなのか?少なくともせせらは女の子女の子した部屋だけど』

 お前がこんな部屋とか言うな、と突っ込みたい。

 佳乃子の部屋の一角には本棚があり、実はこの男、初めてここを訪れた際にその本棚の中身を全て確認していた。どうやって、という問いは愚問だ。岩兎にとってそんなものは一瞥(いちべつ)すれば済む話なのだ。


 岩兎の目が本棚の一角に留まる。

『二列目 上段左端。ここはお菓子作りの本があった部分だ。チョコレートを特集したものに代わって、これは、女性誌?なんでここにいきなり?

なんだろう、お菓子の本との間に何か紙切れがある。俺には関係ないか。』

 部屋を見回したことにも、ある一角を凝視していたことにも気づかないほど自然な動きでメモ帳を開き、思考する。もはやこれは、常人が顎に手を当てることと同一視していいだろう。


「さ、入って入って〜。今日はねぇ、刮目せよ!天野クンの矯正っぽいものを用意しました〜わーぱちぱち」

 佳乃子が机の上から持ってきたものは、学生名簿のコピーと何やら写真の束、そしてDVD。

「名づけて『天野君に学校のみんなを知ってもらおう大作戦』!クラスの人たちとか、担当の先生たちに協力してもらって、いろいろ準備しましたぁ〜」

『…のんびりした見てくれや話し方でいて、意外とアグレッシブなんだな。まあ、それもそうか。そうでもなければ俺を家になんか呼ばないよな。』

「最近微妙に付き合い悪いと思ったら、そんなことやってたの……」

 回向が感心したような、呆れたような顔で呟く。

「けっこう手間かかったんでしょ?わざわざこんなことのために…ぐはっ」

 言い終わる前に回向の裏拳が岩兎の腹を砕く。デリカシーも感謝の気持ちもない失礼な野郎を、一撃でノックアウトだ。


 一方の佳乃子は、「人の気も知らないで」などとは微塵も考えてはいなかった。なぜならば、この返しは既に想定済みだったからである(ここで佳乃子の過去を語るのも良いが、長くなるので後にしよう)。

 ともかくも、佳乃子にとっての岩兎の印象は初めからこれであり、それをわかった上で関わりを持とうとするのだから相当の変人と言えよう。

 とは言え、今しがたの岩兎の言動は配慮を欠いており、自業自得であるとは、佳乃子にもわかっている。なので、彼女には崩れ落ちる岩兎を苦笑いで見届けることしかできなかった。

 せせらが憧れたかっこいいお兄ちゃんは、もうどこにもいないのだ。

 何度も蘇ってくる痛みと激流のような吐き気に襲われている岩兎をよそに、話は進んでいく。

「えっと、このDVDにはみんなの自己紹介が入ってるの」

「じゃあつまり、この名簿と写真を見ながら、それを観るのね」

「そゆこと!」



 岩兎は名簿と写真を持って座布団に座らされた。隣には背の低いテーブルがあり、水出しの麦茶が用意されている。そして正面には…

『テレビがある!』

「え、この部屋テレビあんの?」

 正面には、ブルーレイレコーダーに乗っているテレビがあった。

「うん。普段は埃がつかないように布をかぶせてるんだ~」

『気づかないわけだよ。絶妙に背景に溶け込む色だ…。

ということは、まさか』

「再生するよ~。ちゃんと編集してなくて、いきなり始まるからねぇ」

「はじめまして。ボクは相田慶(あいばけい)。キミのいっこ前の席だよ──」

 出席番号一番から四十一番、その次に担任や教科の先生、ついには校長まで登場し、回向が度肝を抜かれた。


 そして、自己紹介DVDの再生は終了した。かなりの人数分が収録されており、空はもう紫色だ。

「あ、もう六時だ。そろそろ帰らないと、晩ご飯せせらひとりに任せることになる!」

 お兄ちゃんは超特急で帰っていった。

「あ、鍵かけ忘れた。天野くん、ほんとシスコンよね…」

「ああ、せせらさんってご兄妹だったんだぁ。天野クンって、妹さんのことになると人が変わったようになるねぇ」

「あれ、言ってなかったっけ?彼、妹さんがいるのよ」


 玄関を出て、全速力で駆け出す岩兎を、ひとりの男が呼び止める。

「あ、ちょっとキミ」

「どなたですか?用件は手短にお願いします」

 さっ、とメモ帳を取り出して応答する岩兎。その足は今にも走り出しそうだ。

「キミは、佳乃子の友達かな?」

 誰なんでしょうね、このオジサンは?次回をお楽しみに!

 では、次回も乞うご期待!

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