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あいつの家  作者: フランシスコ家光
井上の家(うち)
7/9

ココアと独身貴族の館

 先に申しましょう。今回は失敗作です。ですが展開的にかなり必要な回なので、流すだけでも読んで頂ければ幸いです。


 なんだかルビがバグっていたので修正しました。

 佳乃子が一瞬見せた暗い表情に悩む岩兎と回向。そんな中、なぜか岩兎は珍しく散歩に出かける。

 メモ帳をしまい、行く宛もなくぶらぶらと町を徘徊する岩兎は、突き当たりの家に足を踏み入れてしまう。家主である、かよという女性に強引に家の中へ連れ込まれ、質問責めにされる。一通り質問を終えると、かよは居間を離れてしまう。そして、戻ってきたかよが手に持っていたものは…!


 * * *


 時はほんの少し巻き戻る。女性が出ていき取り残された岩兎は、この摩訶不思議(まかふしぎ)な部屋を見回してみた。全てのものが整然と並べられ、埃もない。テーブルの上には二人分のココア以外には何ものっておらず、岩兎の座る椅子と先程の女性が座っていた椅子以外の椅子は、皆きっちりとしまわれている。

 これだけの説明では、ただの几帳面な人の家、という印象になる。しかし、この部屋を説明するにはもうひとつ、説明を加える必要がある。それは、

『なんだ、この非合理的なものの配置。それに、なんだかいろいろ足りないぞ』

 そう。この部屋で人が生活しているとは思えない物のレイアウト、明らかに居間にあるはずのものがないこと。

 この少し広めの居間にあるのは、現在岩兎が使っているテーブル、椅子。それから床にラグ。そして二つばかりの棚。それらは広めの室内にえらく間を空けて配置されている。特にラグなど、部屋の角に近いところに敷かれていて、明らかにその辺りに何かありましたと言わんばかりの佇まいである。

 この部屋を簡潔に表現するとするならば、淋しい、の一言に尽きる。明確にに何がどうおかしいという、決め手になるものはないが、生活感を感じなさすぎるという感覚を、見る人に植えつける。



 岩兎が胸の内に湧いたやるせない気持ちをメモ帳に書き込んでいると、がちゃり、とドアノブが回される音を聴いた。岩兎の胸には焦りが満ちていたが、扉の方に目を向けた途端、それは驚き一色に置き換わった。そこに立っていた女性の姿は、岩兎がこの家に足を踏み入れてから、最も激しい意外性と既視感を感じさせるものだった。

「それは…。『独身貴族への道』!」

 思わず、岩兎は驚きの声を上げた。それもそのはず。女性が小脇に抱えていたのは、先日岩兎がプレイし、現在岩兎が抱えている悩みの火種になったボードゲーム〈独身貴族への道〉だったのだから。

「なんだ知ってたんだぁ。でもね、コレ『2(ツー)』なのよ。『独身貴族への道2』。なんと、続編なんです!どう、知らなかった?」

 女性が楽しそうにパッケージを掲げた。

「知らなかった。正直驚きだよ。あんなのに続編があるなんて。世の中わからないものだね」

 ウキウキ中身を広げはじめる女性を眺めながら、岩兎はため息をひとつついて椅子に座り直した。

『あんなゲームのなにがいいんだか』

 なんとポットから注がれたホットココアをすする岩兎だが、ポットからココアが注がれるという事態に遭遇したことがなかったので、不思議な感覚の中にいた。



 人生ゲームの内容は想像を絶する悲惨さだった。独身から脱しようともがく主人公がうるさい親と衝突を繰り返しながら、結局独身人生を謳歌(おうか)するというもので、ある意味予想通りであった岩兎は前作よりも落ち着いてプレイできた。

 同じ展開のマスを六つに増やし、ストーリーが繋がらないという前作の問題点が改善されてよりストーリー性が増したこの〈独身貴族への道2〉だが、岩兎が流石のストーリー展開に感心していると、ふと疑問が浮かぶ。

『そもそも人生ゲームって、こんなだったっけ?すごろく、とも少し違うな。そういえば、これはなんだ?』

 シートが何枚にもわたり、ルート分岐があり、お金のやり取りはあるが基本成り上がるわけではないうえに役職もなく、足の引っ張り合いをするだけだ。そもそもお金や家、資産、銀行などの要素がもはや、おもちゃ付きの菓子に入っている菓子のような存在であり、得点は指定マスで手に入る『不幸のメール』という不吉な名前のポイントで計算されるため、財産には実質なんの価値もない。



「『父親と母親すらも憎く感じるようになり、自殺を考える。医者に相談して思いとどまるが、二千円を失い、病院に行ったため一回休み。不幸のメールが届く。』…こりゃあ相当病んでるな。可哀想に」

 すでにこのゲームに対する感覚がマヒしきった岩兎がつぶやく。なけなしの財産から二千円が支払われ、代わりに不幸のメールカードが手に入る。これまでに幾度となく見た光景だ。

「………このゲーム、救いはないの?」

 ゲーム開始早々に渋い顔になっていた謎の女性が悲鳴を上げた。その右手には、いつ持ってきたのかココアクッキーが摘まれている。

「前作やってないの?前作から…こんな感じだったぞ」

 テーブルに鎮座している皿からココアクッキーを取ってもぐもぐやりながら、岩兎は言った。


 かなり刺さる内容だった。かよの目から見て、自分の娘は両親を憎んでいるように見えたからだ。まるでこの人生ゲームとは呼べないすごろくは、娘の心そのもののような気がしてくるのだった。



 〈独身貴族への道2〉のラストは、主人公が無気力になって、現状に無理矢理納得するというものだった。

「誰だよ、こんなシナリオ作ったの……」

 岩兎はぼやくが、ひとつだけ前作と違う点を見つけていた。

『結局、独身に収まることは変わらないけど、前作と違って、状況を楽しんでる感じじゃないな』

 岩兎は時計を見た。四時半だ。そして即座にメモ帳のページを遡る。遡った先の表見返しには、『せせら帰宅 16:50』とあった。

『長居しすぎた。こんなに時間を取られるとは思ってなかったぞ』

「じゃあな、ココアの人。オレは帰る」

 そう言うと、岩兎は席を立ち、すたすたと居間を出て行った。

「ふふっ、やっぱり思ってた通りの子だった。他人任せって、私がいちばん嫌いな言葉だけど、彼ならば、あるいは何か変えてくれるかもね」

 去りゆく岩兎を黙って見送ったかよは、不意にぽつりと呟いた。

「それにしても、なんでこんなものがうちにあったのかしら?」

 その宙に向けて飛ばされた問いかけの答えは、“井上家”の前で帽子を被り直していた。


 岩兎がその事実に気づいたのは、すぐ後のことだった。反射か無意識か、閉ざされた思考の中で、岩兎はかすかな既視感を覚えたのだ。

 ふと振り返ると、瞬時にフラッシュバックした風景と瓜二つの家が、そこにあった。

 表札の文字は「井上」。通りを一本入った突き当たり。そこに、井上家はあったのだ。

「ってことはあの人は…」

 そこで、岩兎の開きかけた思考は、闇の底に沈んだ。

「…帰ろう」

 岩兎は、静かに歩き出した。

 おわかりいただけましたでしょうか?書いた人が言うのもなんですが、とてつもなくグダってます。結局何がしたいんだっていう…。

 次回以降はボケツッコミの役割もはっきり分かれ、きちんとオチがつくようになります。今回はどうあがいても修正出来なかった……!

次回こそは、乞うご期待!

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