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あいつの家  作者: フランシスコ家光
井上の家(うち)
5/9

〈独身貴族への道〉

 ずいぶんと長い投稿休止でした。日を空けて編集していたので、ちぐはぐな文章になっているかもしれません。ごめんなさい…。

 これから、じりじりと更新していくので、おもしろおかしく(今回は無理かも…)読んでいただけると嬉しいてす!

 悲惨なゲームが始まった。そのゲームの名は、〈独身貴族への道〉。全てのイラストが劇画調で描かれた、素敵な人生ゲームだ。


「…『自動販売機で小銭を落とす。それを拾ってくれたのは完璧なビジュアルの異性だったが、その人物は小銭を返さず走って逃げた。捕まえることには成功したが、幻想を打ち砕かれたショックで三日寝込む。一回休み。(なお、このマスは二度目以降同プレイヤーには無効)』…なんだこれ。長いし、妙に具体的だ」

 マスの説明を読み終えて駒をマスに戻した岩兎は、眉間を指で押さえながら言った。


 回を重ねるごとに、だんだんと複雑かつ残念なものへと変化していく。

 最初は、『アイドルと偶然握手する。再行動。』『お婆さんを助ける。一回休んだ後、次回サイコロを二回振る。』など、簡単でわかりやすい内容だった。それが、十数コマ進めただけで、これである。


「つまりこれって、女の子ははオナラしない〜、的なやつかな?オレだったら……(かきかき)………確かに、寝込む」

 岩兎が何を想像したのかは、言わずもがな、目の前の美少女、江口回向が悪事をはたらくその瞬間を目撃するシーンだ。


 ※ ※ ※


「あ、江口だ」

 岩兎がコンビニに入ると、店内には見知った顔が。江口回向である。

 回向はお菓子の棚の前でしきりに首をかしげたり、何かぶつぶつとつぶやいている。どうやら、熱心に品物を物色しているようであった。

『めっちゃ、目の保養になるな』

 などと、岩兎がしみじみとメモ帳に書き込みながら、しばらく眺めていると、どれにするか決めたらしく、回向は一つの売り物を手に取った。そして、

「え、あれ?」

岩兎の脇をすり抜け、脱兎の如く、猛ダッシュで逃げ去っていった。いわゆる、万引きである。


 ※ ※ ※


「ぐはっ」

 言い終えてから、岩兎はもう一度そのシーンを思い出し、大ダメージを受けた。

『ダメだ、考えるな。現実の江口を見てみろ、そんな悪いやつには到底』

「み、見える…」

 更に、岩兎は精神的ダメージを受けた。岩兎のライフはもうゼロだ。


「どんな事、想像したのかしらね…」

「さぁ〜。でもなんとなくだけど、回向についての想像だったんじゃないかな?」

「なんでよ」

「だって回向のこと見てたし、もう一度回向のこと見て胸に何か刺さってたし。回向って、けっこう岩兎くんに恐がられてるっぽいしねぇ」

 佳乃子の推測は、全て当たっている。

「…」

 回向は、静かにショックを受けていた。印象がいいとは思っていなかったが、まさかそれほどとは思っていなかったのだ。

「………(どよ〜ん)」

 回向は、自分でも驚くほどに沈んでいた。

「(ちょっと言い過ぎちゃったかな?でも、岩兎くんと結ばれるためなら、仕方ない…よね?)」

 少し申し訳なく思いながらも、少女は少しオーバー気味に見解を述べた。と、本人は思っている。しかしながらそれは紛れもない事実であり、回向自身にも心当たりがありすぎるため、見事な妨害工作と言わざるを得ない。


 失意の中でプレイするには、このゲームは厳しすぎた。

『電車で席を譲ると、老人ではない元気な誰かが座っていた。それが何日も続き、人間不信になる。いい効果のあるマスを、十ターンの間素通り』

 岩兎にとっては、回向のような恐ろしい人物が多数登場し、

『密かに仲良くなろうと機会を窺っていた素敵な異性が、実は陰で自分をボロクソ言っていたと、友人に聞かされる。一回休み。』

 回向にとっては、佳乃子のように悲惨な事実を告げる人物が多数登場し、

『告白しても自分が傷つくだけだ、と諭してきた人物が、数日後、告白しようとしていた相手と付き合っていた。失意の底で学生生活を過ごす。悪い効果を10プラスした状態で社会人ブロックへ移動。』

 佳乃子にとっては、まるで自分のような卑しい人物による妨害を受ける。実に重苦しい空気が漂っていた。


 しかし、悲劇はそこでは終わらない。このゲームは、負の効果を被った回数を記録することになっているのだが、その役割は、社会人ブロックの中盤以降にやってきた。分かれ道の分岐が、"悪い効果を受けた回数"によって決まるのだ。

「あ、分かれ道だ。私はこっちだから、ええとなになに?……………な、なにこれ?」

 絶句する回向の目線の先を見た岩兎も、これは…、と漏らすほどであった。


『電車待ちの列で割り込まれる。自分はギリギリのところで乗れなかったが、その電車が発車してしばらく後、電車が脱線して大破する。あなたはほっと胸を撫で下ろした。嫌なことがあった後だけに、喜びもひとしおだ。次の停止マスが悪い効果だった場合、その効果が逆転する。』


「…(かきかき)『これは、なんとも言えない気まずい感じ。喜びきれない何かがあるな』」


 なんとも言えず、ひどい仕打ちである。それを喜んでいるプレイヤーキャラクターは、もうすでに病んでいるのではないか、と回向は思う。もうすでに暗い未来しか想像できない。

「これは…人生の厳しさを教えるゲームなのかしらね…。はあぁ」

 憂鬱な気分になりながら、コマを進める回向であった。



 空が紫色に染まり始めた頃、数々の不幸なイベントを経て、ゲームも終盤に差し掛かっていた。

 佳乃子のターン。サイコロの目は四。止まったマスの内容は、以下の通り。


『親と取っ組み合いの喧嘩をし、全治四ヶ月の怪我を負わせる。両親に勘当され、隣のレーンへ。』


 隣のレーンとは、二本のルートのうち、『悪い方』に該当するルートだ。それぞれ並行して進んでおり、マスの効果で隣に移ることができる。


 マスの説明を読んだ佳乃子は、動揺を抑え込むのに必死だった。

 そもそもこの人生ゲームは、佳乃子が興味本位で買ったものの、結局手を付けていなかったのを引っ張り出してきたものだ。つまり、佳乃子は中身を知らなかった。完全な不意打ちと言えるだろう。

 この文章のどこに佳乃子の琴線に触れる要素があったのか。察しのいいあなたならばわかるだろう。そう、「親」に「怪我を負わせる」である。穏やかな物腰で、明るい印象の佳乃子だが、その明るさは悲惨な過去の上にあると言っていいだろう。その過去は、後に岩兎が知ることになる…。



 全員があがり切る頃には、佳乃子の部屋は重苦しい空気に包まれていた。

 かくして、岩兎矯正計画の一日目が終了した。

 これからは、週一で更新できたらアンビリーバボーな状況です。なので、少しだけ前回のあらすじみたいなものを入れていこうと思います。

 それでは久しぶりに、次回も乞うご期待!

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