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あいつの家  作者: フランシスコ家光
天野の家(うち)
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天野の家(うち)

 初回です!よろしくお願いします!

 重々しく始まりますが、本編は明るく明るく、どちらかと言えばギャグサイドなので、気楽にどうぞ。

 優れた能力を持つということは、同時に致命的な欠陥を持つということでもある。逆も然り。はじめから持っているのがその欠陥や能力だけだったとしても、必ず反対側が生まれるのだ。

 まだ世界をしらない子供は、自分こそが世界の全てであるかのように感じる。自分の常識が、世界の常識だと。いじめっ子などは、その心理でいじめをしてしまうのではないだろうか。

 特異な能力、特徴を持った人が白い目で見られるのは、本人が自分の常識のみに従って行動したことが引き金になる場合がある。例えば、自分にしかない特徴がなぜ他人にはないのか不思議に思い、他人を見下した、それを当たり前のよくに使った、などによって、他人が恐怖したり、面倒くさがられたりした場合などだ。

 例えば、自分と他人とで明らかに違う記憶力。それを使って、常人ではありえないような考えを言ってしまったり、自分の方が有能だ、という態度をとってしまったり。

 つまりはお互いに退けあっているわけなのだが、得てしていじめられた方が心に傷を負うものだ。

 いじめだけでなく、何らかの方法で、彼らは人としての『何か』を失う。例えばそれは、思考力かもしれないし、何か別のものかもしれない。



 パソコンの光だけが頼りの、窓のない薄暗い部屋で、少年はメモ帳を開いていた。

『俺は、世界は狭いと思い知った。なぜ、この子が俺の後ろにいる?』

 少年は、約一秒の間にその文章を書き終えると、素早い動作でそれをポケットにしまった。

 このメモ帳は、少年が考えをまとめたり、状況を整理して、考えをまとめるために必要なアイテムなのである。そして、当然かもしれないが、その中身は誰にも見られたくない。

 少年の背後には、少年と歳の変わらない少女が立っている。幸いにもメモ帳の中身は、パソコンからの逆光で、少女にはちょうど見えなかったようだ。

 では、同じ条件の少年はというと、なぜか、この環境でも文字が書けたのである。

「ねえ天野くん。こんな暗い中でどうして今、文字が書けたの?」

 少女が、当然の疑問を投げかける。少年が開いていた手帳の表面は、常人ならば、自分が何を書いているかわからなくなるほどの暗さなのだ。

「知らないよ。思ったことをそのまま書いただけ。オレだって、自分が何書いたか見えてない」

 天野と呼ばれた少年は、さも当然のことのように少女に言い放つ。少し高めの声で、嫌味のない穏やかな喋り方だ。

 少女はむっとした様子だが、そこをつつかれても、天野少年は少女が納得する答えを持ち合わせていない。

 少女はそれを察してか否か、まあいいや、とため息をつくと、これまで脱線していた話を本題へと戻した。

「そんな事より、天野くん。どうして学校に五日と来てないのかは知らないけど、明日だけでも登校してもらわないとわたしの立場が危ういのよ」

 少女が天野少年の部屋に上がり込んで一時間と四十分ほど。ここに来てさらに少年の知らない新情報の開示である。

「そう。それを早く言ってくれれば、こんなに押し問答する必要はなかったじゃないか」

 天野少年の右手がデスクの上のマウスをとらえた。

「誰に脅されたか知らないけど、そいつの名前、年齢、誕生日、好きなものとか、君が知ってる情報を言ってよ」

 天野少年の声は、先ほどとは打って変わって冷淡な、鋭いものに変わっていた。

 名前、年齢、誕生日、好きなもの。どれも個人を特定できるもので、『個人情報』である。目の前の少年は、それだけではなく、もっと沢山の情報を得ようとするだろう。


 ──晒す気だ。


 現代に生きる少女は確信した。もしくは、もっと酷いことをするかもしれない。

「おしえるわけないじゃん。天野くん、絶対悪いことに使おうとしてるでしょ」

 少女は、思い切って要求を断った。うまくすればこの面倒な仕事を降りられるかもしれなかったが、今度は罪悪感を抱えて生きることになってしまう。そんなことは、まっぴら御免である。


 しかし、天野少年が考えていた作戦は、少女の想像とは別のものだった。

 背後の少女を脅やかし、その上自分の平静をも脅やかす存在、それは看過できない存在だ。自分は面識がないだろうから、自分の調べた情報をもとに、少女をその存在と対決させる。そして黙らせ、自分のことは放っておいてもらう。

 実に不確定要素が多く、甘い計画だが、少女の立場を脅やかすのだから、少女とその存在は、さぞ敵対的なのだろうと天野少年は考えた。なので、とりあえず負かしておけば今背後でしかめっ面をしている少女にも得になるだろうと思ったのだが、少女はそんな小細工など必要ないと言う。

「わからないな。これでだいぶ優位に立てるとおもうんだけど。まぁ、もう道は示したんだから、後は自分でやりなよ」


 少年の声は穏やかなものに戻っていた。しかし少女の耳には、その声が悪魔の声に聞こえた。当然、少女に()()をするつもりも、勇気もなかった。ただの友人同士のふざけ合いが、少々過激になっただけのものだ。それにいちいち過剰反応していては、身が保たないし友達がいなくなる。

 そうだ、「無理だった〜、アイツやっぱ完璧な引きこもりだわ」で済ませてしまおう。そうすれば、全てが平和的に収まる。


 少女は、撤収していった。

『あいつは本当になんだったんだろう?意図が読めないが、あんな絵に描いたようなみんなのアイドルと話せる機会なんて、もうないだろう。勝手にそうなるが、脳内メモリにきっちりしまっておこう。』

「あ〜〜〜、もっとよく顔見とけばよかった〜!」

 稀代のKY、天野岩兎(あまのいわと)少年は、能天気に悶絶していた。


 ー 翌日 ー


 予想が裏切られることなど、この世界では日常茶飯事だ。しかし、その日常茶飯事は、江口回向(えぐちえこう)にとって、あまりにも衝撃的なものだった。

「なに?連れ出せなかったの?」

 そう言った友人の目や声は冷たく、昨日の岩兎の声の方が、よっぽど柔らかく感じられるほどだ。

 友人がため息をつく。考えたくはなかったが、回向にはその続きがわかってしまった。中学生の頃から幾度となく言われてきた言葉。

「『じゃあ、もうあんたとは付き合えないね』」

 一言一句同じだ。実際には妬みによって発せられる言葉なのだが、回向本人は、なぜいつもこうなるのかわからない。新聞部が密かに行なっている人気投票で回向が、美人教師や在籍中のアイドルをしのいで、ダントツの全体一位であることを、新聞部の新聞を読まない回向は知らない。



 家でひとしきり沈んだ後、よくわからない理由で自分をハブった友人達に一泡吹かせるため、回向は立ち上がった。


 ー ー ー


「外に出なさい」

「また君か」

 復讐心に燃える回向と、内心のガッツポーズが一切表に表れていない岩兎が、例のごとくカラオケボックスのような造りの薄暗い部屋で向かい合っている。

 回向がまた来たことはもちろんだが、岩兎が最も驚いたのは、回向が縄を持ってきていることだ。いったいどのような強行手段に出るつもりなのか少し興味はあったが、そもそも家族以外の人間と関わることに恐怖している岩兎にとって、『外に出る』という行為は、竜巻の中に突進するようなものである。

「オレは断固拒否する。オレは他人と関わりたくないんだ。誰かとの会話なんて、嫌なことしか生まない。とにかく、オレは外には出ない。放っておいてくれ」

 岩兎が回向越しにドアを開くが、即座に回向が後ろ手でばたん、とドアを閉めてしまう。

「ダメ。絶対に出てもらうわ」

 動揺を隠しながら回向が言い放つ。

「怖いんだよ!なに言われるかわかんないし、オレはみんなに嫌われるし!」

 声を荒げて、岩兎が無理矢理ドアを開けようとする。回向が振り返り、ドアを閉めようとする。悲しいことに、二人の力は互角だった。

「確かにそうね!でも諦めたら引きニートコース一直線よ!友達なんて、わたしがいくらでも紹介するから!なんならわたしが友達に──きゃ!」

「嫌だったら嫌だ!オレの平静を崩すな!」

 岩兎はそう言いながら、思い切りドアに体当たりした。このドアは外開きなので、押しの岩兎の方が圧倒的に有利なのだ。

 しかし、状況がよろしくなかった。二人とも非常にエキサイトしており、バランスなど取れる状態ではなかったため、二人仲良く床へダイブした。

 そして、事態は思わぬ方(おやくそく)へ。仰向けに倒れる回向の上に、かろうじて押しつぶすことを回避した岩兎が覆いかぶさり、ふたりの顔面の距離はゼロセンチメートル。こちらもかろうじて激突を避けたが、ぶつかってしまった方が、ふたりの精神は平穏でいられたかもしれない。

「……………」

「〜〜〜〜〜」

 かたや赤面、かたや唖然。回向の口からは声にならない叫びが漏れだし、岩兎は内心でフラダンスを踊っていた。

 これが、超人的な記憶力ゆえに周囲から気味悪がられる少年と、輝いてすら見える超絶美少女ゆえに周囲から疎まれる少女の物語の、はじめの出来事である。

 次章から、お部屋訪問が始まります。

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