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愛し子

緑の愛し子

作者: みよちゃん


 僕が通っている貴族学校の卒業パーティーでのこと。

 広いパーティー会場の真ん中から、不意に殿下の声が聞こえた。


「シャーロット、お前が緑の愛し子(神に愛されし娘)だからと結んだ婚約だが、もう限界だ!」



 途端、さっきまでの会場の賑やかさが嘘のようにしん…と静まり返った。


 その原因の三割は、()()が聞こえた貴族たちが続きをもっとよく聞こうと耳をすましたから。

残りの七割は、会場の中心から声が聞こえなくなり、それに合わせてなんとなく会話をやめたから。


 静寂とは伝染するものなのだ。



「婚約を破棄させてくれ。真実の愛に目覚めたんだ… なぁ、オリヴィア。」


 なんだなんだとそちらに目線をやってみると、

 殿下と、それに寄り添うオリヴィア、それらと対面するように佇む殿下の婚約者(それとももう元婚約者と言うべきなのか?)であるシャーロットがいた。



「オリヴィアはお前の妹とは思えないほど、心まで美しく、聡明で…ああ、血は繋がっていないのだったか?

 まあ、それにしても似てない姉妹だ。オリヴィアは鉄仮面のような顔と氷のような心のお前とは違って、私を柔らかく癒してくれる…

私はオリヴィアを深く愛してしまったんだ…」


「ルーカス様…」


 殿下(バカ)は周りが自分の話に聞き耳を立てている事に気を良くして話を続け、甘い視線を隣に向ける。それに応えるようにオリヴィアがうっとりと殿下の名を呼んだ。


シャーロットは、辛いのか顔を隠すように少し俯いている。



「婚約破棄をされたというのに、表情の1つも変えないとは愛想の無い奴め…

お前のそういうところが気味が悪いんだ!そんな目で私を見るな!

少しはオリヴィアを見習ったらどうなんだ?

第一、お前はもう力を使えないんだろう?もう長いこと草花を操るお前を見ていないのがその証拠だ!

神から見放されたお前に用はない!そんな女がこの国にいる事自体おかしいんだ!

お前なんかより、オリヴィアのほうが草花を慈しむ想いが強い……

そうだ!オリヴィアを緑の愛し子とすればいいんだ!そうすれば、万事上手く行く!」


殿下がべらべらとひとり言葉を紡ぐ中、渦中のド真ん中にいるシャーロットがようやく口を開いた。


「婚約破棄、承りました殿下。」



 そしてようやく顔をあげた。

その顔はーーーーー


 満面の笑みをだった。



 自分は今彼女のこの表情を見る為に生まれてきたのではないか。

ここにいる全員がそう錯覚してしまうほど、その笑顔は魅力的だった。


オリヴィアもぽかんとだらし無く口を開けて義姉に魅せられていた。が、しばらくして我に返ったらしく


「ちょ、ちょっと!義姉さまは私に負けたのよ!許してくださいって、破棄なんてしないでって、泣いて縋りなさいよ!悔しがるなり悲しむなり!あるでしょ!?」


 と声を荒げた。



 その時。


 四方八方から、ドゴドゴドゴドゴ……と、低く重い音が聞こえてきた。

 

『その音が何処から鳴っているか』なんて考える隙もなく バルコニーやら、窓やら、換気口やら、外へ通ずる至る所からニョキニョキと蔦のような植物が侵入して来た。



「これはどういう事だっ!おい護衛!何をしている!この草を切るんだ!私を殺す気か⁉︎この役立たず共がッ!!」


 殿下は焦ったように周りの護衛たちに指示するが

屈強そうな護衛たちがいくら大きな剣を振りかざしても、蔦は切れるどころかより強度を増すばかりだった。



 凄まじい勢いで成長する蔦は迷うこと無く一直線にシャーロットの元へ伸び、足元で蔦同士が合流すると意思があるようにくねりだす。

そして、彼女を下から包むように籠状に絡み合っていった。



 蔦の籠がちょうど東洋のちぐらのような形になった時、シャーロットが笑むのを辞めた。

それに合わせて蔦たちの動きがピタリと止む。さっきまでグネグネと活発に動いていたのが嘘のようだ。



でもそれは束の間の事で、一息ついた彼女は何か可笑しいことでもあるかのように声を出して笑った。


「んふ……ふふふふふふふふふふふふはははは……

あはっあははははははははははは!ひひっ…あはははははははは!」


爆笑だ。


 その楽しげな声に応えるように蔦の間から色とりどりの花が咲きはじめ、ちぐらや会場の床一面を覆い、美しく彩った。


 蔦たちも、また動き始める。

今度は作った籠を上へ上へ持ち上げるように動作していく。

さっきよりも目に見えてスピードが速く、一挙一動が力強く感じる。



 花に囲まれ笑う彼女と神秘的に畝る蔦は当に明媚で、会場中を大いに魅せた。



 彼女を乗せて ちぐらはズンズン上へと登って天井をつき破り、そのまま天へと伸び続けた。




 取り残された殿下とオリヴィアは何が起こったかわからない、というように唖然としていた。

二人とも餌を求める雛鳥の如く口をパッカリ開けて、間抜けな面を晒している。


右も左も緑が茂るこの場には、もうシャーロットを緑の愛し子じゃないなどと言う者は居ない。




 彼女は(神の元)へと帰ったのだから。



 彼女が居ないこの地に、未来などあるのだろうか。

 僕は、それだけが気掛かりだった。

過去編「緑の愛し子が帰るまで」も連載中ですので、是非!

https://ncode.syosetu.com/n2141gc/

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