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菊輪稲荷譚  作者: 九田無
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変な夢 1

 変な夢 1



 これは、俺の同級生の話です。

 というよりも、そのお姉さんの話というべきかもしれません。

 彼の名前を光男といいまして、実は小学校からの付き合いになる人です。

 彼の姉を、梅子さんといいます。


 この梅子さんという人が、まあ所謂霊感? らしきものがある人でして、そういう類の話の引出しを沢山持っている人でした。

 この話も、そんな話の一つです。


 まず夢の話をする前に、光男の奇怪な話をしなければいけません。

 それは光男がまだ中学生の時、秋分に近い季節のことでした。

 光男の家は所謂共働きというもので、姉の梅子さんも遠くの学校に進学してからは、日が暮れるまで家には彼一人という状況でした。

 彼は居間にいることが多く。ノートパソコンを卓上に置いて、ネットサーフィンをするのが常でした。


 ある日のことです。

 玄関が開け閉めする音がしたと思えば、次には階段から二階へ上がる足音が、居間にいる彼の耳に入ってきたそうです。

 梅子さんも、いつも遅いというわけではありません。

 偶には、早く帰ってくることもあるんだそうです。

 光男はその日もそうだと思い、気にせず居間でノートパソコンをいじっていました。

 暫くして、彼は尿意を催したので、トイレに立ちました。


 その時です。

 彼の家は、居間を出れば左手にすぐ玄関があるのですが、その玄関が開いていたそうです。

 あれ? と、彼は思いました。

 彼のお姉さんは、決してだらしない人では無かったそうなので、開けたままにするとは考えられません。

 それに出ていった音などは、一切しないのです。

 不審には思いましたが、彼はそのままトイレへ行きました。

 トイレを出て、今へ戻ろうとした時のことです。

 階段を下りる音が、したそうです。

 と言うことは、梅子さんは二階にいたと考えられます。

 玄関はわざと開けっ放しにしたのだと、光男は思いました。

 大方、暑かったのだろう。若しくは靴の匂いが臭かったのだろうと、一人で納得して階段を見上げました。

 ですが、階段にいたのは梅子さんではありませんでした。


 まだ秋分の頃です。寒い、とは言えない時期にもかかわらず。

 階段にいた女性は、長いトレンチコートを着て、まるで雪道を歩くようなブーツを履いていました。

 ブーツのせいか、変に背が高く見え、不気味な程、表情が変わらない女だったそうです。


 全く見知らぬ女性が家にいるにも関わらず、光男が思ったのは「土足かよ」でした。

 両者が全く動かない状況で、真っ先に回復した光男は、即座に家を出ました。

 そのまま、家の前の公園で親が帰るのを待っていたそうです。


 これが、光男の経験した奇怪な話です。

 ……これから、どう夢の話に繋がるか、ですって?

 それを、これから話すんです。

 せっかちな女性は、もてませんよ。

 何? 一言多い?

 ……まあいいです。


 酷く狼狽えた光男は、忽然と消えた女性の話を家族にしたそうです。

 しかしその女性は、家の中からは見つかりませんでした。

 そんな訳はない筈なんですけどね。

 だって、向かいの公園でずっと光男が見張ってたのですから。

 遂には警察まで呼びましたが、結局不明のままです。

 騒ぎが治まった後、梅子さんがこんな話をしました。


 ……曰く、最近変な夢を見た、と。

 その夢というのが、ほぼ決まった夢なんだそうです。

 決まって、梅子さんが夜に家まであと数分といった帰り道を、歩いている所から始まります。

 その時の梅子さんは、一人の女性が後ろからついてきていることに気づきます。

 最初は、ただ歩いているだけでした。

 特に何も無く、彼女は家に帰ります。

 そこで目が覚めるのです。

 これは、どんな時も変わりません。


 二日目です。

 女性が少し、早歩きになります。

 ですがやはり、普通に家に帰れます。


 三日目、早歩き……と言うには速いペースで、女性が追っかけてきます。

 梅子さんも、思わず夢の中で走ったそうです。

 この時、梅子さんは徐々に女性が家に近づいてきていることに気づいたそうです。


 四日目、女性は軽く走ってきました。

 家からあと一歩という所で、梅子さんは家に入れました。


 五日目、女性は全力疾走だったそうです。

 しかし流石の梅子さんも、夢の中で本気で走ったそうです。

 なんとか、逃げ切りました。


 六日目、女性の顔が初めて、鬼のように歪みました。

 尋常じゃない速さで、梅子さんの後を追ってきます。

 ですが距離が距離なので、彼女も逃げ切れると思ったそうです。

 然し寸前で、躓いた。


 ――追いつかれる。

 梅子さんはそう思いましたが、女性は予想に反してそのまま家へ駆け込んだそうです。

 この日だけは、梅子さんは家に帰ることなく目を覚ましました。


 奇怪なことに、この夢の日というのが、光男が家で謎の女と遭遇した日だというのです。

 結局、女がまだ家にいるのか、それとも消えたのかは分からないままです。


 私がこの話を聞いたのは、高校の時でした。

 珍しく私の家に泊まりに来た彼は、寝る間際そんな話をしました。

 最後に、あわよくばお前ん家にあの女擦り付けられないかなって思って……なんてことを言いながら。

 まあ冗談めかしていっていたので、彼も本気ではなかったんでしょう。

 それに光男や梅子さんの間では、その女性は消えたものと考えていたそうですから。


 ……これは最後まで言えなかったんですが。

 その話をしてくれた光男の後ろは窓になっていまして、そこからずっと外の様子が私には見えていました。

 彼のすぐ後ろの道路には、ずっと変な女が立っていたのですよ。

 不安を煽るようなこと言えませんから、私も黙っていましたけどね。

 増して、彼が帰る後ろを、ずっとその女がついて行ったなんて。

 ……言えるわけ、ないでしょう?


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