銀の紋章。そして……
「……っ。。。」
……明かりが眩しい。はっきりしない意識を起こして、状況を理解しようとするけど……頭、痛い。
「……スー、……スー、」
「……ロレンツォ??」
右側から、小さく寝息が聞こえた。確かに、少しだけ右腕に重みを感じて見てみると、男でも見惚れる綺麗な金髪に、地球の女子であれば誰もが欲しがるような、そり上がって長いまつ毛。
ロレンツォが、ベッドに寄りかかって寝ていた。
「あー、確か決闘してて……」
そうだ。殺されるのはごめんだし、だからと言ってバカにされたままってのも腑に落ちなくて、驚かすつもりでやってたんだけど……、完全にロレンツォの力を測り間違えていたんだっけ。
本当は、魔法を切り捨てて、そのまま間合いを詰めて寸止めで終わりの予定だったのに、経験の条件反射を考慮に入れるの忘れてた。
「俺の部下なら、あれで終わるからな……。」
誰とやったって、あれ以上やったことは無い。……もちろん、魔法なんてないが。たまに歯向かってくるやつとか、訓練とかでは不意打ちで終われる。
「すげぇな、お前。」
想像以上にふわふわしていた、ロレンツォの髪を撫でた。
「凄いのは、あんた方だけどね。」
「レオナルドさん。」
「よっ、怪我の具合はどうよ。」
「だいぶ楽になりました。ありがとうございます。」
やって来たのは、ロレンツォの兄レオナルドだった。意識を失う前、すぐに駆けつけてくれたのを覚えてる。意外だった。絶対、弟の方に向かうと思ったのに。
「……悪かったな。」
「……はい??」
急に謝られた。ロレンツォのいる方に来て、ベッドのそばに屈んだ。
「口は悪いかもしんないが、平気で仲間を傷つけるようなやつじゃないんだ。ただ、本当に条件反射で、本当にたまたまそこにメイドがいたんだ。」
「えぇ、わかってますよ。」
深刻そうな顔で、何を当たり前のことを。
「彼が手加減してくれているのはすぐに気づきました。剣に関しては言い訳できても、魔法を切り捨てるなんて、相当力を抜いてもらわないとと出来ませんから。
ただ、かわすと思っていたんだと思います。スピードも遅かったですし。それを真正面から受けられ、切られたとなれば多少は動揺してくれると思いまして……。」
どちらかと言うと、謝らなければならないのは俺の方だ。偶然とはいえ、仲間を傷つけさせてしまったのだから。
「謝るのはこちらです。大切な弟さんを傷つけてしまい、すみませんでした。」
「……。」
「……??どうかしましたか。」
謝ったらすごい顔で見られた。えっ、謝罪だけじゃ甘い?
「いいのか?傷ついたのは……お前自身だろ。」
「あー、そのことならお気になさらず。自分の不注意ですし、怪我には慣れてます。……さすがに魔法は初めての体験でしたが。」
「……。」
「??」
「あんた、面白いな。」
「???」
いやいや、一体、今のどこからその流れになるのか。
ちょっと良くわかんないけど、ブラコン疑惑の兄に許されたのでよかったとしよう。
「ソラさん、具合はどうですか。」
「姫、ありがとうございます。お陰さまで良くなりました。」
アシェリーとユリイエもやってきて、全員集合した。
「ソラ。」
「……はい。」
「お前は俺たちとともに、姫を守る覚悟があるんだな。」
「……もちろんです。生半可な気持ちで、誓いなんてたてません。」
この世界で俺の力がどこまで及ぶかは分からない。
当たり前だけど魔法は使えないし、使えるようになるものなのかも分からない。
それでも守りたいと思ったのは事実だった。
「そいつなら大丈夫だろ。」
「ロレン!目が覚めたんですね。」
「迷惑かけてすいません、姫。」
アシェリーに謝罪した後、俺の視線に気づいて気まずくなったのか、顔をうずめて話し出した。
「剣の腕は問題ないし、自分の身を盾にして見知らぬ誰かを守るだけの行動もある。
魔法も……、俺のに耐えたのならば適正もあるだろうし。」
「へー、ロレンツォが誰かを褒めるなんて珍しいな。」
「そうだな。明日は雨だ。」
「っうるさい!バカ兄貴!ユリイエ!!」
ロレンツォも気づいたのか、かなり照れてた。……そんな珍しいのか。
「おめでとうございます、ソラさん。」
「ありがとうございます。」
「改めて自己紹介した方が良さそうですね。
俺はソラフィド・ユリイエ。よろしく頼む。」
……おぉ、ユリイエから殺気がなくなった。
「俺はもうしたよな?あ、さんとか付けなんなよ、気持ち悪いから。」
「俺はルアン・ロレンツォだ。よろしくソラ。」
「よろしくお願いします。黒沼宇宙です。」
殺気が無くなり、受け入れられたのだとわかった。
「ソラ。これを渡しておきますね。」
「??」
アシェリーによって俺の胸に付けられたのは、銀色のペンダント。どこかの紋章のようなものが入っていて、一筋の虹彩が中心の水晶にはしっていた。
「それは、アルコイーリス家に仕える、近臣のみに渡されるものです。ユリイエ、レオ、ロレン……、そして、ソラだけが持っています。」
「っありがとうございます。」
……こうして、俺はアルコイーリスに迎えられた。
迎えられたのだったが……、
「……!」
「なんだ!?」
急に光がさしたと思ったら、俺を囲んで激しい光を放った。
「時間……、ですね。」
「時間……。」
「ソラは元々こちらの方ではありません。とどめて置ける時間にも限界があるということです。」
話したいことも、話すべきこともたくさんある。
せっかく少しは仲良くなれた気がしたのに、勿体ない……。
「ソラ、夢ではありませんよ。」
「そうだぞ、忘れたら承知しないからな!!」
「いつでも戻って来い。」
「今度は、俺とも相手してくれよ。」
「……っ。」
そう、これは夢じゃない。
ここで起こったこと、出会った人。すべてが本物。
「姫が願えば、また来ます。」
何も焦ることはない。
絶対に再び会えると、確信があった。
光で視界が奪われる。
みんなが見守っていた。
「ソ……ラ……ッ」
最後に、アシェリーが手を伸ばしたように見えた。
「……。」
次に目を開けた時、そこは見慣れた風景。
「戻って……きた……??」
なんか呆気なく戻ってきたな……。一瞬、夢かと疑ったが、自分の胸元でなにかに触れた瞬間、あれが現実であったことを確信した。
「……俺、どんくらい寝てたんだ?」
昼なのか夜なのかもわからない。とりあえず布団から出て、外の状況を確認しようとした。
「おわっ、びっくりした……。」
外に繋がるふすまを開けるために手をかけようとした瞬間、開いた。
「……はっ?」
「誰に向かって、はっとか言ってんだ?」
「か、頭……??」
「それ以外、何に見えんだ木葉。というか、次期頭な。」
そう言うと、目の前の男は何も言わず走ってどっか行った。
そしてすぐに、絶対に1人ではないものすごい足音が近づいてきた。
「宇宙……?」
「おふくろ、ボケたの?」
「宇宙……、お前……。」
俺の母親と父親を筆頭に、知ってるやつがほぼ集結した。
そして……
「「「「「「「「宇宙ーーー!!!」」」」」」」」
「危ねぇぇっ!!!」
全員で飛びかかってきた。
ああ、うるさいのが懐かしい。
一体何人いるのかって?言ったろ、結構影響力のある組なんだよ。それなりにでかくもなる。
そして、ここには俺に向かってわがままを言う姫も、剣や殺気を向けたりするような奴もいない。
“黒沼組 次期頭”
それが、俺の本来の肩書きだから。
Ⅰ,出会い編は完結!
次回からは新編!!