決闘、魔法、行動
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「君が、昨日ユリイエが言ってた人か。」
「分かりませんけど、そうじゃないでしょうか。」
アシェリーが朝食を済ませ、連れてこられたのは城に囲まれた広い場所。
「俺はルアン・レオナルド。一応ここの軍隊長を務めている。よろしく。で、こっちは……」
「勝手に紹介するな。というより、簡単に名乗るな!!」
絶対兄弟だ、って確信出来るくらい似た男二人。違いは、髪型と瞳の色と……身長くらいだ。
レオナルドさんの方は、金髪に青色の瞳で、物腰柔らかそうだ。今のところ、俺に唯一殺意を向けてない。でも軍隊長ってことは威厳はあるってことか……。そんなふうに内面まで探ってしまうのは、俺の職業病だな。
そしてもう一人、
「俺は認めないからな。こんな、どこの者かも知れない奴を。」
金髪にエメラルド色の瞳。……小さっ。アシェリーも小さいとは思ったけど、この子も小さい……。
その小ささもあって、美少年とはこの少年のための言葉だと思うくらい、容姿端麗。
「まぁまぁ、ロレンツォ。そんなこと言うなって。」
「うるさい!バカ兄貴!!」
あ、やっぱりレオナルドさんが兄だよね。……ってか、名前言っちゃってるよ。
目の前で怒ってる弟のロレンツォさんに対して、一つも嫌悪感を見せないレオナルドさん。
―――これはあれだ。俗に言うブラコンだ。
「ロレンツォの言い分もわかる。だから、ここに来たんだ。」
「まぁ、ここに来たってことは、『決闘』だな」
「ふんっ、そんなヒョロヒョロに俺たちが負けるわけない!」
……三人とやるんですか。それはさすがにきついものがありません?
「俺はいいよ。ロレンツォとやってるのを見て、決めるから。剣の腕を見たいなら、ユリイエがやればいいし。」
「それもそうだが……。」
代表と当たるようだけど、ユリイエは相当な剣の使い手らしい。今渋っている理由は、手加減がうまく出来るかどうかという事だ、多分。
「お前、魔法使えるのか。」
「……いえ、使えないと思います。」
「なら俺だけで充分だ。魔法も当てなければいいだろ。」
「っても、ロレンツォ……、」
「なんだ!!俺の腕が信用ならないのか!」
「そういう訳じゃないんだけどさ。」
そう言うと、俺はレオナルドさんと目が合った。
―――あ、それが本物か。
俺を見透かす目。さっきまでの柔らかい雰囲気とは違う、見定める目。
「やばくなったら止めればいいか。」
その言葉は、一体誰に向けてか。
「早速やるぞ。入れ。」
「あ、はい。……あの、俺は武器なしですか?」
「それは流石に……、俺の貸してやるよ。ユリイエ、いいだろ?」
「あぁ、構わない。」
「すいません。ありがとうございます。」
渡された剣を握り改めて知る。
これは本物で、……人を殺す力があるものだと。
「重いのは我慢してくれ。」
「大丈夫です。あの、勝敗のつき方は?」
「『降参させるまで』。それがルールなんだ。」
「なるほど。」
単純でとても良い。
「始めるぞ。」
言っておきたいことがある。
ここまで怖気付いていなければお気づきだろうとは思うが、俺は決して初心者ではない。
流石に本物の剣を握ったことは無いけど、アシェリーの護衛であるユリイエの動きを止めるくらいなら、出来る。
「こっちの方が俺に合ってるな。」
知っていただきたい。こういうことには、慣れているのだと。
―――始め。
その合図と同時に蹴りだし、中央で甲高い音が響く。
剣風で砂が巻き上がり、一瞬視界が奪われる。
「っ!!」
「予測が足りませんね。回避行動も遅い。」
その一瞬でロレンツォの背後をとり、剣を振り下ろす。
が、ロレンツォも訓練しているのだろう、そう簡単にあたりはしない。
すぐに立て直し、砂煙のないところまで下がる。もちろん逃がしたりなどしない。
「ユリイエ。彼は……。」
ロレンツォは決して弱くない。剣だけだとしても、アルコイーリスの中で5人に入る。
そのロレンツォと、自分たちの目の前で互角に戦うのは、素性もしれない者。
「闇雲に振ってるわけじゃなさそうだな。」
「そんなんで、ロレンツォと戦えるか。ありゃあ、だいぶ慣れてるな。」
「地球でも、このような事があるということか。」
「それは違いますよ。」
ユリイエとレオナルドが見ている横に座る、アシェリーが口を挟んだ。
「ソラさんが特殊なんです。地球は平和……とまでは言えなくても、少なくともソラさんの住まう国ではこのような事はありません。」
「ならば彼は……。」
「彼には誰にも負けない経験と、基礎が備わっています。ですから、無駄がない。」
「確かに、ロレンツォはまだ多いからな。」
「だからこそ、ソラさんはロレンと互角以上に闘えているんです。」
そう言い放つこの領の長は、それが必然だったかのように見ていた。
「彼なら。……彼とユリイエや、レオ、ロレン。アルコイーリスの民とならば、きっと本当に叶います。」
彼女には分かるのだ。自分たちにはわからないことが。
この領のために、彼の力が必要であるということが。
「Blitz!!」
「!?」
「ロレンツォ、魔法使いやがった。」
「ソラさんはまだ使えないんです!止めなくては、ソラさんが死んでしまいます!」
目の前に生き物のように雷が飛んできた。もっと落ち着いて、初めて魔法見たかった。こんな状況じゃなきゃ、感動してる。
―――ザンッ!!!!!
「っ……。」
「心配無用のようですね。」
「ロレンツォの雷を、切り捨てた……。」
「あいつは、本当に魔法を初めて見たのか。」
もしそうならば、天才なのか。
「驚いて呆けるな。」
「っBlitz!!!」
魔法を見たこともないはずの者に、防がれたことに多少の動揺をしていたロレンツォの隙を見逃すはずもなく、その距離を詰める。
多少の動揺と、培われた危険回避の条件反射。
「まずいっ!!」
今まで行っていた手加減が効かなかった。
そして、運の悪いことに……
「よけろ!!」
そう叫んだのは誰だったか。
たまたまそこを歩いていた、この城の召し使い。多少の法力を持つとはいえ、迫る魔法は領で5人に入る実力者の魔法。
「キャーーー!!」
持っていたものを手放し、その場に屈む以外に出来るはずもなかった。
―――ドカーンッッッ!!!!!
バチバチと音が鳴る。黒い煙が上がり、レオナルドが誰よりも先に動き出し、アシェリーもそれに続く。
「あ……っ、……っ、お……れが。」
「ロレンツォ、落ち着け。お前の兄と姫が向かったんだから、大丈夫だ。」
関係の無い一般人を傷つけてしまった。それに心を傷めないほど、ロレンツォは冷たくなかった。
「大丈夫か!!」
「レオナルド殿、姫様……。」
「怪我はありませんか?」
「……は、はい。わ、私は……。あちらの方が私を押してくださり……っ。」
「っ!?」
黒煙が開け、現状を見た時、誰がそれを信じられただろうか。
「ゲホッ……ゲホゲホッッ……。……っハァ。」
魔法を見たこともない。
この地で生まれたものでもない。
対して、相手は領内5人に入る、訓練を受けた者。
ボロボロになった衣服で横たわっており、もろに魔法を受けたことは、明白だった。
「ソラ、さん……。」
「お前……、」
「さっきの方は……?」
「……怪我一つしてない。」
「そう、ですか。なら、良かったです。」
そう言って宇宙は意識を手放した。
「わ、私を守るために……私とロレンツォ殿の魔法の間に飛び込んでくださって……、それで……っ。」
「剣で防ごうとしたが、本気モードのロレンツォの魔法には、叶わなかったってことですかね。」
何のためらいもなく、
全く知らないもののために、
彼は、未知のものに飛び込んだのだった。
「大丈夫です。私が必ず回復させます。」
やはり、あなたを呼んだのは間違いでは無かった