この世界
「改めて……、俺の名前は黒沼宇宙。姫が申し上げたように、この世界ではない地球という場所の生まれです。」
とりあえず、敵であるかもしれないという疑いは晴れ、色々教えることになった、お互いに。
「何を話せばいいのか分からないので、質問してもらってもいいですか。」
「……その地球では、自分は偉いと言ったな?」
「えぇ、偉いですね。その辺を話せばいいですか?」
「頼む。」
ユリイエさんは、まだ警戒を解いていない。当たり前だが。やっぱり、優秀だと思ったのは間違いではなかったらしい。
「俺の住む地球で、俺はある組織に所属しています。それは、アルコイーリスのように国単位ではありませんが、それ相応の影響力を持つ組織です。
俺はそこの生まれで、ある事情で時期が来るまで次期筆頭を務めているわけです。」
「ある事情?」
「女性の格好をしていた理由ですか?」
「まぁ、そうですね。そちらも話しますか?」
コクコクと頷かれる。姫、好奇心とかじゃないですよね?
仕方ないか、元より女装なんてしてなかったら、この目の前の姫に間違えられることもなかった訳で。
……じゃあ、即刻殺されてたのか??笑えな。
「俺の所属する組織は、ある規則がありまして。組織のトップは女しかできないんですよ。」
「なるほど。」
「俺には妹が一人いるんですけど、まだ小さくて何も理解してないと思うから、という大人たちの事情で、妹が成長するまでの間だけ繋ぎの役で次期トップをしているんです。まぁ、今のトップはもう年でほとんど俺がその座にいるようなものですけど。
どうせ、妹がその座についたとしても、その補佐は俺がやるだろうということで、決まったんです。」
……理解出来たのだろうか。固有名詞は使ってないから、多分大丈夫だと思うけど。
「この国でもいますよね?姫を政治的に補佐する人。」
「……いることには。」
「……。」
今、絶対に地雷踏んだ。これ以上突っ込むのはやめよう。
「俺もこちらの事、聞いてもいいですか?」
「あ、はい。もちろんです。」
「……。」
ユリイエさん、殺気おさえて。そんな睨まないで……。
「秘密であれば答えて頂かなくて結構ですから。」
「っ。」
「とりあえず、ここは地球からどのくらい離れた場所なのでしょうか。ご存知ですよね?地球のこと。」
「えぇ。地球のことはもちろん知っています。どのくらい離れているのかは分かりません……が、とにかくとても離れていることは確かです。」
「そんなに……、」
「それから、申し上げにくいのですが……。」
「??」
「地球は、数千年前に滅んでいます。」
「……はっ?」
何を言われても驚かない自信があったんだけど……、それには少しびっくりだ。ちなみに、地球が滅亡したことに対してではない。
「数千年前に……ですか。」
「だから我らも、地球のことは資料でしか知らない。」
「では、ここは言わば未来の世界。」
「ソラさんのいた地球からすれば、そうですね。」
びっくりだ。地球外というだけでなく、時系列まで違うとは。でも、意外と驚いていない自分もいる。俺からすれば、そんなことよりも非現実的だと驚いていることがあったから。
「意外と驚いていないんですね。」
「地球生まれの俺からすれば、魔法なんて存在の方が驚きですから。」
―――魔法。
あの古書の中で、簡単に読めた数少ない単語。
「地球には、無いのか。」
「えぇ、ありません。魔法なんてのは夢の中の話です。
差し支えなければ教えて欲しいのですが。魔法を知らずに情勢を知っても、何も助けになれないと思うので。」
「分かりました。お話しますね。」
ここまでくると、ユリイエさんも諦めたのか、説明に使うのであろう地図やら、本やらを持ってきてくれた。
「はるか昔、この地を作った二人の方がいました。ここに生まれた私たちの祖先は、この地を発展させるよう命じられ、その手助けになるだろうと与えられたのが“魔法”です。
魔法には属性と呼ばれるものがあり、火・水・木・雷・氷・回復・毒・土・気体の九つに分けられています。
時は経ち、それらの中から一つの魔法に特化した者達が現れ始めました。九つの属性それぞれに特化した者と、全てにおいて最高クラスの魔法を持つ者と合わせて10名が、いつの日かルーチェ王国を平和にするためにそれぞれが国を持ち、少しずつ統治していこうと契を交わしました。
そうして生まれたのが、今のルーチェ王国にある十大国と言われている国たちです。」
ユリイエさんが持ってきてくれた地図には、見たこともない大陸の形が大きく記されていた。
「この大陸がルーチェ王国。私たちが治めているのが、中心に位置する 【アルコイーリス】という領です。ここは、全ての魔法に特化していた祖先によって創られた領土です。
火の領 【ヴェルメリオ】、水の領 【アスール】、木の領 【グリューン】、雷の領 【ルアン】、氷の領 【セフィド】、回復の領 【ロゼオ】、毒の領 【ビオレータ】、土の領 【ポルトカリウ】、気体の領 【パレンツァ】。
これらの九大国とアルコイーリスが、ルーチェ王国の十大国です。」
「なるほど……。かつては、未来の平和を願って建国したはずが、いつの日か奪い合いになったというわけですか。」
「姫のお父上、現在のアルコイーリスの長であるハロルド陛下は、その願いを叶えようと平和を唱えているが、正直、聞く耳持たずという国は少なくない。」
どこの世界も、どの時代も頭を悩ませることは変わらないようだ。俺の組織でも、そういう奴は山ほどいる。少し力をつけると、統合とかを嫌うやつだ。
「姫のお父上はルーチェ王国の王なのですね。」
「はいっ!父上は本気でルーチェ王国を統一しようとなさっています。私も、そのお力になりたいのです!」
おぉ、急にキラキラしてる。……お父上がお好きなようで。心ここにあらずという感じだ。
「ユリイエさん、次期王は姫に決まっているのですか。」
「……いや。アルコイーリスの長は血で決めることが出来るが、ルーチェ王国の王は完全な実力主義。王が変わる際には、“武闘祭”を開き、優勝した国の長が務めることになっている。」
「なるほど。」
そこはうちと似てるな……。
「このくらいでしょうか……。」
「まぁ、一度にすべて言われても、覚えきれませんね。」
一通りの説明をしていただき、カタカナばかりで少し覚えるのが大変そうだな、なんて呑気なことを考えていたら、思い出した。
「あっ、もう一つお聞きしてもいいですか?」
「??なんでしょうか。」
俺は多分、アシェリーの机であろうところに置いてある、古書を持ってきた。
「このページ、俺が読んだのはここだけなので分からないのですが……、
この世界には“魔法”以外にも“模法”というのがありますよね?」
「…………えっ?」
「………………えっ??」
これまた地雷ですか??
カタカナ多くてすいません!
そして読んでくださっている方、ありがとうございます!!