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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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溜息

 暫く眺めていた女が急に振り返った為に、男は一瞬驚いてしまったが直ぐに姿勢を正した。

「助けて頂いて、ありがとうございます」

 この女が何者なのか、男には分からない。ただ言えるのは、戦い方からして女は妖だろうということだけ。しかし、助けられたことに変わりはないので、笑顔を作って礼を言う。

 そんな男の行動を無視して女は近付くと、手にしていた剣を奪い取り剣先を眺めた。

 この女は、奪い取った剣で何をするつもりなのか。

 男が不思議そうに見ている目の前で、女は剣を振り下ろした。地面に剣が触れた瞬間、鈍い音と共に剣が折れてしまう。それを見た後、柄を放り投げながら見た。

「粗悪品だな、檜で大量生産された物だろう」

 女の言葉通りだ。持っていた剣は、安物のどう足掻いても耐久性のない代物だ。女は剣が、安物だとすぐに気付いたのだ。

「その通りです。護身用に買った物で、大した物ではありません。余程のことがない限り、それで充分でしょう」

 女が、呆れた表情になった。

「その余程のことがあったから、この様なんだろうに」

「返す言葉もありません」

 折れた剣に一度視線を落としてあっさりと肯定した男に、女は溜息を一つ吐いて振り返った。

「薬屋、もう着いているんだろう。出て来て良いぞ」

 女の言葉で木の陰から出て来たのは、先程逃がした惣一だ。安堵した表情をしている。

「ああ、先程の。ご無事だったのですね」

 何処まで呑気なのだろうかと言わんばかりに惣一が、苦笑した。

「偶然薬屋に会ってな、助けを求められたから来たんだ」

 自分の刀を背負いながら、ここに来た経緯を女が簡単に説明する。

「そうでしたか。本当にお二人には助けて」

「名前」

「え?」

 言葉が長くなると思ったのか、女が突然遮った。どうやら、少々気が短いらしい。遮られたお陰で、男が面食らって聞き返してしまった。

「名前を聞いていない」

「そうですね。弥素次≪やそじ≫と申します」

 男は深々と頭を下げた。

「連≪れん≫」

 女は名前だけを告げる。

「俺は惣一だ。あんた、本当に旅人なのかね。でも、俺もあんたに助けてもらったから、お互い様だよ」

 惣一は呆れたように呟いて、先程言いかけた言葉に返すように答えた。

「いいえ、結局は助けて頂きましたから。私に何か出来ることがあれば、言って下さい」

 弥素次は、惣一に満面の笑みを浮かべながら首を横に振って見せた。

「七妖、運ぶから手伝え」

 弥素次の言葉を聞いた途端に、連が遠慮なしに言った。

「分かりました」

 笑顔のままで弥素次が言うと、連が笑みを見せる。それから連は、惣一を見た。

「お前もだぞ」

「分かってるよ」

 連の言葉に惣一が答えると、ゆっくりとした足取りで、篠木の町に向かったのである。

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