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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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対峙

 夕刻、日が森の陰に入りだすと、闇が静に辺りを黒く染めていく。一人、小屋の入口で盗賊の帰りを待っていると、自然に三年前のことを思い出す。前国王の部屋へ行く途中の、暗い廊下。何処かで行くなと警鐘されながらも、引き返そうとをしなかった。薄暗い部屋の中で、虫の息だった前国王を見て、何を思ったのか。誰かを呼べば良かったのに、声を出すことも忘れてしまった。結果が、真っ暗な部屋に幽閉されたのだ。嫌いだと思う。濡れ衣を着せられたのも、女神達に辿るだろう道を示されたのも闇の中で、運命を左右されているような気がしてくる。すぐ近くに連と育也がいるのは分かっていても、闇を目の前にして何処か逃げ場はないかと視線が動いてしまう。

深く溜息を吐くと同時に、弥素次は視線を前方へ向けた。灯りが見え、盗賊達が戻ってきたことを教えてくれた。玄封を、強く握り締めると、気持ちを切り替えるように灯りを見詰める。徐々に近くなってくる。そろそろこちらが見える頃だと思いながら、微動だにせず見詰め続けた。盗賊達の驚きの声が聞こえた。ついで、押し寄せるように動揺が肌に伝わってくる。

「お待ちしておりました」

 はっきりと聞こえるように、弥素次は笑みを見せて言葉を紡ぐ。盗賊達の動揺が、警戒と殺意へ変化していくのが手に取るように分かる。

「柳の国王の命により、妖霊山の主の名を騙る者と盗賊の始末をお引き受け致しました」

 紡いでいく言葉に、盗賊達の雰囲気が驚きを含ませたものに変わっていく。国王の命であると言われたせいかもしれないが、多少、戦意を喪失させているかもしれない。

 ゆっくりと、弥素次は玄封を構えた。まだ、動けない。連達が動き出すまでは、構えたままでいろと言われている。盗賊達も剣を構えると、一人が刀を振り上げ、襲い掛かってくる。襲い掛かってくる盗賊をかわすべきか。しかし、後二歩の処で育也が滑り込むように間に入り、組んだ棒で腹を突いた。呻きながら倒れこむところを見ると、強く突いているらしい。一戦交える時の育也は、容赦する気がないようだ。

「妖霊山の主の名を騙る者を出せ」

 盗賊達の後ろで、響いた連の淡々とした声で、盗賊達が振り返った。弥素次に気を取らせている間に、連は後ろに回りこんでいたのだ。

「出さぬのなら、容赦なく切り捨てる!」

 有無を言わさぬ連の口調が、盗賊達を威圧している。三人程、驚愕した表情で後退りしていたが、連の威圧感を撥ね退けた者達は、逆に連の方へ一歩前へ出る。

 それを見て、連は刀を軽く振って白護の鞘を消した。

 盗賊の一人が連に向って走り出し構えた剣を振り上げると、連の唇が妖しげに笑った。次の瞬間には、剣を振り上げた盗賊の真横に居り、白護で盗賊が振り上げた剣を切り落としている。そのまま、白護の背で盗賊の腹を殴り飛ばす。左足が瞬時に盗賊の真横に来たと物語るように、土を押し上げていた。

「一人目」

 ぽつりと呟いた連の視線が、ゆっくりと盗賊達を見渡す。冷たい物が背筋を這うような視線が、盗賊達の勢いを抑制する。

「頭はお前だったな」

 大男に視線を合わせた連が、聞くように呟くと、白護の先端を弥素次に向けた。

「あれが、この前の借りを返したいらしい。腕に自信があるなら、相手くらい出来るだろう」

 勝手なことを言っていると思いつつも、刀を構えたまま弥素次は笑顔を見せる。

「いいだろう」

 大男が、ゆっくりと弥素次を見た。

「弥素次、後はお前に任せる。手出しはせんぞ」

 連が視線を盗賊達から外さぬまま、声をかけた。

「分かっております」

 短く、落ち着いた口調で言葉を返すが、視線は大男の動きを見逃さない鋭さが顔を覗かせている。こうして気持ちを落ち着かせて改めて大男を見てみると、最初に会った時の不安も恐れも全く無い。精々腕の立つ斧遣いくらいだ。とは言え、相手は弥素次を飛ばしてしまうくらいの怪力だ。油断は出来ない。

 育也が、他の盗賊達から視線を外さずに横に移動する。

「また、剣を使い物にならないようにされたいのか?」

 大男の声はかなり低く、空気が揺れているような錯覚を起こしそうだ。

「剣でしたら、貴方方が立ち去った後に連が折ってしまわれました。今日は私が一番得意としている刀術ですから、この前のようにはなりますまい」

 大男の言葉に動じることなく言い返すと、弥素次は姿勢を低くし、左の刀を前で、右の刀を後ろで腕に背を沿わせて構える。

 大男も持っていた大斧を構える。

 前回よりも更に、張り詰めた空気が漂う。どちらが、何時攻撃してもおかしくない状況。

 連が石を拾い上げ、両者の間に落ちるように軽く放り投げる。放物線を描いて、石が地面に落ちたのを合図にするように、大男が先に動いた。

 大男の動きの速さは、前回の時によく分かっている。大男が大斧を振り下ろすのを見計らうようにじっと見詰め、攻撃に出る機会を狙う。

 大男の動きが勢いを増す。大斧を持っている腕が、大きく振り上げるのを合図にするように動いた。同時に、大男の斧が振り下ろされるが、左にかわして、大男の右脇へ飛び込む。右の刀で手首と脇腹を素早く打つと、大男が次の動作に入る前に体を大男の方へ向ける。右の刀の持ち方を変えて再び脇腹を打ち、続けざまに左の刀で脇腹を打った。

 大男の表情が歪むが、倒れ込む程ではないらしい。再び右の刀の持ち方を変え、大男の脇腹に三度打とうとしたが、一瞬早く大男の体が浮いた。そのまま仰向けに倒れる。

 大男が向いていた方を見ると、何時の間にか正面に来た連が、鞘に納めた白護を振り上げた後だった。

「今のは私の腹いせだ。気にするな」

 自分の名を騙られたのが、余程気にくわなかったらしい。

「お見事で」

 苦笑いを浮かべて弥素次は呟いた。遠くから近付いてくる人の声が、微かに聞こえていた。

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