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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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逃亡

 篠木の町に戻り、追手に見つからずに薬屋に戻ってきた。予想していたとおり、惣一は埋葬着に目を白黒させていたが、どうやら連は先にこちらに寄っていたようで、賢治が元気良く出迎えてくれた。

「二人共、脅かさないでくれよ」

 深々と溜息を吐いて言っていたが聞いていたのだろう、それ以上何も言わなかった。布を取り、惣一に受け取った代金を渡しながら、苦笑いを浮かべる。

「似合うだろう。そこの服屋で、丁度良いのがあったから買ったんだ」

 白い布を肩に羽織って連は、嬉しそうに言っている。

「いや、埋葬着に似合うも似合わないもないだろ」

 呆れて言った惣一の横で、賢治を抱き上げた連はすかさず冷たい視線を送っていた。

「しょーいち、かかにちゃんと似合うって、言わないと駄目でしゅよ」

 駄目出しをされ、惣一がだからと反論している。それを眺めながら、何時出て行くかと思う。連がいる間は、避けた方が良いだろう。彼女の行動からすれば、きっと力ずくでも止める。行くとすれば、連が帰った後だろうか。引き留めようとするだろうが、惣一と亜己なら何とか説得出来る筈だ。

「済みません、着替えて来ます」

 一言言って部屋へ上がる。部屋の扉を開き、中に入るとすぐに閉めた。追手がこの町に来たのなら、ここにいることが知れるのも時間の問題だ。それなら、何も言わずに出て行こうか。どうせ二度と会わないなら、このまま身支度を整えて、気付かれないように裏口から出て行けば良い。惣一が気付く時には、篠木から大分離れた頃になるだろう。

 着替えると、手早く身支度を整えて外套を纏った。軽く溜息を吐くと、音をたてないように部屋を出て階段を下りる。誰もいないことを確認して、中庭へ出てそのまま裏口から薬屋を後にした。外套の頭巾を深く被り、顔が見えないようにする。町の者に見られでもすれば、すぐに惣一の耳に入ってしまうだろう。大通りに出る処で追手がいないか確認し、人目に付かないように端を歩いて行く。町の出入り口に差し掛かると、建物の陰に身を潜めた。

 町を出るのは良いが、追手に会うのは何より面倒になる。見つからずに出る方法はないかと思案する。本来なら真夜中に出るのが良いのだが、そうすると追手に見つかってしまう可能性がある。町を出るなら、まだ出て行く者がいる、今のうちだろうか。

 頭巾を深く被り、顔が見えないようにして、町を出る者に紛れ込み、そのまま町の外へ出る。青々とした草原の道を周囲に気を配りながら歩き、町が小さく見えるようになった頃にそっと木々の生い茂った方へ離れた。

 木の陰に身を潜め、小さく息を吐いた途端に左目に剣先が見えた。身動きが出来ぬまま、息をのむ。

「やはり、ここにおりましたか」

 朱膳の声に、読まれていたと奥歯を噛み締める。追手の一人が左腕を掴み、朱膳の方へ体を向かせられると、剣で被っていた頭巾を脱がされた。他の追手は、逃げられないように距離を少し開け、周りを囲む。

「大人しくしていれば、何もしない」

「嘘は、程々にするべきだな」

 朱膳の言葉に、突き刺すような視線で見ながら、弥素次は言葉を返した。この状況でどうやって逃げようか、目を離さぬまま逃げ道を探す。

 腕を掴んでいる追手は何とかなる。追手の右足に差している短剣に、弥素次の腕が触れているのだが、全く気付く気配はない。だが、短剣を抜いたところで、ここにいる者全員を相手にすれば、弥素次が力尽きてしまうだけだ。闇雲に逃げたとしても、同じ結果になる。ならば、出来るだけ時間を稼いで、撒けるくらいの段取りは考えておきたい。朱繕が笑みを浮かべながら、剣を鞘に収めた。

「嘘ではありませんよ」

「誰の命令だ?」

 朱繕の言葉を遮って、弥素次が低く聞く。同じ両刃でも長剣に比べて、短剣の方がはるかに使い易い。逃げるには、何人かに犠牲になってもらわなければならないだろう。短剣は使わせてもらうとして、逃げるとすれば草原の方へ走った方が良いのか。運が良ければ、旅人達の目に留まるだろう。追手も表立っては動けない筈なので、逃げ切る可能性も充分ある。

 笑ったまま、軽蔑するような眼差しで朱膳が見た。

「教える気はない、連れて行け」

 朱繕の言葉に、腕を掴んだ追手が動くと同時に体当たりし、木に激突させる。掴まれた力がほんの一瞬緩むと、すかさず短剣を抜き取り、腕を振り解いて走り出した。

「逃がすな!」

 後ろで朱繕の声が聞こえたが、構わず草原へ走る。

 前方にいた一人が長剣を抜こうとしたが、横を擦り抜ける瞬間に、柄を握った追手の右手首を、左手に持ったままの短剣で切りつけた。右手首を抑え込むのも確認せず、そのまま走り去る。

 他の追手が連れて来た馬に跨ったのだろうか、馬の蹄が聞こえた。馬で追われては、すぐに追いつかれる。木々が生い茂っている森なら逃げようもあるが、残念ながら逃げた方向は森とは正反対だ。他の者の視線を期待したが、誰もいない。

 気付くと、蹄の音が八丈程後ろで聞こえる。走りながら振り返った弥素次の目に飛び込んできたのは、追手が右手で構えていた両刃の剣。避ける暇もない。

 追手の剣が襲いかかってくる。後、少しの処で、突風が吹いた。思わず立ち止まって目を瞑ってしまう。突風が収まった時には、追手との間に割って入るように気配を感じた。誰もいない筈なのに、そう思いながら目を開けると、いない筈の連が埋葬着のまま立ち憚っていた。

「連」

「お前、奪った短剣一つで何処に行く気だ」

 言いながらも連は、背に背負っていた刀を取り構えている。どうやら彼女にも、行動を読まれていたらしい。

「邪魔をするか?」

 追手の言葉に、連は不敵に笑みを見せた。

「邪魔? 柳の許可も得ていない檜の兵に、邪魔扱いされる筋合いはない」

 圧倒させる威圧感に、追手は息を呑んだ。連の冷やかな視線と雰囲気が、明らかに追手の行動を抑えている。盗賊達の時とは全く違う感覚に、戸惑いながらも様子を見る。追手の後ろから、馬に跨った朱繕達が追いついた。

「命が惜しくば、その男をこちらに渡せ」

 朱繕が言った言葉にも連は、不敵な笑みを消さずに軽く刀を振り、軽く構えた。一度も抜かなかった刀の鞘が瞬時にして消え、吸い込まれそうなくらいの真っ白な刃が現れる。妖刀、そんな言葉が連の持つ刀には似合っているように思えた。

「命が惜しくば、か。その言葉、そっくり返してやる」

 朱繕が馬を下がらせた。同時に、追手が連に向って剣を身構える。

「無駄なことを」

 ぼそりと呟いた連の言葉に反応するように、緩やかに風が草原を滑って行く。

「殺せ」

 朱繕の一言で、追手達が襲いかかる。だが、連は動くどころか、不敵な笑みが、誰をも魅了しそうな笑みに変わっただけだった。

「鳴け」

 緩やかな風が、突風に変わった。殆どの者が突風に視界を奪われ、目を細める。過ぎ去った後には、既に半分の追手がその場で地に伏していた。連は軽く構えたまま、微動だにしていない。

「まだ相手にして欲しいのか? 次は本当に白護≪はくご≫の餌食にするぞ」

 白護、何処かで聞いたと思う。何処でと思う前に、再び風が吹き出した。予測した以上の能力を持っている連のことだ、追手が引かなければ次は確実に消してしまうだろう。

 朱繕の視線が、負傷した者に向けられる。追手の半数が負傷してしまっては、得体の知れない者を相手に出来る状態ではないだろう。これ以上続ければ勝ち目がなくなると思ったのか、苦々しい表情を浮かべた朱繕は、負傷していない追手に引くよう合図した。

 それを見て連は、もう一度軽く刀を振った。刀を止めた時には、既に鞘に収められている。それを背負い、くるりと振り返った。急に振り返られ、驚いた表情で連を見る。先程の威圧感のある雰囲気は、既にどこにもない。

「どうした?」

 連が聞くと、何も言えずに首を横に振った。

「何もないなら帰るぞ」

 追手が後ろにいるにも拘らず、連は弥素次の腕を掴むとそのまま篠木の町へ歩き出す。

 引っ張られた腕を振り払わずに、連に引かれるまま白護という言葉を探す為、自分の記憶を辿りながら歩き出した。

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