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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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お遣い

 三日後、弥素次は篠木の町で一番大きな通りを歩いていた。手の離せない惣一から、薬の配達を頼まれたのだ。

 何も気にせずこうして大通りを歩くのは、随分久しぶりな気がすると、呑気に思いながら配達先を目指す。

 配達先は妖の妙玄≪みょうげん≫宅で、雑貨屋と肉屋の間の細い通りを入って三軒目だ。弥素次でも分るからと、惣一が手を合わせながら頼んでいた。

 この篠木の町は国境に一番近い為、他国の人や品物の出入りが多く、柳の国にはない衣装を纏った者や、珍しい品物が多く見られる。檜でも滅多に見られない風景に、自然と気持ちも和らぐ。もし檜に帰れたら、こうやってのんびりと人が行き交う姿を、眺められるだろうかと思いながら、擦れ違う人や、威勢良く声を発して客を集める店員を見る。この町には活気があり、人々の顔も明るく思えた。

 角を曲がり、三軒目の家で足を止めると扉を叩く。

「こんにちは、薬屋です」

 家の入口を開けて言うと、奥から全体の半分が顔の妖がのそりと出てきた。

「今日は、違う薬屋だね」

 低く響く声に、耳の鼓膜がいつもより多く振動しているように思える。

「はい、今日は惣一さんが、どうしても手が離せなかったので私が代わりに」

 町に住む妖の殆どは、姿こそ大きく違う者もいるが、何ら人と変わらない。人の持つ能力と同じ。ごく当たり前に、生活をしており、妙玄もその内の一妖なのだ。

「そうかい、薬屋は人が良いからね。頼まれると、嫌と言えないんだ」

 妙玄はそう言いながら薬を受け取り、代金を渡す。

「良く分かります。惣一さんの人柄は、私も好きですから」

 にっこりと笑って言うと、妙玄もつられるように笑う。妙玄が笑った瞬間、弥素次の笑顔は妙に引き攣った笑顔に変わっていた。

 ありがとうございましたと言って、家を出ると、ぽつりと心の中で呟いた。妙玄さん、良い方なのですが、私には貴方の笑顔に怖さを感じます、と。

 一度、深呼吸をして大通りに出る。町の雰囲気に馴染むように、ゆっくりと歩き出す。この町は、余所者の自分を優しく受け入れてくれる。他の国でも、国境に近い町の雰囲気は似ていたが、此処のように受け入れてくれるようには思えなかった。ただの旅ならここに落ち着いても良いと考えるが、現状は無理な話だ。

 溜息を一つ吐いたこちらの横を、あまり背の変わらない男が擦れ違う。擦れ違って、立ち止った。ゆっくりと振り返り、男を見る。男の方も振り返っていた。互いの視線が、如何なる者の介入を拒むように凝視してしまった。

 その場の時間すら、止まったように思えてしまう。

 町に似合わぬ沈黙が、男との間に流れる。先に沈黙を破ったのは、男の方だった。

「やはり、ここにおりましたか」

「朱膳≪しゅぜん≫」

 じっと睨むような視線で、男を凝視したまま名前を呟いた。

 檜を出て以来、この男とは一度も会っていない。檜で見たのも数度で一度も剣を交えたことはないが、王宮を守る護衛の者の中ではかなりの腕だと聞いている。そんな者まで追手として向けるとは、相手がかなり焦っているのか。

 朱膳に気付かれぬように、ゆっくりと周囲に気を向けた。肌を針で軽く刺されるような視線が、向けられている。いつの間にか、逃げられぬよう辺りを囲まれていた。

「ここで、事を荒げるわけには参りますまい」

 朱膳が、ゆっくりと近づいて来る。

「事を荒げて、困るのはお前達の方だろう」

 何処か、逃げ道はないかと周囲に視線を巡らせた。

「お互いに、でしょう」

 朱膳の腕が、伸ばされる。

「弥素次!」

 突然、女の声が呼んだ。それを合図に弾かれたように朱膳の腕を撥ね退けると、声の方へ走りだした。逃げられまいと辺りを囲っていた他の者が立ち塞がったが、一瞬で隙間を縫うように体を小さくして擦り抜けていく。

「逃がすな!」

 朱膳の声が聞こえたが、気にも留めずそのまま妙玄の家のある角を曲がる。

 細い路地裏だ。一人通るのがやっとのこの道を、全力で走り抜けて行く。その後ろを、数人が追いかけて来る。息を切らしながら隣の大通りに出て、左に曲がり、すぐに向かいの細い路地裏に入りこむ。

 町の者が何事かと視線を投げかけていたが、構っていられない。

 数人の気配を後ろに感じながら、路地を走り、途中で左へ曲がる。曲がって数歩で、少し広い場所に出て行き止まった。

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