堕した欲望
柘榴。魚の腸。腐った卵。
墓標。鳴りやまぬ鎮魂歌。風の嘲笑。
漏れ出る呻き。がしゃどくろ。嫌に目につくモンブラン。
終わらないトマトジュースに乾杯。酔いどれお化けの解体ショー。
万華鏡はかくもたやすく像を結ぶ。ピエロの命は疾うに風前の灯火。
奴隷は空しく口を開く。
「たす……」
白魚に刃を突き立てるように火は消えた。後に残るはずた袋。
順番待ちの列はどうしようもなく乱雑で、おもちゃ箱から飛び出たぬいぐるみはあっさりとその列を押しつぶした。
「ケタケタ」
笑い声。がらんどうのぬいぐるみが喚く。
列は刻々と短くなってゆく。
嗚呼、友は生き物からただの物体になり下がった。
それをどうこう思うような気持ちが今の自分にあるのだろうか?
麻痺してしまった心周りを必死に動かぬよう押しとどめる。
列は短くなってゆく。
蠢動。ガサゴソと奴隷は生への渇望を叫び、また消えてゆく。
どうしようもなく浅ましいその姿に消えたくなるような羞恥を覚え、近くの物体を蹴りつけた。
転がってゆくボール。
それはコロコロと歪な軌道を描き、中身をすべてぶちまけるように体液と脳汁の線を引いた。
列は短くなってゆく。
悲鳴。怒号。
ますます聞こえやすくなったそれは恐怖という感情を象り耳を通り、脳を犯す。
古来の本能に従い生への渇望と種の保存の大合唱が響き渡る。
当然、涙は疾うに枯れ果てていた。
醜い嗚咽とともに罪人のように跪き許しを請うた。
いや、私は罪人だ。
嘘を騙り、正義を謳い、その一方で屍肉を食らう浅ましい罪人だ。
だから、当然のように神など在るわけもなくしたがって救いはない。
頭を垂れた拍子に、何者かだったはずの眼球が唇に触れた。
体は操り人形のように動いた。
口の中に甘いゼリーのような味が広がった。
恐る恐る顎を動かし咀嚼した。
一口、二口。
そしてもう止まるはずもなかった。
皮は前菜。骨はポップコーン。血はスープに似て、喉を潤す。
爪を毟り、溢れた肉を啜り、血管にかじりつく。
硬い骨をしゃぶって食べられないそれで頭蓋を割り脳汁を味わう。
一つ、二つと周りに転がっていた物体がおいしい食事に代わってゆく。
おぞましい何かが背中をはい回るような感覚と、相反するような絶頂に身を震わせ口を這わす。
列は短くなる。
男はスイーツ。女はディナー。子供は間食。
それらをまとめて口に放り込み味わい、嚥下する。
邪魔な髪を毟り、服を裂き、快楽に身を震わせる。
白い精を吐き出しながらそれでも喰らいつく。
いつしか前の列はなくなった。
無邪気な悪鬼は私を見て
「ケタケタ」
と喚いた。
頭蓋を舐め終えた私は陰惨な笑みを浮かべた。
ポップコーンが弾ける音がした。
暗幕が下りる瞬間。
私は生きようと思った。