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俺の部屋。その1

なんとか汗だくになりながら家までたどり着いた俺は、玄関の鍵を開けて、中に入った。


玄関は数十センチほど段になっており、靴を脱いだり履いたりする時、腰かけるのに便利であった。


―世間一般的な造りでしょうに…


―って、誰にツッコんでるんだ俺!?


そこにボタンを座らせるように後ろ向きにしゃがんだ。


するとボタンは、


「トイレこっち?ちょっと借りるねー。」


と、スタスタ歩いて行った。


―歩けるのかよぉぉ~っ!



トイレから出てきたボタンをリビングへと促すように、手でリビングの方向を指し示す動作をした。


「フユの部屋に行こう。」


そう言いながら、階段を上り始めた。


―なんだなんだ!?仮病使ってまで俺の部屋に!?


―まあ、最初は演技ではなかったのであろうが…


―やだ、ちょっとドキドキしてきた~



右足と右手、左足と左手が同時に出て、ぎこちない感を半端なく出しながら階段を上って行った。


俺の部屋に入ると、既にボタンは俺のベッドに腰掛けていた。

またちょっと何かを考えている様子であったが…


その様子を尻目に、壁と学習机の間に立てかけてあった折り畳み式の小さなテーブルを出してきた。

座布団を2つもってきて、テーブルの対面にそれぞれ配置し、コンビニで買ってきたものをテーブルに並べ始めた。


「こっちの座布団に座りなよ。で、一緒に食おうぜ。」


努めて平静を装いながら言った。


「あ、ああ、うん、ありがと。」


ボタンは、用意した座布団の上にちょこんと座りながら言った。


―気まずい…


「たいしたもの買ってないけど、好きなの食べてよ。お茶とジュースもあるしね。」


少々声を上擦らせながら言った。



しばしの沈黙…


ビニールの擦れる音がやけに大きく聞こえる。

お互いの息遣いまで聞こえてきそうだ。


―やべえ、心臓が口から出てしまいそうだ。


「ねえ、フユ。」


「ふぁい!!」


カラダをビクンとさせて変な声を出してしまった。



ボタンは、きょとんとした顔してこちらを見ていた。


「あははははは!」


途端にこの大笑いである。


今の俺は、まさに「狼狽」している。

全国の「狼狽」という言葉を調べているみんな、今の俺の状況がその意味するところなのだよ。



一通り笑い終えたボタンは、涙を指で拭いながら、


「ぐへへ、フユ吉、おぬし今何かよからぬ事を妄想していたのではないのか!?」


―はい、しておりましたー


「正直に言えば、皆にはナイショにしてやっても良いのでござるZO」


―そんなパターンもあるのか~


「え?何の事?べ、別に普通だろ??」


目の泳ぎを止められない…

どうやら完敗のようだ。


「すんません!変なこと考えとりました!!」



テーブルにぶつける勢いで頭を下げた。



「まあ、いいのよ。」


クスクス笑いながらボタンが言った。



「それよりも…」


姿勢を正してボタンが続ける。


「フユは、デジャヴっていうか…いや違うな、心の中にもう一人の自分がいて何か言葉ではなく…そう、意識のようなものが流れてくるような、映像とか情景とか…そんな経験とかない?」


―デジャヴ…さっきのギャルゲーの件…ではないよな。


―もう一人の自分…か


「変なこと聞いてるのは、十分承知しているのよ。なんだか最近そういう状況?そういう感じの時が増えてきてるのよね。」


俺の返事を聞く前にまくしたてる。


「ちょっと待ってくれ。ちょっと落ち着いて整理しようか。」


俺自身、身に覚えがない訳ではないので少々混乱していた。



落ち着いて話を聞いてみると、次のようだった。


☆自分の名前や年齢、経歴などを再確認するかのような声のようなもの。

☆行った事もないような場所や経験したことも内容な場景、でも何故か知っているような懐かしいような感じ。

☆最近では、その声ならぬ意識と会話のように意思の疎通が出来る時がある。


ノートに箇条書きにしてみた。



「誤解しないでねっ!幻覚や妄想とは絶対違うんだからっ!」


必死で釈明している感じである。



「よくワカランのだが、なんとなく理解した。」


ボタンの次の発言を、右手で制するように言った。


「いや、だから…」


言いかけたボタンを更に右手で制しながら、


「俺も…今朝、そんな感じの経験をした…かも。ボタンほど鮮明ではないが、まだ映像やら場景やらは経験してないのだけど…」


ボタン、君はいつからそんな経験を?と聞きかけて、ふと思い出したことがある。


「ボタン、そのもう一人の自分から〝覚醒はまだ早い〟的な事を言われた事はある?」


じっとボタンの目を見て訊いてみた。



ボタンは、数瞬口元をパクつかせていたが…


「ある…あるよ!てゆうか、毎回言われてる気がする!なんで、それをハクが…てことはハクもそうだったの!?」



ボタンは、テーブルの上のペットボトルのお茶の蓋を開けたと思うや一気に喉の奥に流し込んでいった。


ダンッ!!


ペットボトルをテーブルに置きつつ、


「ぷはぁーーっ!!なんか気が楽になったわ。感謝するでござるYO」


キリっとドヤ顔で親指立てながら…以下省略


―それ、やめんかね…



「それより、ちょっと気になることがあるのだが…」


部室のモニターに映っていた例の言葉を思い出して言った。


「Will Diver…でしょ?意志を飛ばす者とでも訳すのかな?」


「そう、それの事さ。」


ちょっと面食らったが、俺と同じ境遇なら読めるものなのかと納得もした。



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