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これが俺の部活。その2

端末が立ち上がり、モニターが黒く光り、白い小さな文字のようなものがまくしたてられるように流れている。


この小さな文字の羅列…なんか不思議な文字ではあるが、まったく意味の分からないモノであった。


ボタンが言うには、大昔に使われていた言語で、その当時でも我々の使うものとは違う言語で「英語」と言うそうだ。その文字の組み合わせで意味を成し、その言語をもってコンピューターに命令を出すのだとかなんとか…


―はは、さっぱりだ。


ただ、なんだか良くわからないのだが…


たまにその言葉の意味が分かる瞬間もある。

過去にその言葉をボソっと声に出した時にボタンに驚かれたことがあったような。


そうしているうちに、ボタンを中心に皆がモニターの前に集合していた。


画面上には、ボタン特製のオペレーションシステムだかなんだかが立ち上がっていく。



「なあ、ボタン。」


画面を眺めるボタンの横顔に、少し躊躇するようにアユハルが声を掛けた。


「ん?どしたアユハル?」


ボタンは、画面から目を離さず言った。


「ボタンなら心配は無いとは思うんだけど、その…そういったシステムに侵入された際の対応って奴を先方も考えてるんではないかな~と…つまりー」


「ああ、言いたいことは分かった。心配無用。ハッキング仕掛けた先で足跡を残すようなヘマはしないでござるYO!」


キリっとしたドヤ顔で振り向き親指立てて答えるボタンであったが、皆は固まった。



―ドヤ顔するときのセリフの語尾がこんなんじゃなけりゃ…勿体ない。



一同そう思ったはずである。



「相変わらず何書いてるかわかんねーな。」


いつの間に来たのか、ハクがボタンのメモ帳を手に取り言った。



これで「宇宙防衛軍」揃い踏みである。




…ん?


ハクのお尻付近で馬の尻尾のようなものがチラチラと…

ハクは馬萌えなのか??


「フユにゃん、皆さん、こんにちはー。」


タマキがハクの背後からピョンと横に姿を見せた、どうやらハクの後ろで身をかがめて隠れていたようだ。


「タマちゃん、今日もかわいいね。」


タケゾウが言った。

こんなことサラっと言えるこいつがうらやましくない事も無い。


「タケにゃんもかっこかわいいよー。」


「アユにゃん、また難しそうな本読んでるねー。」


タマキは、あちらこちら渡り歩いて皆に愛想を振りまく。

どうやら、パジャマのズボンはもう穿いてないようだ。


「ボタンにゃ…言いにくいぞー。ボタにゃんでいいかにゃー。」


今度はボタンに絡んでいるようだ。


「にゃーにゃーうるさいぞ。猫娘。今忙しいからフユにでも構ってもらってくれ。」


ボタンは、端末に向かって作業開始すると、思考回路の90%程がそちらに持っていかれるようで、特にタマキのような人種は受け付けられなくなるらしい。


端末に向かっていない時は、非常に仲睦まじいのだが。


ぶーっと頬を膨らませ不満顔なタマキがこちらに来た。


「ボタにゃん、今度はナニシテルの?すごく冷たいんですけどぉー」


「ふむ、俺にもさっぱりわからんが…隠されれば隠される程知りたくなるという人間的心理にもとずく実践とでも言おうか…」


「ハクにゃんー、フユにゃんも訳の分からない事言って教えてくれないー。」


半泣きになりながら、ハクにすがって行った。


「そうかそうか、ほれっ」


ハクが、ポケットからいちごミルクチョコを出して差し出す。


「きゃー!ハクにゃん大好きー。」


ハクの手からチョコをもぎ取り、幸せそうに頬張って上機嫌になったようだ。


それもそのはず、巷の女子高生の間で大人気の高砂屋のいちごミルクチョコである。一箱に8個入って100円とお買い得ながら、とろける様な食感と程よい甘さと酸味にミルキーさを兼ね備えた優れものである。


で、高砂屋はハクの自宅でもある。


「ハクにゃんと結婚したら、毎日お菓子食べ放題だねー。」


タマキが、幸せそうに妄想している。



「まあ、後は継ぐ気はないけどねー。」


と、つぶやきつつ、いつもそんな状態のタマキを見て癒されほんわかしているハクであった。


ハクは、動物が大好きなようで…ハクにとって彼女はペットのようなものなのだろう。




そうそう、そう言えばタマキは、宇宙防衛軍の一員ではないのである。

が、毎日遊びに来て最後までいるので皆はその事をすっかり忘れているようだが。


最初は、入部しようか迷いながら仮入部の形で見学していて、いつの間にか馴染んでしまって入部届を出し忘れていただけであるようだ。彼女らしいと言えば彼女らしいかな。



「ちょっと、なにこれ…」


期待と不安の入り混じった表情でボタンが言った。


再び、モニターの画面に注目する一同。



画面上には、いくつもの文章ファイルの一覧が表示されていた。



◎総司令本部アクセスマニュアル


◎宇宙防衛軍への対応マニュアル


◎陸海空軍への対応マニュアル


◎自動防衛システム


〇北海道・関東・中部・九州・沖縄、各方面地域へのホットライン対策


〇農林水産部門との流通対策


◎国民教育プログラム


◎Will Diverへの対応マニュアル




「なんなんだこれは!?」


眼鏡をクイっと上げながらアユハルは言った。


「なんだよー。役人の中にも中二病くさいのがいるもんだね~」


タケゾウは、ケタケタ笑っていた。




俺は、「Will Diver」って言葉が気になっていた。


―意志を飛ばす者。


―そう、こういう具合に訳の分からない文字の羅列の意味が直感的?に分かってしまう。


―ボタンは、コンピューター用語の範囲しか分からないようだな…




と、刹那、画面が赤く点滅し警告音が鳴り響いた。


「やばい!向こうの監視プログラムにひっかかっちゃた!」



画面には、強制切断完了の文字が大きく記され、その下に足跡削除に成功しましたの文字も表示された。



「ふふふ…見たか!私の開発した強制離脱プログラム〝逃げるクン甲改〟の威力を!どんな緊急事態に対しても足跡を残さずにドロンするのでござるYO」


皆の方を振り向きドヤ顔で…以下省略


ネーミングセンスにも問題があるようである。



「でも、まあ短時間であったがそれなりの成果を得たのであろう?越後屋よ。」


悪代官の如く悪い顔で俺が言うと。


「それはもうばっちりでござるYOお代官様ぁ~ぐふふふ…」


「ぐふふふ…」


なんだか心地よく波長が合ってくる。

なんやかんやで俺は、ボタンとの絡みが嫌いではない。



キーンコーンカーンコーン…


下校を促すチャイムが鳴り響いてきた。


ふと、時計を見ると午後の6時と表示されていた。



「今日はここまでにして、謎解きや討論は明日に持ち越そうか。」


この部活「宇宙防衛軍」の創設者であり、部長も務めるハクが言った。



俺たちは、それぞれ思い思いに部室を後にした。



―そういや、ファイルにも宇宙防衛軍って言葉があったな…


―まさか俺たちに対する言葉ではないよな~ははは…


―そもそも宇宙ってなんだ?明日アユハルにでも聞いてみるか。

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