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これが俺の部活。その1

校舎の裏手には、人工芝の立派なサッカー場があって、そこをコの字に囲むように建物が建てられ、それぞれが屋根つきの通路で繋がれる形となっている。


サッカー場のゴール裏に当たる建物には、柔道、空手、剣道などの武道場や弓道場、茶道や華道を行う和式の部屋などもあり、それぞれの部室があった、その建物自体の中庭には日本庭園が配置されていた。俺たちはそこを武道棟と呼んでいる。


武道棟を抜けた本校舎とサッカー場を挟んで対岸に位置するのが、我らが「宇宙防衛軍」の部室もある部室棟となっており、様々な文化系の部活の聖地となっていた。


我が校は、学生の自主独立性だかなんだかを尊重するとかで、一般教養の授業はもちろんであるが部活動に対しても熱心であり、そこにもかなりの力を注いでいる。仮に一見訳の分からないような部活動であっても申請時にもっともらしい内容をそれとなく説得力もたせて申請書に記載し提出すれば、余程のことが無い限り通ってしまうのである。


おかげさまで、訳の分からない部活筆頭である我が部活も存在しえるのであった。


顧問の先生は、書道部の正顧問であり我が部と共に複数の部活の顧問を兼任…と言うかさせられている哀れな若い男の先生である。いつの時代も若い先生は、何かと「人生経験だから!」との悪魔の呪文により苦労を背負わされる運命のようだ。


彼の名は、イタミ ヒロシ。

小太りでとても温厚な感じの先生で俺たち学生も気軽に話が出来る部類の先生である。


伊丹 大空と書くらしいが、イタミ先生は何故か漢字表記を嫌っている。何故だろう。


―大空と書いて、ヒロシ…気にする程の違和感はないと思うが。



もっとも顧問と言っても、特に問題なさそうな部活に対しては、週に1度程度しか顔を出すことはないので、部室は俺たちにとってはとても居心地の良いスペースとなっている。



部室棟は、3階建てで非常階段が設けられていないせいか、正面に左・中・右と3箇所の出入り口とそれぞれの先に階段が付いている。「宇宙防衛軍」は2年前に発足された比較的新しい部活なので、1階と2階の部室が既に他の部活の部室として使われていたために3階の空いている部屋にその身を寄せるしかなかった。我々はどうも隅っこが好きなようで、向かって左側の角部屋に居を構えている。


―静かな3階で見晴らしも良いが、3階は面倒だな。



部室の側面の窓からは、遥か彼方にそびえ立つ薄黒い山脈もうっすら見えていた。




扉に大きく「宇宙防衛軍」と書かれた紙が貼られた部室に入ると、既に数人のメンバーが来ていた。


「フユっち、ちゃっす!」


軽い感じで挨拶するこいつは、サヨウ タケゾウ。

少々背は低いがクリっとふんわりパーマのライトブラウンの髪をした、一見好青年である。

特に嫌味な所もなく、裏表もない感じのいい奴である。当然、女子には結構人気がある。


作用 武蔵と書くらしい。

俺としてはカッコいい名前だと思うのだが、本人はもっと軽い感じの名前がよかったようである。


「おう、タケちゃん、ちゃっす!」


俺も軽く返しておく。


「おつかれー。フユ、今日も絶好調にやる気なさげだね。」


嫌味にもとれる挨拶を淡々と吐くことで無毒化できるこいつは、カトウ アユハル。

サラッとした黒髪を6:4に分け、ふちなしの眼鏡をかけた秀才である。歴史、化学、物理学と何を質問してもポンと答えてくれる凄い奴である。一見協調性にかけると思われがちな立ち振る舞いながら、俺たちにとってはいたって標準的な同級生である。


加東 鮎春と書くらしい。


「やあ、アユハルも相変わらずの上目使い萌えますな~。」


などと適当に返しておこう。


こういった言い回しがまんざらでも無いようで、ちょっと満足げに口角を少し上げ、中指で眉間のフレームをクイっと上げつつ読んでいた本に目を移すアユハルであった。



「ハク達は、まだ来てないんだね?」


カバンを置きつつ椅子に腰かけ、タケゾウに尋ねてみた。


「ああ、なんでも日直とかで職員室に日誌届けてから来るってさ。」


「ふーん。」


部室を見渡しながら言った。




この部室は、意外と広く20畳ほどのスペースの中央に大きな折り畳みの会議用のテーブルを3つコの字に配置してその周りに無造作にパイプイスが並べられていた。


壁側には、大きなホワイトボードとスチール製のロッカー、洋服ハンガーがあった。


一際目立つのが、コの字テーブルの中央のテーブル上に鎮座する大きなモニターと端末である。かなり型は古そうであるが…


今の時代はの端末は、腕時計型のホログラム式端末で、浮かび上がった画面にタッチして使用するものが一般である。これで通話をしたり、メッセージを送ったり、様々な情報を得る事が出来る。


ただ、この古い端末にもいろいろと出来ることがあるようで、メモリやCPUに至るまで魔改造されているのであった。この端末の持ち主はー



ドタドタドタドタ…


ズドドドドドド…



けたたましく階段を駆け上り、けたたましく廊下をこちらに向かってくる足音が近づいてくる。


バァーン!と扉が開かれたと同時に、一人の女の子が息を切らし入ってきた。


「おっはよー!皆の衆!」


その持ち主の登場のようだ。


彼女は、ササヤマ ボタン。

一見黒っぽく見えるが光が当たると赤っぽく見える髪を短めのボブヘアにゆるくパーマをかけた、色白の細いながらも出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる、いわゆる美少女である。


篠山 牡丹と書くらしい。


さばけた性格であるが、仲間思いのいい奴である。

ただ、日がな一日中室内にてコンピューター端末とにらめっこいているIT少女のボタンは、何故か体力は無尽蔵にあるのだが、日の当たらない生活の為か白い肌をしていて、日の光にさらされ続けるとフラフラと目を回してしまう漫画のキャラのような奴である。



「昨日の夜、何気に神戸市のホームページを見ていたら、面白みもクソもない内容だったんでハッキングして遊んでやろうとサーバーに強制侵入試みてみたのよ!」


皆の挨拶を妨げるようにまくしたてながら、古い端末の席についた。

そう、ここがボタンの指定席である。


「そして、データの解析をしているうちに変なファイルエリアを発見したのね。でも、何故かそのエリアのセキュリティが異様に堅固で幾重にも張り巡らされてるのよ。」


カバンからメモ帳を取り出しつつ続ける。


「で、家にある端末では正直スペック不足だったので、この放課後が待ち遠しかったわ。」


ハアハアと獲物をロックオンした変質者の如き面持ちで、目を輝かせながら端末の電源を入れたのであった。



そう、この古い端末の唯一の利用価値とは、プログラミングはもちろんハッキングや解析までこなせてしまう事なのである。ただし使いこなせるのは、ボタンのみでもある。


我々が使ってる腕時計型端末は、主に情報の受信であって、発進は他の端末に対しての音声通話とメッセージ送信のみである。

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