俺の名推理。その1
いろんな事が起こったが、ようやく俺の回りには平和が訪れた。
ただ、この平和の陰には、それを守るための戦いが、かれこれ18年も続いているって言うんだから驚きである。
以前の夢の中で見た光景…あれは単なる夢だったのか?
それにしてはいやにリアルであった。
―転生前の記憶の断片ってやつなのかも知らんな。
そうなってくると、いよいよ傍観してられない状態ではないのかもしれない。
そんなこんなで、最近の我々宇宙防衛軍の活動内容は、この高校の裏手にそびえる六甲山の山頂にある、広大な牧場の一画を利用しての能力訓練と自警団スパイを推理する遊びに興じていた。
この六甲山の牧場は、トウカの家の所有の土地であったため、寧ろ彼女の方からの提案もあり一画とは言えログハウスを完備した広大な広さを有する場所だった。
俺の家から更に坂を登った所にロープウェイの駅があり、それを利用して山頂へと通う毎日であった。
ロープウェイのフリーパスも、トウカは新たに正式メンバーに加わったタマキの分も含めて、どこからともなく調達してきたのであった。
トウカ自身も高校最後のテニスの大会の出場を蹴って、宇宙防衛軍に加入したのだった。
何でもあの事件以来、あの時の緊迫したドキドキ感が忘れられなくなって、他の事が急につまらなくなったらしい。
今日も例の如く、俺たちはログハウスに集合して、トウカの入れてくれた紅茶を飲んでいた。
「いやー、今日の訓練もキツかったなー。」
ハクは、ソファーの背もたれにダランと持たれて言った。
実は、ここで行っている能力訓練の教官はタマキが務めている。
「えへへ、ハクにゃんは注意力散漫だからだよー。集中力とイメージ力が大切なのです!」
木目の鮮やかな大きいロッキングチェアに腰掛けたタマキが、得意気に右の人差し指を宙に回しながら言った。
「それはそうと…タマキ。この前の自警団との戦いの件なんだが…あの攻撃はどういったものなんだい?」
みんながすっかり訊きそびれていたことをアユハルは尋ねた。
「そう言えば、まったく躊躇なくあんな物騒なものをよく平気でばら撒けたよなー。」
ハクも思い出したように言った。
「そ・れ・は・だねー。」
再び立てた右手の人差し指の先端を鈍く光らせ、その先に以前見たのと同じ水色の矢のような細長い物体を形作りながらタマキは得意気に話し出した。
「これは、鈍く光ってるから太く見えるけどー。ホントはすごーく細いんだよー。」
「ほうっ!」と皆が身を乗り出してきた。
すると途端にその物体は弾けて消えたのであった。
「ふっふっふー。ただでは教えてあげないもんねー。」
「えー!?」
一同固まった。
「タマキぃ、なんか条件みたいのがあるんでしょ?なんとなく想像はぁ出来ちゃうけどぉ。」
全てお見通しのような雰囲気でタケゾウが言った。
「えー。じゃあタケにゃん当ててみてよー。」
ちょっとムッとした様子で口を尖らせタマキが言うと、タケゾウはアユハルに何かしら耳打ちしだした。
するとアユハルは、タマキの方に向き直りうつ向き加減に眼鏡を外し、前髪を右手で払うしぐさと同時に眼を閉じたまま右斜め上に頭を踊らせ、スっと眼を開け鋭くも優しげな眼光でタマキを捉えつつ、
「タマキ、頼むよ。教えてくれないかい?」
テーブルに両肘をついた状態で両手の指を絡め、その上に顎をのせ上目使いに言った。
ズッキューーン!!
という音がここまで聞こえて来そうな勢いで全身を逆立たせ、顔を上気させ両手で口元を押さえたタマキの目には、ハートマークが浮かんでいた。
次の瞬間、瞬間移動でもしたかと思うほどの高速でアユハルの右腕に絡み付いたタマキは、その腕に見た目にそぐわない大きな二つの肉まんを押し付けつつ、
「アユにゃんには、何でも教えてあげちゃうよー。何から教えてほしいのー?」
これには、さすがのタケゾウも想定外な反応のようでのけ反り顔をひきつらせ笑っていた。
で、当のアユハルは、至って平静を保ちつつ、
「タマキ、ありがとう。恩に着るよ。」
と答えた。
―こいつは正真正銘の年上萌えなんだな…同級生相手だと揺るぎもしない。
タマキの説明は、こうだった。
細い針のようなものを人体のある部分に撃ち込むと、激痛と共に一定時間体が麻痺するのだそうだ。ただ、点に限りなく近い面のポイントのために正確さが必要なのだが、それぞれの針にそのポイントの情報をインプットすることで勝手にそのポイントめがけて飛んでいくのらしい。
因みにその物質の成分は生理食塩水の氷らしく、そのまましてても自然と消えて無くなるエコな武器でもあるようだ。
その話題で盛り上がっているなか、タケゾウは一つの疑問について考えていた。
転生するときは以前の姿に出来るだけ似せようと申し合わせていたはずだが…
あんな感じの女の子は居なかった…
一体彼女は何者なのか…?
ん!?ちょっと待てよ…まさかな…
タケゾウの脳裏に一人の人物の姿が浮かんでいた。
あれは転生前のWill Diver候補生として研究に特訓に励んでいたときだ…
いつもアユハルを陰から見つめる影。
話すことも近づくことさえ出来ない様子でいつもモジモジしていたあいつ…
コードネーム…確か08だったか。
なるほどやつなら見た目とは裏腹に技量、集中力共にトップクラスだったので、あれくらいの芸当ならやれそうだ…
ただ…
…
ただ、やつは男だ!!
外見は、女子と見間違うほど華奢で小さくて…
そういや、猫大好きだったなー。
そう、それで大の甘党だった!
で、そいつの口癖が…
タケゾウは、タマキの右側に回り込み耳元で、
「なんと言っても、おやつで食べるなら…」
「キマタの栗羊羮イチゴチョココーティングでしょ!!」
タマキは、即答で返しハっとして…
振り返りざまに口元に人差し指たててウインクをした。




