俺の1泊2日の果樹園ツアー。その3
俺たちは、大きな屋敷のリビングでくつろいでいた。
赤い足首まで埋まりそうなフカフカの絨毯の上に、大きな大理石で出来たテーブルが存在感を誇示していた。
その周りを囲むように高級そうな白いソファーが立ち並んでいた。
大理石のテーブルの上には、食べたことも無いような豪華な料理が、これでもかと言うように並んでいた。
俺たちは、マナーなんて知ったことかと、無心でそれらをほおばっていた。
ここは、先ほどの原っぱからほど近くにある、トウカの別荘であった。
後で聞いたのだが、トウカの実家は何の商売をしているかは知らないが、大金持ちなのだそうだ。
先ほど拘束した武装集団は、どうやらこの国の自警団の1隊だったようで、「軍」と繋がっていて、我々「Will Diver」を「軍」に引き渡すのと引き換えに、金銭と将来にわたっての身の安全の保障を約束されていたらしいのだった。
そこで、我々の情報を我が高校に潜入させている自警団のスパイから入手して、俺に好意を寄せているトウカを利用して、いろいろと策を練っていたようである。
ともかく、彼らを自警団本部に連行させて一件落着となったのである。
「みなさん、本当にごめんなさい。」
トウカは、また泣きそうになりながら謝ってきた。
「もう、全然いいよぉ。気にしなぁい。トウカちゃんも騙されてたんだしぃ。」
タケゾウが口に物を頬張りながら、へらへらとした口調で言った。
「そうだぞ!こんなにうまいもの食わしてもらってるのに、文句なんて一つもないぞ!」
ハクも上機嫌である。
アユハルも澄ました顔をして、上品に食べ物を口に運んでいた。
ボタンは、頭の上に氷枕を載せながらぐったりとオレンジジュースを飲んでいた。
「ねえ、ねえ!フユにゃん、タマキどうだった?かっこよかった??」
俺の周りをピョンピョン跳ねながら、褒めてほしそうに期待の眼差しを向けていた。
「そうだな。今日はタマキのおかげで助かったもんな。ホントかっこよかったよ。」
そう言いながら、タマキの目の前にこぶしを差し出した。
タマキは、「おおっ!」っと言わんばかりに目を輝かせ、俺のこぶしに自分のこぶしをコツンとぶつけた。
「きゃーっ!!」
どうやら、感極まったようである。
「ところで…」
俺は、アユハル、ハク、タケゾウの方に向きなおして、
「あのフォーメーションにあのセリフ。あと、あの技の名前?…あれはなんだ?」
半ば呆れた顔して訊いてみた。
「ほう…」
アユハルが、眼鏡を光らせ手にしていたフォークとナイフを上品に皿に置いた。
「フユも参加したいのかい?だったら新たなフォーメーションを…」
「違ぁーう!断じて違う!!てゆうか、お前ら!あんな仰々しいネーミングつけながらのあのしょっぱい攻撃はなんだっつーの!?」
「自分だって、期待させといて万国旗だすマジック披露したくせに…」
「ねぇ…」
ハクとタケゾウが、ブツブツ文句を言っている。
「ぐぬぬ…」
返す言葉が無い…
「フユもそうだったと思うが、相手に対して手心加えようと躊躇してしまうとああなってしまうのだよ。」
アユハルは、説明した。
「まあ、俺たちも久々だったんで加減が掴めなったんだよ。」
頭を搔きながら、ハクが言った。
「元々、ああいった使い方ぁ?そういった目的の能力じゃないしねぇ。」
ジュースをすすりながら、タケゾウも続いた。
「ふむ、まあその件はいいとして…あの滅茶苦茶な跳躍力はどういう原理だ?」
俺は思い出したように訊いた。
「あれはね、自分の足元に大きなバネをイメージしたり、自分の足元の空気の圧力のベクトルを操作することで可能だよ。タマキが崖からダイブした時、その着地の瞬間もその応用を使ったのだろうね。」
なるほど。相変わらず分かりやすいよ、アユハルくん。
「それにしても、タマキもこちら側の人間だったとはね。驚きだったよ。」
ハクは、タマキの方を見て言った。
トウカと談笑していたタマキは、こちらに気付きピースサインをしてウインクして見せた。
なにはともあれ、いろいろと謎が解けてきた。
その一点では、意味のある旅行だったのかもしれない。
向こうでは、復活したボタンとトウカとタマキで、女子会よろしくトークに花が咲いているようであった。
―ふむ…
―そういや、宇宙防衛軍に正式入部していない件も含めて…
―今回の旅行の件も不参加を申し込んでいた件。
―タマキって、実はかなりやり手なのではないのか??
―あの立ち居振る舞いも周りを欺くための擬態!?
ぷっ!
思わず吹き出してしまった。
どっちでもいいや。
少なくとも敵じゃないみたいだし。
ともかく、この激動の一日もほのぼのと過ぎ去って行くのであった。
次の日―
「みなさんには是非とも私の果樹園での果物狩りを楽しんでいただきたかったのですが…」
またまた申し訳なさそうにトウカが言いだした。
「時間も無い事なので、今朝方使用人の方々と共に私が取ってきた果物で申し訳ないのですが、これをどうぞお持ち帰りくださいね。」
果物屋でも始めるのかと思うほど大量の、しかもいろんな種類の果物の入った籠を、手渡してきた。
「お帰りは、うちのリムジンにて、是非ご自宅までお送りさせてくださいね。」
そう言うトウカの手が指す方を見ると…
なんということでしょーう。豪華なリムジンが鎮座して要るではありませんかー。
屋敷の前で手を振るトウカに別れを告げて、我々の乗る豪華リムジンは、一路神戸市へと向かったのであった。
めでたしめでたし。




