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六角瞳  作者: 有寄之蟻
真相編
96/114

・96・欲情

にこにことした、幸せそうな表情で、キムはキスした左手に頬ずりした。


その感触もまたミーの身体に痺れを呼んで、小刻みに身体が震える。


なんだかよく分からない感覚が忍び寄って来て、ミーは恐くなった。


トロトロとおぼつかない頭で、キム、と呼びかける。


「……なに?」


答える声はしっとりと低く、耳を溶かすような熱を持っていた。


それにもコワイ、コワイ、と怯えながら、ミーは言葉を続ける。


なに、今の。


「……何って?」


焦らすようにキムが問い返したのに、むくむくと膨らんだよく分からない感情を抑え込むように、ミーは俯いた。


「……ミー?」


囁く声が持つ熱がミーの耳を侵食していくのが恐くて、ミーはたまらず腕を引いてキムから離れた。


コワイよ、キム、どうしたの……、とこぼす。


自分を抱きしめてキムを怪訝に見れば、驚いたような顔で、透明な紫がミーを見上げていた。


その口がアワアワと開閉し、ばっと手で顔を隠すと、キムは顔を背ける。


じっと様子を見ていれば、しばらくして、


「…………本当に、ごめん」


重くキムが言った。


あの不可思議な熱はなくて、良かった、と知らずミーは安堵する。


手を下げ、緩慢に振り向いたキムは泣きそうな笑みを浮かべていた。


瞳は、キム本来の色素の薄い茶色になっていた。


六角瞳の時、つまりヘキサである時だけ、キムがおかしい。


その事に気づいて、ミーはその理由に思いあたる。


それすなわちーーミーが食べたくて仕方がないのではないだろうか、と。


とてもとても、複雑な気持ちが浮かんだ。


これはヤバいんじゃ、とも思う。


昨日ーーつい昨日の夜、キムはミーを食べる事は絶対にない、と明言した。


その気持ちが本物である事を、ミーは疑っていない。


しかし、キムはミーがおいしそうだと思う事は否定していなかった。


食べたくなる事も、同様にだ。


その上で食べない、食べる事はないと宣言したが、それはあまりにも困難なもののように思えてきた。


なぜなら、キム本人の気持ちはどうであれ、ヘキサになっている時、おそらくキムは自身をコントロールできないくらい、ミーに惹きつけられているのだろう。


だから、一瞬ミーに気かつかず、人間瞳に戻すと正気を取り戻す。


もしかすれば、気を抜いてしまうと自然に六角瞳になってしまう可能性すらある。


ミーとキムは、外でいるよりも、部屋の中で二人きりでいる時間の方が多い。


それゆえ、キムは頻繁に六角瞳状態にいて、ミーは紫の瞳の方が見慣れていた。


それが、昨日から、キムは一切六角瞳にしていなかった。


思えば、その時点でおかしかったのだろう。











サブタイトル:欲情(もちろん、食欲的な意味で)











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