・82・結局
こんばんわ、と声をかければ、
「………っえ!?あ!ミーちゃん!来てくれたんだ!!っていうか、えっと、こんばんわ」
数秒遅れてやっと気づいたのか、あわあわと立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
服装はシンプルな青いワンピースに黒いパーカーを羽織り、黒いクロックス。
だいぶ日にちが進んだとはいえ、まだまだ寒いといえる気温にしてはかなり薄着に思われる。
お風呂に入った後なのか、いつもふんわりとしているアッシュブラウンの髪はしゅっと落ちている。
カラコンは相変わらずで、綺麗な緑の瞳が上目遣いにミーを見下ろしていた。
ミーは曖昧な笑顔を浮かべながらも、複雑な心境でリリを見ていた。
ミーよりわずかに背が高いのに、性格のせいか、どこかオドオドしていて、幼い可愛さと女の子っぽさがあるリリが、自分を狙ってるとは、やはり思えない。
それに、リリがキムのどんな『隠し事』を話すのかも、全く見当がつかなかった。
キムはヘキサの能力を全開にして、どこか公園周囲にいる。
一応、リリにはミーが一人で来たと思わせるために、キムとは近くで別れて来たのだ。
しかし、もしミーに危険が迫れば、すぐにでも助けられる距離にはいるだろう、とミーは考えていた。
待たせちゃったかな?とミーが聞くと、全然そんなことないよ!と手を振って否定したので、安心する。
そしてもう一つ、寒くないの?と質問すれば、リリはハッとしたように自分の身体を見て、
「うん、その、それはね、えっと、後で説明するねっ」
と一人で頷きながら返答する。
もちろん、ミーはリリがヘキサだと知っているため、彼女が寒くない事は分かっている。
おそらく、リリはヘキサアイズの事を説明する際に言うつもりなのだろう、とミーは思った。
ふーん?と曖昧に頷いて、ミーから話を切り出す。
リリちゃんが知ってるキムが隠してる事ってなに?と。
するとリリはすっと表情を真剣なものに変え、ミーの腕を掴む。
「ここは人目につくかもしれないから、もうちょっと暗いとこに行ってもいい?」
声を潜めたリリにミーは何も疑わずに了承し、リリについて行った。
といっても、そう広くはない公園の、外灯の範囲からかろうじて外れている、暗がりのそばだ。
ミーは散々キムに警告されながらも、とうとうリリを警戒する事はなかった。
ヘキサの瞳やテールを見せるためには、人目についちゃいけないもんね、なんて事を考えていた。