・80・はっきりさせたいから
『……オレは、ミーが必要な事は教えてるよ…?』
囁くように紡がれた言葉に、ミーは大きく後ろめたさを感じた。
それはミーも分かっている。
そしてそれがミーの守るため、というのも。
しかし、それでも気になるのは仕方がない。
キムの言い様はあまりにも意味深で、忘れるには衝撃的な事が多いのだ。
ミーはそんな複雑な感情を押し込めて、ただ黙って頷く。
『……あいつが、ミーを狙ってるって事…忘れたの?』
今度は首を横に振って、忘れてないと否定する。
それだって、衝撃的でかつ理解不能な発言の一つだ。
リリと話した事で、やはりリリはキムの事を異性として狙ってたのではないか、とミーは思っている。
ミーを狙うという意味が全く分からないのだ。
しかも、キムはその意味を明かそうとはしない。
本当にそれは、ミーは知っている必要がないのだろうか?
そう反発のような、猜疑心のようなものを感じてしまうから、いっそリリの話を聞いてはっきりしたいのだ。
キムを信じているからこそ、疑ってしまうような要素をなくしてしまいたい。
それに加えて、リリに対する自分の気持ちの持ち様もはっきりせさたい、とミーは考えていた。
リリはヘキサアイズであり、キムが交流を禁止したからミーから積極的に関わる事はしていない。
しかし、実際彼女とは三回程しかまともな会話をしてない訳で、好きになるのはともかく、嫌う要素もないのだ。
性格は嫌いではないし、普通に仲良くする分にはミーにはなんの問題もない。
今夜聞く、リリの『隠し事』の内容次第では、キムも方針を変えてくれるのではないか、と期待を持っていた。
いざとなったら、私もテールでなんとか頑張るから、とミーが精一杯説得すると、大きくため息を吐いて、渋々キムは了承した。
ーーそして……いってらっしゃい、と送り出されてバイトを終えたものの。
質量さえ感じるキムの視線が痛い。
無言なのに、何か責められているように思えてくる。
いや、実際キムは責める気持ちを込めているかもしれない。
自分が一生懸命気を張ってミーを守ろうとしているのに、当の本人から危険に向かっていこうとしているのだ。
ミーは急激に申し訳なくなって、心中の呟きがコワイからごめんなさいに変わった。
無意識に服のすそをギュウっと握りしめていれば、頭上からはぁっと呆れたような息がもれる。
それにばっと顔を上げると、はっきりと不機嫌です、と表現するキムと目があった。