・79・隠し事、にはできない
ミーは一応自分がした解釈をリリに確認し、当たっていたので、自分が空いている時間は夜くらいしかないと伝える。
それにリリは少し考えた後、今日の夜はどうかと尋ねてくる。
ミーはすぐに了承した。
リリの住んでいる場所はミーとは反対方面のため、大学付近の公園で会う事に決まった。
「あ!絶対絶対、キムさんに言っちゃだめだよー!」
予鈴の音楽が鳴り始め、慌てて移動を開始しながら、そう叫んだリリに、それは無理かなぁと内心思いながらも、ミーは分かったと返事する。
嗅覚の特化しているキムだ。
ぶつかっただけで分かるなら、こんなに長く近くにいたら、絶対にリリと接触した事はバレるだろう。
キムがまた静かに怒るかもしれない、という可能性に思い当たり、ミーは冷や汗が出そうになる。
怒ったキムはコワイ。
ミーのトラウマの一つだ。
できればそうなるのは避けたい。
講義室に着き、適当な席に座りながら、とりあえず今日あった事を正直に話そう、と小さな決意を固めたミーだった。
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コワイ。
コワイコワイコワイ。
コワイよー、とミーは内心で呟き続けていた。
時刻は9時半過ぎ、ミーのバイトが終わって少し経っている。
路肩に止められたバイクの黒いシートに目を固定して、上から突き刺さる視線から必死に気を逸らそうと試みていた。
バイト先から出てきたミーがすぐ前の道路にいたすらっとした後ろ姿に駆け寄ったのが数分前。
張り付いた微笑みで振り返り、……お疲れ様とキムは一言。
それからただじっと言葉もなくミーを見つめだした。
まっすぐで透明な視線の圧力に耐えられずミーが俯いて、現在。
キムは怒っている、確実に。
ーーリリと接触した事と、その会話の内容を伝えたのは、キムにバイト先まで送ってもらった後だった。
その前に話すのも、それより後に話すのもタイミング的にまずいと考え、そうした。
キムは数秒だけ六角瞳に変化させ、優しげだった笑みをにっこりと深くする。
あ、怒った、と思ったミーは、すぐにでもバイト先に駆け込んで逃げたくなった。
しかしキムが何か言う前に、ミーは自分の考えを訴える。
それは、リリが何を知っているのか知りたい、キムについてきてほしい、もし危ない事になったら全力で逃げるから、というもの。
うんうんと聞いていたキムは、ゆっくりと目を細めた。